目次
まえがき
第1章 神経発達症とは
1 発達障害から神経発達症へ
2 2種の診断基準:DSMとICD
3 わが国での発達障害の範囲
4 ASD
5 ADHD
6 LD
7 神経発達症(発達障害)の二次合併症
8 診断はどのように行われる?
第2章 思春期・青年期に生じる問題
1 心理、社会学的側面からみた思春期・青年期
2 医学的に見た思春期・青年期
3 神経発達症(発達障害)当事者からみた思春期・青年期
4 思春期以降にはじめて神経発達症(発達障害)と診断される事例
5 学校生活と進学・就職で遭遇する問題
[1]中学・高校生活と進学の問題
[2]大学、専門学校の生活の問題
[3]就職活動、就労の問題
6 日常生活で遭遇する問題
[1]ASDの人の日常生活全般の問題
[2]ADHD、LDの人の日常生活全般の問題
[3]恋愛と結婚観の問題
[4]神経発達症(発達障害)の人の子育て
第3章 支援の環境整備
1 特別支援教育と教育の合理的配慮
2 発達障害者支援法と障害者虐待防止法
3 支援者に望まれること
4 家族支援
5 心理的支援
6 当事者の視点で支援を考える
7 特別な配慮を要する状況
[1]虐待
[2]愛着障害
[3]不登校
[4]ひきこもり
[5]触法行為
[6]災害時の対応
8 医療支援・薬物治療を中心に
[1]ADHDの中核症状への薬物治療
[2]ASDの中核症状への薬物治療
[3]二次合併症への薬物治療
第4章 事例にみる神経発達症(発達障害)の思春期・青年期の問題と支援
事例1 感覚過敏からの自己防衛でひきこもり状態を呈しているASDの青年
事例2 就職活動でつまずき不採用が続くASDの男性
事例3 逸脱行為の背景にASDが存在した中学生男子
事例4 高校卒業後に強迫が目立ったASDの青年
事例5 万引きをしたまじめなADHDの高校生男子
事例6 ADHDの小学生男児の薬物治療効果
事例7 優先順位が決められない大学生のADHD男性
事例8 二次合併症が目立ったADHDの女子
事例9 不登校で受診し背景に診断されていないLDがあった小学生女児
事例10 自分の生きづらさはASDによるものだと強く主張した20代女性
あとがき
前書きなど
まえがき
2006年に『軽度発達障害と思春期──理解と対応のハンドブック』(明石書店)を刊行しました。3度ほど版を重ねる幸運をいただき、その都度、最小限の内容の見直しを行ってきましたが、それでは対処できないほど、発達障害の人を取り巻く環境に変化が生じてきました。
2005年に発達障害者支援法の施行、2006年に障害者自立支援法が施行されていましたが、施策をふまえた記載はできていませんでした。また新たな施策として、2007年に特別支援教育が開始され、2014年には国連の「障害者権利条約」に批准し、「合理的配慮」の促進が強く求められるようになったことなどです。治療環境としては、2種類のADHD治療薬が認可され、その後成人にも使用することが可能となりました。用語では「軽度発達障害」「高機能群、低機能群」などが使用されなくなってきました。さらに、臨床医が診断の際に用いる、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM)が2013年5月に19年ぶりに改定され、わが国でも翌年6月に診断名の訳語が公表され、翻訳本も出版されました。こうした状況のなか、前記書の改訂を目指しながらも遅々として進んでいなかったのですが、診断基準の改定を機に決心し、明石書店の皆様にご相談したところ、刊行を快く引き受けていただき、このたび『神経発達症(発達障害)と思春期・青年期』として発刊することができました。「神経発達症」とは、この診断基準による、発達障害の新しい診断名(neurodevelopmental disorder)の訳語です。「神経発達症(発達障害)」という表記は、新しい診断名の後に現在広く用いられている発達障害という診断名をカッコ内で表記したもので、学術や公式に用いられるものとは異なり、読者の方にわかりやすくするための、本書独自の記載法であることをご了承ください。
前著と比較したこの本の特徴をあげるとしたら、①共著者として、アスペルガー症候群当事者で、青山学院大学大学院教育人間科学研究科教育学専攻博士後期課程在籍中の磯崎祐介が加わり、当事者の視点で解説を行ったこと、②思春期に限定せず、成人期も視野に入れて、大学生・専門学校生や社会人などの青年期の人も対象とすること、③できるだけ新しい情報について解説する一方で、古い情報は削除もしくは簡略化し、手に取って読みやすいハンドブック形式は保つこと、④事例を全面的に刷新し、特に当事者の視点を加えて解説したこと、などです。
診断基準は改定されても、当事者の人々への理解と支援は変わりません。混乱を避け、さらに理解と支援が深まることを切望しています。そのため、本書で扱う神経発達症も、前著と同様に、自閉症スペクトラム障害(前著では広汎性発達障害)、注意欠陥・多動性障害、学習障害を中心としました。本文中ではそれぞれ順に、ASD、ADHD、LDという略語で記載しています。
当事者である磯崎は、学校生活や社会生活への適応に多くの困難をかかえながらも、私の研究室で臨床研究を続けています。臨床研究者と当事者が協働で、発達障害の人を、当事者の視点を加えて客観的に観察し支援法を研究しています。その研究内容に基づいてわかりやすく解説した本書は、類似の他書にない斬新なテキストになりうると自負しています。なお、本書のサブタイトルにある「傾聴と共有」は、磯崎の提案した支援方法です。「受容と共感」との違いは、当事者のことを「無理に知ろう・わかろうとせず」に、「話を聞いて同じ場所にいてほしい」ということです。その状況は個別に異なりますので、本文中の説明や事例を読んでいただきたいと思います。
(…後略…)