目次
謝辞
第1章 不平等の物理学と倫理学
不平等の尺度の簡単な物理学
不平等の尺度の倫理的な含意
この本のプラン
第2章 新しい不平等の尺度の必要性
不平等研究におけるデータの問題
高密度で整合的な不平等の尺度の獲得
グループ化とグループ分け
結論
第3章 賃金の不平等と世界の発展
クズネッツが意図したこと
新しいデータによるクズネッツの仮説の再検討
賃金の不平等と国民所得:曲線の形状はどのようなものか
世界的な不平等の拡大:データの中のパターンとしてのソロスのスーパーバブル
結論
付録:不平等から成長への想定される関係
第4章 家計所得の不平等の推定
賃金の不平等と所得の不平等の間の関係の推定
問題となるケースの発見:残差の検討
所得不平等に関する詳細かつバランスよく集められたデータセットの構築
結論
第5章 経済的不平等と政治体制
政治学における民主主義と不平等
政治体制のタイプに対するもう1つの接近法
分析とその結果
結論
付録Ⅰ 政治体制に関するデータの説明
付録Ⅱ 他の政治的分類の方式を用いた結果
第6章 アメリカにおける地域間不平等:1969年~2007年
アメリカにおける産業間の稼得所得の不平等
アメリカにおける地域間所得不平等の変化
アメリカにおける不平等の解釈
結論
第7章 州レベルでの所得不平等とアメリカの選挙
2000年大統領選挙に関する既存のデータを用いたいくつかの初期モデル
州レベルでの不平等の新しい推定値と不平等と選挙の関係の時系列的分析
不平等と投票における所得のパラドックス
結論
第8章 ヨーロッパにおける不平等と失業レベルの問題
格差に基づく失業理論
格差と失業に関する地域ベースの証拠
ヨーロッパとアメリカにおける格差と失業
ヨーロッパの失業対策への示唆
付録:詳細な結果と感応度分析
第9章 ヨーロッパの賃金と柔軟性理論
ヨーロッパの失業問題:再現
ヨーロッパにおける賃金の柔軟性の評価
状況を単純化するクラスター化と判別化
結論
付録Ⅰ:クラスターの詳細
付録Ⅱ:固有値と正準相関
付録Ⅲ:正準得点と疑似得点の相関
第10章 中国におけるグローバリゼーションと不平等
2007年までの中国における不平等の進行
2002年から2006年における金融および輸出のブーム
貿易と資本流入
投機部門への利益と資本の流入
結論
第11章 アルゼンチンとブラジルにおける金融と権力
アルゼンチンとブラジルにおける現代の政治経済
格差の測定
データの情報源
アルゼンチンにおける賃金格差:1994年~2007年
ブラジルにおける賃金格差:1996年~2007年
結論
第12章 ソビエト崩壊後のキューバにおける格差
キューバの賃金データ
キューバ経済の進展:1991年~2005年
産業部門別の賃金格差
地域による賃金格差
結論
第13章 経済格差と世界の危機
訳者あとがき
参考文献
索引
前書きなど
訳者あとがき
本書は、James K. Galbraith、“Inequality and Instability:A Study of the World Economy just before the Great Crisis”, Oxford University Press, 2012の邦訳である。著者のジュームス・K・ガルブレイスは、著名な経済学者のジョン・K・ガルブレイスを父にもち、自らも著名な経済学者として活躍している。著者は、主流派経済学者とは一線を画する立場をとり、本書においても、実証分析を駆使して、主流派経済学とは異なる視点から現実経済に対して独自の切り口を与えている。日本では、2つの教科書の邦訳(『現代経済学』上・下、『現代マクロ経済学』)が出ており、お馴染みの読者もいるであろう。
本書の特徴は、以下のとおりである。第1に、本書は、著者独自の問題意識に基づき、主流派の経済学が取り上げてこなかった問題、すなわち経済(賃金)の不平等(格差)とグローバルな金融危機との関係を検討していることである。第2に、データを重視し、タイルの不平等尺度等を駆使して、随所で統計解析を行っていることである。第3に、アメリカやヨーロッパに限らず、普段はあまり取り上げられることのない国々、すなわち中国、ブラジル、アルゼンチンそしてキューバを分析対象としていることである。第4に、経済の問題のみならず政治の問題も取り上げていることである。
現代の社会はグローバル化が進み、さまざまな要因が複雑に絡み合っている。このような社会を理解するためには、冷静にデータに向き合い、柔軟な発想を持つことが重要である。本書は、まさにこれを実践したものといえる。
(…後略…)