目次
はじめに
凡例
序章 “異域”長崎と古写真
第一章 幕末開港、世界史の中へ
長崎は異文化の坩堝
出島の変貌
出島を訪れた人びと
第二章 坂本龍馬と勝海舟、維新のうねり
龍馬、海舟と長崎
攘夷から倒幕へ
龍馬が見た長崎の海と街
第三章 長崎外国人居留地
居留地の創設と変遷
初期の居留地
繁栄する大浦バンドと山手居留地
日ロ交渉の歴史を刻む稲佐「ロシア村」
第四章 古くて新しい中国との交流
中国貿易と唐人屋敷
唐四ヵ寺と幕末の中国人
長崎と上海、香港を結ぶ
第五章 文明開化
明治天皇の西国巡幸
一八七二年夏の長崎港
長崎の文明開化
第六章 江戸の残像、明治の光
自然に溶け込む人々の暮らし
女性の活躍
変わる町並み
祈りと祭り
茂木街道のにぎわい
終章 幕末明治を撮った日本人写真師
あとがき
主な参考文献とネット情報
索引
前書きなど
はじめに
本書は、二〇〇七年六月二六日から二〇一三年三月三〇日まで、朝日新聞長崎版に毎週一回、五年九カ月に亘って連載してきた、長崎古写真の解説記事「長崎今昔」から、後半部分をテーマに沿って再編集したものです。
「古写真に見る幕末明治の長崎」が全体のテーマです。本書では、キリシタン時代から江戸時代にかけて一貫して外国に開かれてきた“異域”長崎の近代化、すなわち幕末明治における長崎の過渡期の動態が、影像と解説により臨場感を持って再現されています。
第一章は、幕末開港期の出島の再現です。カピタン部屋のオランダ領事館への変身、出島周囲の埋め立て、ポンペやボードイン、マンスフェルトといったオランダ人医師や商社員の住居、来訪するサムライたちの服装や表情が、実際にその場にいる感覚で迫ります。
第二章は、長崎を訪れた坂本龍馬と勝海舟の目線の先にあった、長崎の維新のうねりです。亀山社中の写真の本での公開は初めてです。ここでは坂本龍馬の妻「お龍さん」を預かった小曾根乾堂の家や、薩摩屋敷、龍馬が歩き回った長崎奉行所や諸藩の蔵屋敷、飽の浦の長崎製鉄所などに仮想的に立ち入ります。
第三章は、“異人館”と呼ばれた外国人居留地の特集です。あたりには外国商社が入居する和風の洋館が建ち並ならび、あちこちに各領事館の国旗が翻ります。下町にはホテルやレストラン、英字新聞社、劇場が並び、丘の上には教会や学校が建ちます。国内に現れた“異域”のカルチャーショックは甚大で、松江の訪問団は手を組んで現れたオルト夫妻に「アキレハテ」てます。読者はタイムスリップして、ここで居留地のなかを歩きまわる仮想体験ができるはずです。
第四章は中国との交流の再現です。再開港で特権を失い「外夷附属」となった中国人は、唐人屋敷を出て居留地や新地に進出し、日本で初めての中華街を形成します。崇福寺、興福寺、福済寺、聖福寺の唐四カ寺は、出身地に応じた中国人の檀家寺になります。上海航路が新たに開けて、長崎は大陸の新たな玄関口となり、出島、唐貿易時代と違った繁栄を見せます。長崎がアジアに開かれた時代、龍馬や西郷隆盛の世界ビジョンを大陸に求めたのは梅屋庄吉でした。
第五章は、長崎の海と陸の文明開化の影像群です。開港後、長崎港に帆船や蒸気船といった外国艦船が多数入港し、運上所は税関になり自由貿易の活気が生まれます。諸藩の蔵屋敷は衰退し、市街中心部では奉行所が県庁に、町年寄の豪邸は裁判所や学校に変わります。ここで旧いものが残りながら近代化と洋風化が進む、奇妙な混合を影像で観察できます。対岸の飽の浦では産業革命を推進する長崎製鉄所が稼働し、小菅や立神に造船所が登場します。私塾や教授所は学校に、小島養生所・医学所(精得館)は長崎医学校に装いを変えていきます。
第六章は、変わりゆく江戸の残像と明治の光を照らし出しています。女性の地位の向上、上下水道・街灯・電信・電話・舗道・人力車といった都市インフラの整備による街並みの変容、祈りと祭りと習俗の変化、交通の発展と共に都市に巻き込まれる郊外の変化の相がここで浮かび上がります。
(…後略…)