目次
はじめに[佐藤優]
第1章 日本の社会運動と向坂逸郎
序――佐藤優と社青同(山﨑委員長)の関わり
向坂逸郎と労農派マルクス主義
向坂逸郎――その人物像
三池闘争への影響力
平和革命論とマルクス・レーニン主義
宇野弘蔵との関係
第2章 日本の戦後社会主義運動の展開
労農派の労働運動
学生運動と地域闘争との狭間で
運動内部の分派闘争
反合理化闘争と労働者の疎外
加入戦術とは
内ゲバの論理と内部矛盾
三池闘争と反合理化闘争
60年代以降の社青同の分岐
社会党・社会主義協会とソ連との関わり
世界的文脈での非共産党マルクス主義の再評価
ソ連崩壊と日本の社会主義
非共産党マルクス主義の伝承
第3章 ピケティ『21世紀の資本』と『資本論』
ピケティをどう評価するか
「ピケティ現象」と資本・労働概念
ピケティの読者像とは
ピケティの語らない植民地と民族問題
第4章 『資本論』と社会主義・資本主義の行方
「国家」と「社会」をどうとらえるか
ソ連における地政学
社会主義と国有化の問題
ソ連内部の実態とは
スターリニズムとトロツキズム
民族問題とスターリン主義
「検証・ソビエト政権」の意義
社会主義国の体験をリアルに総括する
第5章 労働価値説の立て直しと労農派マルクス主義の再発見
労働価値説を立て直す
資本主義の法則について
「資本主義の終焉」か?
日本労農派マルクス主義思想を継承する
日本の労働運動・社会主義運動の再生
大体平等・大体計画的
中国社会主義をどう見るか
日本人の「思想の鋳型」
終章 日本社会は変えられるか、変革の主体はどこにあるか
日本の人権問題
日本の貧困問題
革命か、システムの転換か
本書をさらに理解するための年表
おわりに[山﨑耕一郎]
前書きなど
はじめに
(…前略…)
本書『マルクスと日本人』は、私が読者に是非伝えたいという強い熱意を込めて作成した本だ。私のものの見方、考え方の基本は、プロテスタントのキリスト教だ。それと同時に、私はマルクスの思想から強い影響を受けている。現在も、マルクスが『資本論』で展開した資本主義社会の分析は、基本的に正しいと考えている。私の資本論理解については、『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014年)、『いま生きる階級論』(新潮社、2015年)、池上彰氏との共著『希望の「資本論」』(朝日新聞出版、2015年)などで明らかにしてきた。しかし、私がマルクス主義からどのような影響を受け、また、マルクス主義のどこに異論を持っているかについて、詳しく説明する機会がなかった。私の世代でマルクス主義の影響を受けた人々の大多数は、日本共産党(あるいは日本民主青年同盟=民青)か、中核派、革マル派、ブント(共産主義者同盟)など新左翼諸党派の思想を通じてマルクスを理解した。私の場合は、これらの潮流とかなり異なる日本社会党左派に強い影響を与えた労農派マルクス主義の影響を受けた。高校2年から1年間の浪人時代を経て、大学2年まで、私は日本社会主義青年同盟(社青同協会派)のメンバーだった。この組織は、学生運動の世界では目立たなかったが、労働運動、特に総評に強い影響を与えていた。また、学習活動を重視し、マルクス、エンゲルス、レーニンのテキストを体系的に勉強させることに組織活動の力点を置いた。ここで勉強した事柄は、私がマルクス主義を離脱し、キリスト教信仰に向かう上でとても役に立った。また、労農派マルクス主義的なものの見方、考え方は、外交官として、さらに職業作家として活動する上でもとても役に立った。
本書で詳しく記したが、山﨑耕一郎氏は、私が社青同にいた時期の組織のトップ、社青同中央本部委員長だった。最末端の同盟員であった私にとって山﨑委員長は「雲の上」の人だった。しかし、数年前に山﨑氏と個人的に知り合い、それから私たちはときおり会うようになった。私は山﨑氏と会うと、高校時代のクラブの大先輩に会っているような親しみを覚える。本書は、労農派マルクス主義というユニークな思想について伝える類例のない作品になったと自負している。
山﨑氏は、現在もマルクス主義者で、日本革命を真剣に考えている。私は、革命はもとより、政治に対する希望をほとんどなくし、いつか外部から「千年王国」が到来することを、急ぎつつ、待っている。
(…後略…)