目次
はじめに
謝辞
第1部 DBTの主な理論的特徴
1 原則主導型の治療法
2 統合的な治療法
3 弁証法の原理
4 情動の優位性の重視
5 能力と動機づけの欠如に関する交流理論
6 学習理論Ⅰ――古典的条件づけ
7 学習理論Ⅱ――オペラント条件づけ
8 診断への行動主義的アプローチ
9 禅の原理
第2部 DBTの主な実践的特徴
10 個別的機能を果たすモダリティの展開
11 電話でのスキル指導
12 チームによるコンサルティング
13 システムを取り扱う
14 段階に沿った治療の構造化
15 プレ治療におけるコミットメントの強化
16 ヒエラルキーに即した行動の標的化
17 クライエントの現在の状況や生得的な能力の承認
18 行動分析の工夫
19 解決法分析におけるCBT手続きの統合
20 適応的な手段の使用
21 さまざまな感情への曝露
22 治療文脈における随伴性マネジメント
23 認知行動を変化させる
24 弁証法的なあり方
25 自己開示の利用
26 直面化と非礼なコミュニケーション戦略
27 クライエントへのコンサルティング
28 クライエントによるセラピー妨害行動への対処
29 セラピストを治療する
30 有効性と効果のエビデンス
監訳者あとがき
参考文献
索引
前書きなど
はじめに
弁証法的行動療法(DBT)は、境界性パーソナリティ障害(BPD)と慢性的な自殺傾向をもつ人の問題に対処するために生み出された精神療法的アプローチである。本書では、ほかの認知行動療法とは異なるDBT独自の原則を中心として、この治療法の原則を明らかにしていく。当シリーズの本に共通しているように本書も二部構成になっており、第1部では理論を、第2部では実践を扱う。第1部の理論編では、DBTの三つの理論的背景――行動主義(6~8章)、弁証法哲学(3章)、禅(9章)――に関連する主要な特徴を説明する。第2部の実践編ではDBTの実践に焦点を合わせ、DBTの哲学的・理論的根拠が治療の構造と戦略にどのように取り入れられているのかという点を論じる。
DBTのベースとなっているのは、BPDの情動調節不全の原因を説明づける生物社会学的な交流理論である(4章)。情動の生物学的脆弱性をもつ人が、内的経験と顕在的行動を組織的に承認しない環境で育てられた場合は、自分の情動やそのほかの実生活の局面に対処する能力および動機づけが十分に発達することがない(5章)。DBTの治療プログラムはこういった能力と動機づけの不足に包括的に取り組み、クライエントの種々の併存疾患をヒエラルキーに沿って標的化し、複数のモダリティとステージによって治療する(11~17章)。DBTは認知行動療法の戦略(19~24章)と禅(9・21章)の統合から生まれた。この対照的な二つの視点を総合して一貫した原則とするために、弁証法哲学(3・25章)が用いられている。
(…後略…)