目次
まえがき
Ⅰ カリブ海世界とコロンブスの島
第1章 カリブ海世界とイスパニョーラ島――ヨーロッパが創った非ヨーロッパ世界
第2章 多様な地形と風土と文化――カリブ随一の多様性を誇る自然と融合を見せる文化
第3章 自然の恵みと脅威の中で育んできた島国の姿――豊かな自然資源とハリケーン銀座のはざまで
第4章 人びとの暮らしと生活のリズム――融合するDNAが生みだすドミニカ人のリズム
第5章 イスパニョーラ島の近代史――砂糖と奴隷がつくった島国の歴史
第6章 数字で見る現代ドミニカ共和国の姿――21世紀の若い開発中位国
【コラム1】最初の植民地プエルト・イサベラ
Ⅱ ドミニカ共和国が創られた歴史
第7章 コロンブスとイスパニョーラ島――世界の拡大
第8章 イスパニョーラ島の開発――幻滅と新大陸の基地化
第9章 海賊やハイチとの戦いの中で――スペインとの別離
第10章 独立からアメリカ合衆国の裏庭へ――棍棒外交と善隣外交のはざまで
第11章 トルヒージョによる専制政治――統一と進歩の英雄か、冷血な独裁者か
第12章 ドミニカ共和国危機と米国の軍事介入――世界と地域の冷戦
【コラム2】コロンブスの遺骨
Ⅲ 現代ドミニカ共和国の政治経済
第13章 開発独裁と環境保護――ドミニカ経済発展の基盤をつくったバラゲール
第14章 左派政権の時代――民主化の進展と経済危機
第15章 カリブのシンガポールを目指せ――フェルナンデス政権12年の光と影
第16章 国家開発戦略2010‐30年法――長期的な国家開発のためのビジョン
第17章 経済成長と貧富の格差――人口の過半数を占める貧困層の実態
第18章 2012年の大統領選挙――メディーナ政権の社会・経済問題解決に向けた挑戦
【コラム3】ラム酒
Ⅳ カリブの小国からグローバル化する世界へ
第19章 ドミニカ人のディアスポラ――出稼ぎ移民とアメリカ市民としての生き方
第20章 ニューヨーク市のワシントンハイツ地区――全米最大のドミニカ系コミュニティ
第21章 フェルナンデス政権の全方位外交――地域のキープレーヤーを目指して
第22章 決済システムの改革――ドミニカ共和国中央銀行の取り組み
第23章 カリブ・中米地域統合への模索――中米に歩みよるドミニカ共和国
第24章 ポスト・パナマックス時代への対応――大量輸送時代の到来と海洋国家の将来
【コラム4】ジュノ・ディアス――アメリカで活躍するミリオンセラー作家
Ⅴ 産業・企業・金融・流通
第25章 ドミニカ共和国の貿易事情――CAFTA-DRの締結とその後の推移
第26章 ドミニカ共和国を支配する財閥――国家を動かす企業群
第27章 フリーゾーン産業の興隆――1990年新法制定以降に発展した繊維産業
第28章 ドミニカ共和国に投資する外国企業――外資が支えるドミニカの産業
第29章 ドミニカ共和国の小売業――独立小売業者と近代的大型店の併存
第30章 郷里送金と送金ビジネス――母国への送金は国の発展を助けるか
【コラム5】メセナ――ドミニカ式文化・慈善事業
Ⅵ 現代ドミニカ社会の光と影
第31章 格差社会の中の庶民――地方都市の生活環境と庶民の暮らし
第32章 高等教育――専門教育と頭脳流出の実態
第33章 マチスモ社会の変容――ドミニカ人女性の社会進出
第34章 貧困と社会的成功――アメリカのプロ野球界で活躍するドミニカ選手たち
第35章 ハイチ人との共存――島を分かつハイチ共和国との関係
第36章 麻薬犯罪と資金洗浄――地理的条件が招いた社会問題
【コラム6】広島東洋カープ・アカデミー訪問記
Ⅶ 21世紀の新しい経済と社会の構築にむけて
第37章 サトウキビ単一生産から多角的熱帯農業へ――水田稲作と胡椒栽培
第38章 電力問題とエネルギー政策の転換――持続可能な電力供給を目指して
第39章 フェアトレードとバナナ産業――新市場開拓に向けた取り組み
第40章 新たな観光産業の模索――エコツアーとマナティ・サンクチュアリー
第41章 21世紀の環境政策――植林計画と再生可能エネルギーの利用そしてCO2排出権の取引
第42章 カリブ海の隠れた資源大国――鉱業開発と石油・天然ガス生産の可能性
【コラム7 】サントドミンゴ首都地下鉄――新2号線に試乗する
Ⅷ 混血文化のダイナミズム
第43章 ドミニカ文化のクレオール性――異種混淆のダイナミズム
第44章 アフロドミニカ文化の自認――在外ドミニカ系とのつながり
第45章 メレンゲ ――国民文化に仕立てられた音楽・ダンス
第46章 踊る人びと――ダンスでつながる人と社会
第47章 カリブの色彩と絵画――南国の自然と共に形成されたアイデンティティ
第48章 人びとと食事――熱帯を楽しむ
【コラム8】モフォンゴとサンコーチョ
Ⅸ 消された先住民
第49章 イスパニョーラ島の先住民――タイノ族はどこからきたのか
第50章 スペインによる征服と先住民の運命――スペイン暗黒伝説
第51章 ドミニカ共和国に先住民はいないのか――「先住民絶滅説」の再考
第52章 エンリキージョ――最後まで抵抗を続けた先住民の英雄
第53章 タイノ族の復活――インターネットを駆使した「絶滅した先住民」の復権運動
第54章 ドミニカ共和国のナショナリズムと先住民――ハイチと米国のはざまで
【コラム9】ドミニカ人類博物館――「人」をテーマに国を知る
Ⅹ 遠くて近い日本とドミニカ共和国の関係
第55章 日本とドミニカ共和国――遠くて近い親密な関係
第56章 日本人の「ドミニカ移住」――その経緯と結果
第57章 ドミニカ移民訴訟事件――戦後移住政策で問われた国の責任
第58章 日本のODA政策とドミニカ共和国――日本と世界を結ぶ友好の絆
第59章 顔の見えるODA政策――プロジェクトを支援する日本人プロ集団の活動
第60章 新しい支援政策の現場を見る――地方自治体の計画策定能力強化プロジェクト
【コラム10】ドミニカ共和国の中の日本の風景
参考文献
執筆者一覧
前書きなど
まえがき
カリブ海という名称は広く知られているとしても、日本で知られているカリブ海域のイメージは断片的なものであろう。それは、エメラルドグリーンの海、真っ青な空、白い砂浜とヤシの木陰、豪華客船が立ち寄るリゾートというイメージにちがいない。たしかにカリブ海域にはこのようなイメージで知られる観光地が各地にあり、多くの観光客が世界中から訪れる。豪華客船で島々を訪れながら、優雅な休暇を過ごせるクルージングはとりわけ有名である。しかしこの海域に独立国だけでも13の島国が存在し、それぞれが独自の歴史的発展を遂げて現在に至っていることを知っている日本人は少ないだろう。その中のひとつがドミニカ共和国である。
ところで、カリブ海域にはドミニカ共和国とドミニカ国という、紛らわしい名前の2つの国がある。ドミニカ共和国はカリブ海域の大アンティル諸島に属するイスパニョーラ島の東側に位置する国で、人口は1000万人を超す。他方、ドミニカ国は小アンティル諸島にある佐渡島ほどの面積しかない小さな島国で、人口はわずか10万人である。本書では、国名の場合にはドミニカ共和国と表記することを原則としているが、ドミニカ人あるいはドミニカ文化などと表記した場合もドミニカ共和国の国民であり、文化を指している。
これらのカリブ海域にある13の島国については、キューバを除くと、日本語の文献は非常に限られている。参考文献欄では、出版された単行本のほかに国際協力機構が公開した専門家による調査報告書および2000年以降に学術誌や一般誌に掲載された論文とエッセイも収録した。このように情報が不足するドミニカ共和国について、歴史・政治・経済・社会・文化および日本との関係を含め総合的に紹介することを目的として、13名が本書の執筆に取り組んだ。
本書の特徴は、参加したメンバーの半数以上がドミニカ共和国で暮らし、実に多様な経歴を持っていることである。参加者13名のうち執筆時には6名がドミニカ共和国でさまざまな職務に従事していた。さらに2名は同じく職務上ドミニカ共和国に長期滞在した経験を有している。これらの現地の事情に詳しく、かつ専門的な知識を有する執筆者たちが紹介する内容は含蓄があり、短期滞在では知り得ないものである。読者の興味を刺激するにちがいない。
ドミニカ共和国がある島は従来「イスパニオラ島」「エスパニョラ島」「イスパニョーラ島」と表記されてきたが、本書ではイスパニョーラ島で統一した。なお本書では歴史用語としての「インディオ」という言葉を使用している場合もあるが、原則として「先住民」で統一してある。写真の出所については、執筆者本人の撮影・提供によるもの以外のみ明記した。
最後に、本書の企画を引き受けてくださった明石書店、編集の過程でお世話になった兼子千亜紀氏と高橋光利氏、写真の提供に協力していただいた駐日ドミニカ共和国大使館に心からの謝意を表したい。
2013年7月 編者 国本伊代