目次
はしがき[松本武祝]
序章 東北地方「開発」の系譜――国際的契機に着目して[松本武祝]
はじめに
一.東北地方開発政策史
二.東北開発の国際的契機
おわりに
第一章 軍馬資源開発と東北馬産――軍需主導の東北「開発」と一九三〇年代の構造強化[大瀧真俊]
はじめに
一.帝国日本の軍馬資源開発史
二.一九三〇年代の東北馬産と農林省の時局匡救事業
三.一九三〇年代の東北馬産と陸軍の軍馬購買事業
おわりに
第二章 人口問題と東北――戦時期から戦後における東北「開発」との関連で[川内淳史]
はじめに
一.過剰人口問題と東北振興
二.戦時人口政策と東北振興
三.戦後東北の人口問題と東北開発
おわりに
第三章 高度成長期における東北地方の電源・製造業立地政策[山川充夫]
一.高度成長期における東北工業のとらえ方
二.高度成長期における東北の経済成長と工業構造の変化
三.高度成長期の地域開発政策と東北地域
四.釜石製鉄所の合理化と鉄鋼企業城下町経済――岩手県釜石市の事例
五.原発誘致と東電企業城下町経済――福島県双葉地区
六.電機工場の進出と地域生産システム
七.高度成長と地域経済構造の再編――まとめにかえて
第四章 ネットワークの視点でみる東北地域の産業構造の発展と政策[坂田一郎]
はじめに
一.第二次世界大戦後の地域経済政策の歴史的変遷
二.東北の産業構造の発展史の概要
三.ネットワークの視点による山形ものづくりクラスターの分析
四.震災復旧と新たな東北の形成に向けて
第五章 釜石地域における「開発」と希望の再生――希望学・釜石調査を中心に[中村尚史]
はじめに
一.課題発見型の総合地域調査
二.釜石の来歴
三.地域再生への道――社会・経済分野を中心に
おわりに
第六章 東北地方経済史の新視点[白木沢旭児]
はじめに
一.「米と繭と馬の経済構造」――大瀧真俊報告をめぐって
二.出稼ぎ供給地としての東北――川内淳史報告をめぐって
三.南東北はなぜ工業化しえたのか――山川充夫報告をめぐって
四.ネットワーク分析の有効性――坂田一郎報告をめぐって
おわりに
第七章 いわき市小名浜アクアマリンパークの地域振興――大震災・原発事故とその後[小島彰]
はじめに
一.小名浜地域の特徴と観光
二.小名浜まちづくり市民会議の活動
三.アクアマリンパークとイオンモール
おわりに
第八章 低賃金労働力供給基盤としての東北の農業・農村[安藤光義]
はじめに
一.農家労働力の吸引・包摂
二.農地の転用と開発
三.農家調査結果にみる労働市場の展開の進展
おわりに
第九章 東北開発と原発事故をめぐって[岩本由輝]
一.exploitation型開発としての東北開発の極致
二.原発開設以前の福島県双葉地方
三.東北開発の新段階と東京電力株式会社福島原子力発電所の双葉地方進出
四.東電福島第一原発事故後に改めて「地域調査専門委員会報告書(各論)」を読む
五.結びにかえて
補章 政治経済学・経済史学会二〇一三年度春季総合研究会報告
「東北地方『開発』の系譜――国際的契機に着目して」コメントおよび討論の要旨[植田展大・棚井仁]
一.問題提起、報告、コメント
二.討論
あとがき[小野塚知二]
執筆者略歴
前書きなど
はしがき
二〇一三年六月二九日、東京大学において二〇一三年度政治経済学・経済史学会春季総合研究会(テーマ:東北地方「開発」の系譜――国際的契機に着目して)が開催された。小島彰・安藤光義両氏の司会により、松本武祝の問題提起につづいて左記の四名が報告を行った。そしてそれらの報告に対して、中村尚史・白木沢旭児両氏がコメントを行った。
大瀧真俊:軍馬資源開発と東北馬産――国家資本依存型産業構造の形成
川内淳史:人口問題と東北――戦時期から戦後における東北「開発」との関連で
山川充夫:高度成長期における東北地方の電源・製造業立地政策
坂田一郎:グローバル製造業資本の東北地方への展開と企業間分業
本書は、この研究会での成果がもととなって出版されたものである。
本書序章および第一‐四章は、問題提起者および四名の報告者が、当日の報告をもとにしてそれぞれ原稿を執筆した。序章(松本武祝)では、東北地方「開発」政策を概観しつつ、その国際的契機に着目することの重要性を論点として提起している。第一章(大瀧真俊)では、戦前東北(特に北東北)の主要畜産物の一つであった馬産に注目する。東北農民の馬産経営・役畜利用と国家による軍事的要請を前提とした馬匹改良政策との対抗関係を論じている。第二章(川内淳史)では、一九三〇年代から高度成長期に至る時期における東北の「人口問題」を論じている。日本資本主義の蓄積構造と国策(戦時動員)により、人口問題の位相が過剰/過少、滞留/流出というように、大きく振れてきたさまが描かれている。第三章(山川充夫)は、高度成長期における東北地方への電源・製造業立地を論じている。高度成長前期における地域資源・基礎素材型立地から後期における低賃金労働力を目的とする加工組立型立地へと転換する過程が分析されている。第四章(坂田一郎)は、東北地方に立地した製造業企業間のネットワークに着目している。〈外から〉の企業立地にもかかわらず、東北において不十分ながらも工業基盤がネットワークとともに形成されている現状を析出し、その分析にもとづいて今後の東北における産業集積の方策を提示している。
第五・六章は、コメンテーター二名が、研究会当日のコメントの内容をふまえつつ執筆した。第五章(中村尚史)は、釜石地域を分析対象とする。東北地方において、釜石は、産業革命以前から重工業の発展を見た例外的な地域であると同時に、一九八〇年代以降の製鉄業衰退により、新たに「開発」という課題に直面した地域でもある。「開発」をめぐるこうした位相のズレに着目しつつ、釜石地域の特質を析出している。第六章(白木沢旭児)は、四つの報告に対して、資料を補完しながら論点を提示している。そして、北海道との比較という独自の視点を加えたうえで、“「植民地」としての東北”という言説を批判的に検討している。
第七・八章は、当日に司会を務めた二名が執筆した。第七章(小島彰)は、震災・原発事故後のいわき市小名浜地区を事例として取り上げている。地元事業体の取り組みや中央商業資本の進出計画など、地域復興の実態と問題点を論じている。第八章(安藤光義)は、高度成長期から今日に至る製造業立地の実態を農村経済の側から分析している。低廉な労働力・用地に動機付けられた製造業立地は、東北地方に安定的な兼業農家の成立を促したものの、それは「発展なき成長」でもあったという。
第九章(岩本由輝)は、福島県浜通り地方に原発が立地する過程を論じている。岩本氏は春季総合研究会に参加してはいなかったが、東北地方に関する経済史研究の第一人者であることから、特別に寄稿していただいた。原発立地に関する「合意」形成にかかわる国家や知識人および立地対象地域社会内部の動向が分析されている。そこには、東北地方「開発」が抱えてきた問題点が集約的に表出しているといえる。最後に補章(植田展大・棚井仁)として研究会当日の討論要旨を掲載した。
(…後略…)