目次
1章 ヘルム一族の終焉
2章 一介のガイジン
3章 養子縁組
4章 曽祖父ユリウスの足跡を追って
5章 ユリウスとヒロ
6章 新天地での試み
7章 “あいのこ”たちの人生
8章 マリコとエリック
9章 戦争のはざま、文化のはざまで
10章 関東大震災
11章 戦争の足音
12章 日本からアメリカへ
13章 「ヘルム一家はジャップだ!」
14章 悲喜こもごもの帰郷
15章 占領と恋
16章 シンチンゲル一家
17章 ドンとバーバラ
18章 横浜での日々
19章 能登への旅
20章 日本人の遠縁
21章 恥から誇りへ
22章 日本人のルーツを探して
23章 血のつながり
24章 より強い絆へ
25章 もうひとつの“山手”からの眺め
終章
日本語版へのあとがき
解説[大西比呂志]
前書きなど
解説[大西比呂志:フェリス女学院大学教授/日本近現代史・横浜学]
二〇一三年春、日米関係史研究で著名なあるアメリカ人教授から「来週、あなたがきっと興味を持つ本が出版されます」とメールが送られてきた。しかしその時すでに私はこの本のことを知っていた。前年末、横浜のインターナショナルスクールを出て長くアメリカに住む知人たちが教えてくれていたからである。かつて横浜に住んだことがある「外国人」の間で、いち早くこの本は話題になっていたのである。
「横浜ガイジン」の世界
著者レスリー・ヘルム氏は一九五五年横浜で生まれ、横浜インターナショナルスクール(YIS)を卒業して、ロサンゼルス・タイムズ日本支局長を務めるなど、日米を往復して活躍しているジャーナリストである。本書は、曽祖父ユリウス・ヘルムと妻小宮ひろを第一世代として、その子孫の各世代、さらに著者夫婦が迎えた日本人の養子を第五世代とする一五〇年にわたる一族の歴史を、ジャーナリストらしい旺盛な好奇心と精力的な取材で明らかにしたファミリーヒストリーである。
近年、こうした横浜に住んだ外国人の自伝やファミリーヒストリーの出版が相次いでいる(文末の文献参照)。これらはまだ英語版しかないが、戦前戦後、アメリカ人、ロシア人、ユダヤ人、ドイツ人、アルメニア人ほか、多彩な国と地域から移り住んだ「横浜ガイジン」(ジョージ・ラブロフ)たちの物語である。これらを読むと、今日に比べて交通事情も情報入手もはるかに不便で、また戦争や紛争など国家間の障壁が高かった時代に、自力で幾度も国境を越え、新天地を切り拓いていった彼らのグローバルな生き方は、単一の国家と民族の歴史、ナショナルヒストリーにとらわれがちな日本人には斬新である。横浜の外国人社会には、そうした世界をめぐるコスモポリタンたちのドラマが無数に隠されており、本書もその一つである。
(…後略…)