目次
刊行の辞(平川新・今村文彦)
第1部 ひと・命・心
第1章 広域大規模災害から人々のいのちと健康をまもるために――保健医療分野災害対応計画の課題(上原鳴夫)
第2章 災害保健医療支援室による被災地支援(佐藤健・上原鳴夫)
第3章 3.11から学んだ医療現場の脆弱性と想定外対応能力(清元秀泰、阿部倫明)
第4章 大震災時の産婦人科医療(伊藤潔・菅原準一)
第5章 被災者のマナー――体験から立ち上がった課題(阿部恒之・ジュタ‐チップ=ウィワッタナーパンツウォン・本多明生)
第6章 災害時の精神医療と精神保健(富田博秋・根本晴美)
第2部 防災と復興のまちづくり
第1章 復興まちづくりのあり方(平野勝也・姥浦道生)
第2章 建築家によるネットワーク型まちづくり支援の可能性――アーキエイドの実践から(本江正茂)
第3章 津波に強いまちづくりへの取り組み――石巻市中心市街地(平野勝也・今井健太郎)
第4章 復興まちづくりにおける津波数値シミュレーションの活用――仙台市沿岸部(越村俊一・郷右近英臣・林里美)
第5章 大震災後の沿岸部でのリスク認識と対応についての調査(古関良行・佐藤翔輔・今村文彦)
第6章 せんだいスクール・オブ・デザインによる連続ワークショップ「復興へのリデザイン」(本江正茂)
第7章 我が国災害対策法制の問題点と課題(災害応急対策)(島田明夫)
第3部 震災の歴史と記録
第1章 仙台平野に残されていた弥生時代の津波堆積物(松本秀明・熊谷真樹・吉田真幸)
第2章 貞観津波と東日本大震災の津波(菅原大助・今村文彦・松本秀明・後藤和久・箕浦幸治)
第3章 慶長奥州地震津波について――400年前の大震災の実相(蝦名裕一)
第4章 東日本大震災での歴史資料レスキュー――宮城県・岩手県での活動と所蔵者・地域(佐藤大介)
第5章 被災した古文書の復旧と市民ボランティア(天野真志)
第6章 東北大学による東日本大震災アーカイブプロジェクト(柴山明寛・佐藤翔輔・今村文彦)
第7章 ウェブニュースから東日本大震災を分析する(佐藤翔輔・今村文彦・林春男)
終章 今後の防災・減災社会に向けて(今村文彦)
索引
前書きなど
刊行の辞
2011年3月11日午後2時46分、東北地方太平洋沖地震が発生し、東北から関東にかけての太平洋沿岸は大津波によって途方もない震災に見舞われた。地震・津波だけではなく福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染も重なって、筆舌に尽くしがたい惨状となった。津波による死者・行方不明者は2万人近くにおよび、津波と原発事故による避難者はピーク時には47万人に達した(内閣府緊急災害対策本部・原子力災害対策本部合同本部、2011年5月6日)。人命や家屋が失われ生活が破壊されただけではなく、地盤沈下や地崩れなどにより、いたるところで景観も大きく変貌した。
大津波が沿岸各地を襲う映像が数多く撮影され、報道やインターネットで流されたことから、被害の甚大さは、たちどころに世界の知るところとなった。日本だけではなく、世界中の目と関心が被災地に向けられた。被災者の困難を救うために多くの救援隊やボランティアが駆けつけ、世界中から義援金や救援物資も届けられた。政府や自治体も被災者支援や復旧・復興対策に取り組んだ。3月11日以降、日本は一挙に大震災対応社会へと変貌していった。
そうした渦中にあって、東北大学の研究者たちは、東北地方太平洋沖地震や津波のメカニズムの解明、東日本大震災による被害実態の把握、被災地支援、医療活動など、できる限りの動きをしてきた。ある者は発災直後から被災地に入って調査を続け、ある者は被災地支援の活動に奔走した。東北大学の研究施設も甚大な被害をうけ、自宅が損壊した者もいた。だが命が助かったことを奇貨として、災害の実態を把握すべく全力を尽くした研究者が少なくない。
東日本大震災とは何か。福島第一原子力発電所の爆発によって撒き散らされた放射能汚染は、どうなっているのか。調査を進めるにつれて自然災害の発生メカニズムと被害実態が徐々に明らかになってきた。それを社会に発信していかなければならない。かくして、東日本大震災の発生から1カ月後の4月13日に企画されたのが、「東北大学による東日本大震災1カ月後緊急報告会」であった。これを皮切りに、3カ月後、6カ月後、1年後の4回にわたり、合わせて60件の報告と講演をおこなった。報告会には、福島大学と山形大学からも共同研究者として参加をいただいた。
この報告会を主催したのは、東北大学防災科学研究拠点である(代表:平川新、副代表:今村文彦)。近い将来、確実に襲来すると予測されていた宮城県沖地震に備えて、2007年に学内の部局横断型組織として結成されたグループであった。学際連携型の防災研究を企画・促進し、防災研究の成果を社会に効果的に発信するために、理系から文系までの研究者およそ20人が参加していた。
東日本大震災の発生後、従来のメンバー以外の研究者たちも次々に防災科学研究拠点に参入し、数週間で40人近くのメンバーになった。この拠点が、大学内において大震災に関する調査・研究情報の交換の場として効果的な役割をはたしていたからである。
震災1カ月後から開催した4回の報告会は、かなり専門的な内容であるため、一般の方々に関心をもっていただけるかどうか心配した。だが、定員300人の会場には400人以上が詰めかけて聴衆があふれ、報道関係者も殺到した。発災後、諸種のメディアをつうじて多くの震災情報が流されたが、社会がいかに学術的視点から収集した情報と分析結果を求めているのかを実感させられることになった。
この報告会に目をとめてくださったのが、明石書店の神野斉編集長である。調査・研究の成果を一般向けに刊行したい、という提案を寄せてこられた。そこで60件の報告のなかからテーマを再編成して書き下ろしをお願いし、上下2巻の報告として取りまとめた。内容は報告会時点のものではなく、執筆段階の水準を反映している。本書をとおして、東北大学を中心とする研究者たちが、学術の立場から、どのように東北地方太平洋沖地震津波と東日本大震災に取り組んできたのか、その一端を知っていただければ編者としても本望である。
なお、この防災科学研究拠点に結集した研究者を中心に、医学分野及び国際連携分野を加えて、2012年4月、東北大学は災害科学国際研究所を発足させた。被災地への貢献と、災害に強い社会にするための実践的防災学を旗印としてげ、文理連携による災害研究を促進している。
平川新・今村文彦