目次
巻頭言
『子ども虐待医学』刊行にあたって
原著(第3版)日本語版刊行によせて
原著序文
執筆者一覧/翻訳者・監訳者
■序論 虐待研究
序章 子ども虐待研究の展開
■セクション1 身体的虐待
第1章 子ども虐待の皮膚病変
第2章 頭部外傷
第3章 子ども虐待の骨病変
第4章 子ども虐待の内臓徴候
第5章 子ども虐待における顎顔面・頸部・歯の徴候
第6章 子ども虐待の眼徴候
第7章 身体的虐待と誤診されうる医学的状況
■セクション2 性虐待
第8章 性虐待の可能性のある前思春期の子どもとの面接
第9章 前思春期の子どもの性虐待の医学的側面
第10章 思春期の性虐待/性暴力被害児の医学的管理
第11章 子どもの性虐待における性感染症
第12章 性虐待/性暴力被害児における法医学的証拠の果たす役割
第13章 子どもの性虐待と誤診しやすい医学所見
■セクション3 ネグレクト
第14章 子どものネグレクト
第15章 発育不全/体重増加不良(FTT: Failure to Thrive)
■セクション4 その他の形態の子どもマルトリートメント
第16章 代理によるミュンヒハウゼン症候群
第17章 毒物を用いた子ども虐待
第18章 子ども虐待およびネグレクトにおける溺水ならびに溺死
第19章 稀な様態の子ども虐待
■セクション5 子どもマルトリートメントの病理学
第20章 致死的虐待の病理学
第21章 乳児突然死症候群と致死的子ども虐待
■セクション6 子どもマルトリートメントの専門的問題
第22章 写真記録およびその他の技術
第23章 幼少期の虐待・ネグレクトの長期的影響と神経生物学
第24章 子ども虐待の法的側面
■セクション7 予後
第25章 子ども虐待・ネグレクトの医学的・心理学的後遺症
あとがき
各章詳細目次
索引
前書きなど
『子ども虐待医学』刊行にあたって
子ども虐待はわが国でも稀な状態ではなくなり、2013年度(平成24年度)の全国児童相談所での児童虐待相談対応件数は66,807件と6万件を超えました。医療機関においても、気づきと通告が増えてきています。20年、30年前でしたら通告されなかったかもしれないと思われる事例も、今では虐待が疑われるようになってきました。一つには、虐待を疑う医学的所見が医療関係者に知られるようになったことがあると思われます。それらは、「頭蓋骨骨折を伴わない乳幼児の硬膜下血腫」「事故の事実がない乳児の骨折」「基礎疾患のない乳幼児の成長不良」等々、虐待状況を疑わなければいけないtips とも言うべき事柄です。
子ども虐待を直接・間接的に示唆するこうした医学的所見は、虐待を受けた子どもたちが自らの身体で医療関係者に示してくれたものです。1例だけですと「こんな傷もあるのか」と見過ごされてしまいがちな所見も、何人もの子どもたちが繰り返し示してくれたおかげで、そして、そのことに気づいた医療者がいたことで、単なる憶測ではなく合理的な疑いを持ちうる根拠のある所見となったのです。
Robert M. Reece 等による“Child Abuse: Medical Diagnosis & Management”は、虐待状況に関する医学所見を集大成した本です。世界の虐待医療の分野を牽引している著者たちにより、虐待により生じたあらゆる身体所見がまとめられています。本書は1994年に初版が出版され、2001年に第2版が、2008年には第3版が出版されましたが、このたび、その第3版の日本語版である『子ども虐待医学』が刊行されることとなりました。わが国にも虐待医療に関する本はいくつかありますが、本書ほどエビデンスが示されたものはまだありません。
本書が日本の子ども虐待診療の質を高めてくれることは間違いないでしょう。さらに、本書は、医療関係者だけでなく、福祉、法律、司法など、子ども虐待に職務として関わる職種の人たちにとっても有用な情報を与えてくれる本であり、ひろく勧めたいと思います。
この本は、虐待を受けた子どもたちからの私たちへの叱咤激励の本でもあります。彼らの苦痛の時を無駄にすることなく、本書から得た知識をもとに、虐待で苦しむ子が一人もいなくなる日を目指さなければいけないと思います。子ども虐待を主な対象としている日本小児精神神経学会を代表し、本書を皆さまにお勧めできることに感謝したいと思います。
末筆ながら、本書の日本語訳に取り組まれた方々に、心からの敬意を表します。
平成25 年10 月吉日 日本小児精神神経学会理事長 宮本信也