目次
はじめに
第1編 アイヌ史を考える前に
第1章 歴史を学ぶとは
1話 そこにアイヌ史があるのに
2話 なぜ歴史を学ぶのか
3話 それでは、アイヌの歴史はなぜ学ぶのか
第2章 アイヌの歴史はどこから始まるか
(1)皇国史観と蝦夷という語
4話 「建国」記念の日
5話 神話を考えよう
6話 中華思想と蝦夷
(2)アイヌの祖先は誰か
7話 アイヌ史という考えが登場
8話 和人という言葉を使うことにしよう
9話 アイヌは和人の先住者か
10話 縄文人も古代蝦夷も、和人?
11話 古代蝦夷は天皇に従わない民か
12話 「アイヌ文化」という時代区分
(3)アイヌ語を母語とする人々は……
13話 アイヌ語を母語とした人々
14話 人間にとって、母語とは
15話 アイヌ語単語の史料を調べる
16話 人の移住からアイヌ語を探る
17話 古代蝦夷から縄文へ
(4)形質人類学から見たアイヌ史
18話 DNAから見たアイヌ史
19話 そして、アイヌ史の始まりはどこか
第2編 アイヌの歴史
第1章 旧石器時代
20話 人間の歴史を時代区分すると
21話 現生人類の誕生
22話 原「東アジア」の石器時代
23話 細石刃は北東アジアから
第2章 新石器時代
(1)日本列島の新石器時代
24話 土器の型式と、縄文時代の時代区分
25話 縄文文化は東日本中心
26話 「縄文文化」という名称への疑問
(2)北海道の新石器文化
27話 北海道の新石器文化の特徴
28話 貝殻文土器文化の時代
29話 大貝塚文化の時代
30話 円筒・北筒土器文化の時代
31話 巨大記念物文化の時代
32話 亀ヶ岡文化の影響
第3章 原アイヌ文化期
(1)東アジアの古代国家
33話 黄河に都市国家が出現
34話 都市国家から古代国家へ
35話 東アジアに国が続々と
36話 稲作農耕革命
37話 関東より西の狩猟民
38話 古代天皇政権とアイヌ文化
39話 「アイヌ文化」のとらえ方
(2)原アイヌ文化の成立
40話 原アイヌ文化の始まり
41話 江別(式土器)文化圏の広がり
42話 江別文化と、オホーツク文化の誕生
43話 オホーツク文化
(3)古代蝦夷とは誰か
44話 「毛人」を追って(4・5世紀)
45話 隋・唐王朝と高句麗遠征
46話 阿倍比羅夫の遠征
47話 エミシの文化の形
48話 古代天皇政権が新潟・秋田に侵出
49話 呰麻呂が多賀城を襲う
50話 アテルイの戦い
51話 アテルイの戦いの後
52話 アキタエミシの戦い
53話 東北エミシの行方
54話 北上史観の課題
(4)唐・宋・元王朝の変遷と、原アイヌ世界の拡大
55話 唐王朝と周辺国の興亡
56話 北海道アイヌとオホーツク文化の人々
57話 原アイヌ文化の時代区分
58話 サハリンアイヌと千島アイヌの登場
59話 武人政権か、文人政権か
60話 モンゴルの嵐
61話 サハリンアイヌと元王朝の戦い
第4章 アイヌ文化前期
(1)明王朝と安藤氏
62話 アイヌ文化の成立
63話 アイヌ居住圏をどう呼ぶか
64話 津軽安藤氏と流刑者
65話 津軽安藤氏の繁栄
66話 イシハの遠征
67話 渡党・唐子・日ノ本
68話 朝鮮王朝と琉球王朝
69話 明王朝の後退と、安藤氏滅亡
(2)渡島半島の戦い
70話 コシャマインの戦い
71話 ショヤコウジの戦い
72話 夷狄商舶往還の法度
73話 チャシの出現
74話 和人勢力が渡島半島南端に後退
75話 英雄のユカラの背景
76話 渡島半島の戦国時代の始まりに関わって
第5章 アイヌ文化後期
(1)「大航海」時代とアイヌ
77話 「大航海」時代
78話 日本の統一政権の影響
79話 秀吉の朱印状
80話 「鎖国」とは
81話 ゴールド・ラッシュの北海道
82話 ヘナウケの戦い
83話 シブチャリ紛争
84話 空家集落と大集落のジレンマ
85話 シャクシャインの戦い
86話 イシカリのハウカセ
87話 ニュージーランドのマオリの場合
(2)ロシア・日本・清王朝とアイヌ
88話 ネルチンスク条約
89話 サハリンと台湾の位置
90話 ロシアのカムチャツカ侵攻
91話 ロシアが千島列島を南下
92話 北千島アイヌはロシアのもとへ
93話 場所請負制の開始
94話 田沼意次の政治と「北方探検」
95話 東のアイヌは剛強!
96話 クナシリ・メナシの戦い
97話 前期幕府直轄と同化政策
98話 レザノフ事件
99話 場所請負人としての高田屋嘉兵衛
100話 サンタン交易の変化
101話 タライカの戦い
102話 欧米船の来航と幕府の再直轄
103話 箱館開港の周辺
104話 漁場労働と伝染病
第6章 近代アイヌ文化期
(1)アイヌモシリを一方的に日本の一部に
105話 セポイと太平天国
106話 明治維新の位置
107話 アイヌモシリを、日本とロシアで分割
108話 アメリカ先住民の抵抗
109話 北海道「開拓使」設置
110話 サハリン(樺太)・千島交換条約
111話 サハリンアイヌの悲劇
112話 千島アイヌの強制移住
113話 サハリンアイヌの気概
(2)同化政策の開始
114話 文化の同化政策
115話 土地も、シカ猟も、サケ漁も失う
116話 「開拓使」官有物払い下げ事件
117話 「旧土人保護」法の成立
118話 アイヌ学校が作られる
119話 前期近文事件
(3)日本帝国の拡大とアイヌ
120話 琉球王朝の場合
121話 台湾の人々の抵抗
122話 朝鮮半島を植民地に
123話 アジア・太平洋地域が列強の餌食に
124話 アイヌモシリは自立できたか
(4)民族の自立を求めて
125話 ロシア革命と大正デモクラシー
126話 アイヌ教育の「先生」たち
127話 『あいぬ物語』と『アイヌ物語』
128話 『アイヌ神謡集』
129話 違星北斗の挑戦
130話 北海道アイヌ協会の成立
131話 後期近文事件
132話 「旧土人保護」法の改定
133話 サハリンアイヌが国籍を
134話 戦時体制に生きる
第7章 現代アイヌ文化期
(1)単一民族史観と同化政策
135話 アイヌ民族独立の話
136話 新アイヌ協会成立
137話 農地解放と「給与地」
138話 新冠御料牧場
139話 アイヌ協会からウタリ協会へ
140話 アイヌへの差別
141話 現代のアイヌ文化への視点
142話 観光行政との闘い
(2)アイヌ民族に人権を
143話 形質人類学と人権
144話 北大人骨問題
145話 民衆史運動と「革命」運動
146話 アイヌ史と歴史認識
147話 格差是正を求めて
148話 首都圏のアイヌの活動
(3)先住権を獲得するまで
149話 国際先住民年
150話 アイヌ新法を作れ
151話 アイヌ肖像権・裁判
152話 民族って何なのか
153話 支配民族はどう行動すべきか
154話 中曾根・単一民族発言
155話 アイヌ文化振興法成立
156話 アイヌは平和で平等な社会にいたか
157話 アイヌ語の復権は?
158話 2008年国会決議の限界
159話 アイヌ民族副読本「修整」事件
160話 東アジアの中で、アイヌ史を考えるとは
おわりに
引用・参照文献
アイヌ史を中心とした東アジア列島史年表
索引
前書きなど
はじめに
1993年は、国際先住民年でした。
世界の先住民族にスポットライトが当たった、画期になる年とも言えます。
この年を、「先住民」年に持ってきた理由は、コロンブスがアメリカ大陸を「発見」した年(1492年)から「500年」ということ(実際には501年目になった)にありました。
1492年以降、ヨーロッパ人による「未知の世界」への「探検」「発見」「開拓」が世界全域に及び、そこにいた先住者は「未開」「野蛮」な民として、「討伐」されていきました。
コロンブスが、アメリカ大陸を「発見」する前、世界中で国家に属さない地域は、広大な面積を占めていました。
ユーラシア大陸のシベリア、アフリカ大陸の大部分、南北アメリカ大陸の大部分、オーストラリア大陸の人々は、いかなる国家とも関係なく暮らしていたのです。
そこに、コロンブスがやってきました。いわゆる「大航海」時代の開始です。
ところが、先住者から見たら、何が「大航海」時代なものですか。
何が「未知の世界」への「探検」「発見」「開拓」なものですか。
「一攫千金」を夢見る「荒くれ」どもが、手練手管を駆使して、先住者を追いつめたではありませんか。
殺傷「能力」の高い武器を大量に持って、よく「組織」された兵隊が、先住者を殺害したではありませんか。
そして、「本国」で食い詰めた人々や、「新天地」の「開墾」に「理想」を燃やす「善意」の人々が来て、暮らし始めました。
これは、普通、「一方的な侵攻」と言います!
ところが、それを認めたくない「侵攻者」は、国家の「総力」をあげて、自分たちの「正当化」のための「法律」を、先住者を無視して作り、「一方的な侵攻」が「何も問題がなかった」かのように、振る舞うのです。それは現在に至るまでもです。
はたして、「未開」「野蛮」な民とは、誰のことなのでしょうか。それは、そっくり、侵攻者の側に戻ってきます。「侵攻者」には、皮肉な意味で「頭のいい未開」「頭のいい野蛮」な民という、但し書きが付きますが……。
ひるがえって、日本列島に目を向けてみましょう。
北海道、東北地方北部、そして、ここは日本列島ではありませんが、千島列島、サハリン南部。これらは、アイヌの人たちの居住圏でした。1854年の日露通好条約までは、どこの国にも属していませんでした。このアイヌの居住圏を、日本とロシアが一方的に分割しました。
このアイヌの人たちを主人公にした歴史を書けないでしょうか。これが本書の主旨です。
だが、日本とロシアの侵攻史、アイヌの抵抗史に特化して書こうというのではありません。それも、アイヌ史の重要な一部ではありますが、アイヌ史のすべてではありません。
アイヌの歴史を、さまざまなカメラアングルでとらえること、そこにどんな歴史が写し出されるか、そこを見つめることにします。
今まで、注目されなかった先住民族・アイヌの歴史を、その出現から、いわゆる「文明」や、周辺の民族や国家との関わり、そして世界の潮流との関わりによって、自分たちをどう変革させていったか、いわば、日本史の一部ではない、「一つの独立したアイヌの歴史」を示していきたいのです。
このことは、逆に、「文明」や「支配民族」や「国家」とは何なのか、今後どういう道筋をめざすべきかということも、当然、問うことになるでしょう。