目次
はじめに
第1章 カーボ・ヴェルデのクレオール音楽(青木敬)
1 はじめに――ソダーデの想いを奏でるカーボ・ヴェルデ音楽
2 歌謡モルナの歌詞から読み取るカーボ・ヴェルデ人の心
3 クレオール論――奴隷制から混淆性へ
4 おわりに――世界を航海する音楽
CD紹介
第2章 タンザニアのスワヒリ歌謡、ターラブの1世紀(檜垣まり)
1 はじめに――ターラブとの出会い
2 ダルエスサラームにおけるターラブ・クラブの歴史
3 人々を結ぶターラブ
4 おわりに
CD紹介
第3章 伝統とモダンのあいだ――あるグリオ一族の歴史(鈴木裕之)
1 はじめに――グリオとの出会い
2 マンデ・ポップスの発展とグリオ
3 伝統か、ポップスか
4 おわりに――消えた精霊
CD紹介
第4章 闘争の唄、チムレンガ・ミュージック(松平勇二)
1 はじめに
2 ジンバブエ社会とチムレンガ・ミュージック
3 マプフーモ音楽の真髄――格差とのたたかい
4 おわりに
CD紹介
第5章 情報で世界とつながる――アビジャン・レゲエの成立と展開(鈴木裕之)
1 はじめに――レゲエとの出会い
2 アビジャン・レゲエの成立
3 アビジャン・レゲエの展開
4 おわりに――リアルとヴァーチャルのあいだ
CD紹介
第6章 フェラ・クティのアフロ・ビートと、ナイジェリア音楽(塩田勝彦)
1 はじめに――フェラの死と出会い
2 フェラの生涯とアフロ・ビートの歴史
3 言語と民族の坩堝ナイジェリアとその音楽
4 おわりに
CD紹介
第7章 イマジネーションの共振――エチオジャズの世界的展開(川瀬慈)
1 はじめに――エチオピア音楽の近代化
2 新旧のエチオジャズ・プレーヤー
3 エチオピクス・シリーズをめぐる議論
4 おわりに――アジスアベバの夜
CD紹介
第8章 エチオピア表象の理想をめぐるジャム・セッション(川瀬慈)
1 はじめに――“無形文化”への認識
2 エチオピア移民への上映
3 バハラウィ系ミュージックビデオ
4 まとめにかえて
第9章 カメルーンの若者たちが望む世界――ヒップホップ・ミュージック制作現場から(矢野原佑史)
1 はじめに――ヒップホップとの再会
2 若者たちとの調査
3 アングロフォンの若者たちが望む世界
4 おわりに――変わり続ける世界と若者たち
CD紹介
映像で楽しむアフリカン・ポップス~DVD紹介
おわりに
前書きなど
はじめに
本書は、日本人によるアフリカ・ポピュラー音楽研究の成果を、学術的な研究作業をベースとしながら、一般の読者にも分かりやすいかたちでまとめたものである。
(…中略…)
○本書の執筆スタイル
本書は学術書であるが、ただの学術書ではない。執筆者は、一名をのぞいて研究者か、研究者を目指す大学院生。学問分野は、一名をのぞいて文化人類学。そして全員がアフリカに長期滞在してフィールドワーク(現地調査)をおこなっている。学問的訓練もそれなりに受け、調査を通してのデータも豊富に持っている。その気になれば、普通の学術論文集も書けるだろう。だが本書のコンセプトは「紹介」と「招待」。私たちは、この本を一般の人々や未来の研究者に読んでもらいたいと考えた。学問的訓練は受けていない、現地にもいっていない、でもなんとなくアフリカのポピュラー音楽に興味を持っていて、よく分からないけど気になって、もしかしたら実際にアフリカにゆきたくなったり、研究に興味を持つかもしれない……そんな人々に通じる言葉でメッセージを伝えたかった。そこで以下のようなコンセプトで本書をつくってゆくことにした。
まず、執筆者は中堅・若手の文化人類学者で、アフリカで長期フィールドワークの経験がある者とする。つまりたんなる音楽好きではなく、アフリカのポピュラー音楽を研究対象とし、専門的なフィールドワークをおこなって自分でデータ(これを一時資料と呼ぶ)を収集していることが条件となる。
つぎに執筆のスタイルであるが、執筆者がひとりの人間として、その音楽とどう出会い、現地にどうたどり着き、そこでどのような経験をし、それを学術的にどうまとめることができたか、というプロセスがわかるようにすることを目標とした。出発点は執筆者の「生の体験」「生の声」であり、それが各音楽の文化的・社会的背景とともに学術的に「料理」されてゆく。そこにあるのは、現地で生起する出来事を、調査者がみずからの中にインプットし、それを文化人類学の視点から分析して、文章としてアウトプットする、という一連のプロセスである。このプロセスこそがいわゆる「学問する」ということなのであるが、各研究者によって、目の付けどころ、分析の仕方、文章の書き方など、非常なバラツキがある。こうした各人の個性が研究の過程に内包されるところが文化人類学という学問の不安定なところであるが、同時におもしろいところでもある。
このように「ヒューマン」な部分をあえて露出するというスタイルをとるのは、既成の学術的言説からこぼれ落ちてしまう現地における体験を紹介したいという意図からであるが、同時に社会科学における客観性が自明なものではなくなった現在、各章が研究者と研究との関係性を考えるための材料となってくれるのではないか、という期待も込められている。
なお、本書は研究者以外の方々を読者として想定しているため、学術用語は使用せず、抽象的な議論は避け、注も付せず、参考文献は必要最小限にとどめている。だからといって書かれている内容が学術的でないとか、レベルが低いとかいうことはない。現時点における信頼すべき日本人研究者によるアフリカ・ポピュラー音楽研究の成果が詰まったショーケースとして、安心して読んでいただきたい。
(…後略…)