目次
『小児および若年成人における突然死』の刊行にあたって
原著(第3版)日本語版刊行によせて
原著第3版序文
第1版、第2版への書評抜粋
謝辞
第1部 序論
第1章 小児における突然死:概説、ならびに問題点の整理
はじめに
突然とは、どのくらい「突然」であるのか?
予期せぬとは、どのぐらい「予期しえない」ものであったか?
死亡前に全く健康状態に問題はなかった、とした場合の「全く問題ない」とは何を指すのか?
突然死をきたす病態のうち、主に報告が成人例のみに限られているものや、小児では理論的に起こりうるとしてのみ報告されている病態というものは存在するのか?
概説
頻度
突然死の原因
乳幼児ならびに小児の突然死症例の調査に関する問題点
第2部 非意図的損傷
第2章 事故
はじめに
損傷のタイプ
多発外傷
大動脈損傷
心臓震盪
腹部外傷
頭部外傷
溺死
窒息
塞栓症
熱傷
感電
中毒
異食症
違法ドラッグと薬物乱用
農場での死亡
穿通性損傷
銃火器損傷による死亡
動物との接触による死亡
高体温症
脱水症
低体温症
スポーツ関連死
医原性損傷
その他
事故と災害で死亡した事例の身元特定
第3部 意図的損傷
第3章 虐待死、ならびに自殺
はじめに
死亡現場調査
鈍的外力による頭部外傷
皮膚軟部組織損傷
骨折
胸腹部損傷
熱傷
銃火器損傷(射創)
鋭器損傷
所見に乏しい虐待死、稀な虐待死、およびその他の虐待死
性虐待/性暴力被害
医原性殺人
代理によるミュンヒハウゼン症候群
心肺蘇生にともなう損傷
宗教に関連する虐待(ritual abuse)
自傷
「虐待と酷似する病態」
心中(Murder-suicide)
自殺
専門家証言
第4部 自然死(内因死)
第4章 感染症
はじめに
心血管系疾患
呼吸器疾患
中枢神経系感染症
血液感染症
消化管感染症
泌尿生殖器感染症
全身性感染症
第5章 心臓疾患
はじめに
感染症および関連疾患
先天性心疾患
先天性心疾患と遺伝子
心筋症
筋ジストロフィー
弁膜異常症
腫瘍
刺激伝導障害
剖検時に所見が認められない病態(negative autopsy)
その他の病態
第6章 脈管疾患
はじめに
大動脈の異常
冠動脈異常
静脈の異常
先天性血管異常
肺血管異常
その他の血管障害
第7章 呼吸器疾患
はじめに
気管支喘息
上気道閉塞
気管支肺異形成症
急性肺炎
急性間質性肺炎
嚢胞性線維症
広範性肺出血
特発性肺ヘモジデローシス
緊張性気胸
Pickwic症候群/肥満
第8章 神経疾患
はじめに
脳卒中
腫瘍
てんかん
代謝疾患
感染症
中枢神経系の構造異常、発達異常
Rett症候群
Lafora病
Friedreich失調症
結節性硬化症(Bourneville-Pringle病)
神経線維腫症
透明中隔-視神経異形成症
多発性硬化症
急性出血性白質脳炎(Hurst病)
Guillain Barr
Djrine Sottas病
Joubert症候群
筋ジストロフィー
白質ジストロフィー
家族性自律神経失調症
先天性中枢性低換気症候群
嚥下性失神
新生児驚愕症
低酸素性虚血性脳症
乳児突然死症候群(SIDS)
第9章 血液疾患
はじめに
異常ヘモグロビン症
悪性血液腫瘍
凝固異常症
血小板疾患
貧血
溶血性尿毒症症候群
多血症
脾臓疾患
第10章 消化器疾患、および泌尿生殖器疾患
消化器疾患
泌尿生殖器疾患
第11章 代謝疾患、および内分泌疾患
代謝疾患
脂肪酸酸化異常症
炭水化物代謝異常症
アミノ酸代謝異常症
尿素サイクル異常症
有機酸代謝異常症
その他の代謝異常症
高脂血症
Menkes症候群
Reye症候群
出血性ショック脳症症候群
その他の疾患
内分泌疾患
第12章 その他の自然死
はじめに
結合織疾患
骨系統疾患
皮膚疾患
筋疾患
染色体異常/発達遅滞
免疫系疾患
第5部 母体疾患、胎児期疾患、および新生児疾患
第13章 母体疾患、胎児期疾患、および新生児疾患
はじめに
妊娠合併症:母体死亡
妊娠合併症:胎児死亡
新生児殺
水中出産による死亡
死後分娩(棺内分娩)
第6部 乳児突然死症候群
第14章 乳児突然死症候群
はじめに(歴史的背景を含めて)
疫学
診断
剖検実施前の諸段階
病理学的特徴
SIDSを引き起こしうる各種病態
虐待/殺人による死亡
結語
補足
補足Ⅰ 剖検に関しての情報を記載したパンフレット
補足Ⅱ 突然の予期せぬ(説明困難な)乳児死亡調査――報告用紙
補足Ⅲ 小児の司法解剖ガイドライン
補足Ⅳ 剖検に関する国際標準プロトコル
補足Ⅴ-1 CDC作成の成長曲線
補足Ⅴ-2 日本の成長曲線
補足Ⅵ 乳児期の組織重量一覧
補足Ⅶ 20歳未満の体重別標準心臓重量
補足Ⅷ 虐待の可能性がある場合の剖検時チェックリスト
補足Ⅸ 代謝性疾患の可能性がある場合の剖検時チェックリスト
監訳者あとがき
索引
症候群索引
微生物索引
前書きなど
『小児および若年成人における突然死』の刊行にあたって
死亡――これは、医学・医療がもっとも避けたい事象の1つであるが、ヒトは必ず死亡し、死亡には必ずその原因が存在する。多くの場合、年齢が高い人から順に死亡していくが、若年者が先に死亡することもある。これは逆縁といわれ、その悲しみは消えることなく、逆に強まるともいわれている。
小児や若い人を対象とする医療では、その保護者に対応する場合が多い。突然死亡した場合の経緯はいつも同じである。死亡した小児の保護者は、必ず「何故、子どもは死ななければならなかったのか?」と詰問する。そして、「二度と同じことが起こらないようにして欲しい」と切望する。時には、「あの時、公園に行っていいと言わなければ、あの子は遊具から転落死しなかったかもしれない」と自分自身を問い詰めることもある。
突然死に関わった医師は、「できうる限りの検査をしても何もわからない。どうしたらいいのか? 医師にできることは何なのか?」と無力感に苛まれる。しかし、すぐに次の患者が目の前に現れ、その治療に追われることになる。
こうした状況が毎日起こり続けているが、多くの場合、問題が解決することはなく、漫然と日々が過ぎていく。
最近、死亡した乳幼児の診療録を調査する機会があったが、突然死の事例では、なぜ死亡したのかまったくわからない事例がかなりの数みられた。中には、診療録はなく、救急搬送の記録であるA4の用紙1枚に、住所、氏名、生年月日が記載され、記録部分は「心肺停止」とだけ書かれたものもあった。臨床医からすれば、あとは警察や法医学の仕事で、自分たちの関わる領域ではないと考えたものと思われるが、これが現実なのである。すなわち、医学の領域の中では、「突然死」はそれぞれの病態の最終結果としてのみ認識され、「突然死」の原因を究明し、次の診療に役立てるという考えはほとんどみられない。
この本は、「突然死」を医学の一つの領域として明示しており、小児の突然死のすべてが網羅されている。今回は第3版で、前の版に比べ突然死の年齢層が幅広くとられている。事故によって死亡した事例では、みる機会がない写真がたくさん収載されている。各章末尾に示された文献の引用件数は膨大である。乳児突然死症候群(SIDS)にも1章が割かれ、1000編を超える文献が示されている。まさに小児の突然死の成書となっている。突然死を経験して困ったら、まずはこの本を開いてみるのがよい。
(…後略…)