目次
まえがき
第1章 エスニシティとエスニック関係
人種とエスニシティ
エスニック・グループ
マイノリティ集団
エスニシティに基づく差別
エスニック階層化
エスニシティに基づく偏見
偏見と差別への適応
まとめ
議論のポイント
Box 1-1 「人種」概念の増大する意義
Box 1-2 住居の人種差別に基づく隔離
Box 1-3 アメリカ人の先祖に関する報告
第2章 エスニックの関係性についての解釈
エスニックの関係性に関する理論
エスニック関係の統合理論
まとめ
議論のポイント
Box 2-1 アメリカにとって平等主義は何を意味するのか
第3章 アングロサクソン中心とエスニシティに基づく対立
アメリカ植民地化の初期
初期移民の文化的制度的遺産
アングロサクソンのヘゲモニーとエスニシティの力学
まとめ
議論のポイント
Box 3-1 アメリカのエスニック構造の変化
第4章 白人系エスニック・グループ
白人系エスニック・グループの資源占有率
アイルランド系アメリカ人
イタリア系アメリカ人
ユダヤ系アメリカ人
まとめ
議論のポイント
Box 4-1 ソプラノ家の現在
第5章 アフリカ系アメリカ人
アフリカ系アメリカ人の資源占有率
アフリカ系アメリカ人に対する差別の力学
アフリカ系アメリカ人の階層化
人種差別への対応
まとめ
議論のポイント
Box 5-1 最初の“R”
Box 5-2 黒人奴隷の処刑
Box 5-3 プレッシー対ファーガソン裁判から1世紀が過ぎて
Box 5-4 白人による暴動と隠蔽のとき
Box 5-5 南部におけるリンチの長きにおよぶ遺産
Box 5-6 公民権運動におけるアフリカ系アメリカ人女性
第6章 先住アメリカ人
絶滅の際で
先住アメリカ人の資源占有率
先住アメリカ人に対する差別の力学
先住アメリカ人の階層化
差別への応対
まとめ
議論のポイント
Box 6-1 チームの名前にどのような意味があるのか?
Box 6-2 チーム・マスコットとしての「白人」
Box 6-3 インディアン識別の代価:インディアンと白人間の異人種混交禁止法の経緯
Box 6-4 誰が本当の「野蛮人」だったのか?
Box 6-5 墓場には何がある?
Box 6-6 インディアンの若者が直面している問題
第7章 ラティーノ
ラティーノの資源占有率
メキシコ系アメリカ人
プエルトリコ系
キューバ系アメリカ人
まとめ
議論のポイント
Box 7-1 合衆国におけるラティーノ市場
Box 7-2 ラティーノ児童のリスク
Box 7-3 チカーノ農場労働者と農薬
第8章 アジア系・太平洋諸島系アメリカ人
アジア系アメリカ人
太平洋諸島系:試論
まとめ
議論のポイント
Box 8-1 収入と教育:モデル・マイノリティが抱えるジレンマ
Box 8-2 アジア系ギャングと法律上の差別
Box 8-3 アジア系アメリカ人に対する「ガラスの天井」は存在するのか?
Box 8-4 アジア系アメリカ人に対する暴力
Box 8-5 事例:カリフォルニアに住む太平洋諸島系
第9章 アラブ系アメリカ人
アラブ系アメリカ人とは何者なのか?
アラブ系アメリカ人の資源占有率
アラブ系アメリカ人に対する差別の力学
差別への対応:エスニック集団の形成
まとめ
議論のポイント
Box 9-1 著名なアラブ系アメリカ人
Box 9-2 愛国者法と正義
Box 9-3 9・11以降のアラブ系アメリカ人とイスラーム教徒に対するヘイトクライム
第10章 アメリカにおけるエスニシティの将来
新たな移民
移民のジレンマ
将来における差別の力学
エスニック的混合の新たなパターン
多文化社会アメリカが抱える問題の本質
結論:21世紀アメリカ社会における社会正義実現のための闘い
議論のポイント
Box 10-1 なぜメキシコ人はアメリカにやって来るのか?
Box 10-2 アメリカ国内におけるエスニシティ別の移民の実態(2003年)
Box 10-3 アメリカ生まれと外国生まれの労働者の経済状況の改善
Box 10-4 多文化主義はどのような場所で成功するのか?
Box 10-5 岐路に立つアファーマティブ・アクション
訳者あとがき
用語解説
参考文献
前書きなど
訳者あとがき
本書は、Adalberto Aguirre, Jr. and Jonathan H. Turner, American Ethnicity: The Dynamics and Consequences of Discrimination, Fifth Edition, MacGrow-Hill, p.368, 2007の全訳である。
著者の1人アダルベルト・アギーレ・ジュニアは、カリフォルニア大学リバーサイド校の社会学教授で、『アメリカ合衆国における人種、人種主義、死刑制度』『高等教育におけるメキシコ系アメリカ人』『21世紀におけるジレンマ』などの著書がある。また共著者であるジョナサン・ターナーは、アギーレと同じカリフォルニア大学リバーサイド校の社会学教授として『アメリカにおける特権と貧困』『黒人と白人関係の社会史』など多くの著書と学術論文を著している。両者ともにアメリカのエスニック集団の研究者、社会学者として高い評価を受けている。
本書は、アメリカ合衆国が抱える人種・エスニック問題の実態や特徴を独自の統一理論を用いて分析し、まとめたテキストであり、同時に研究入門書である。第1章では、アメリカの人種・エスニック問題の本質を理解するうえで不可欠な基本的概念を詳しく解説し、第2章では、それらの基本概念を有機的に結びつけて、1つの「統一理論(an unified theory)」を構築している。さらに第3章以降の各章では、この統一理論に依拠して、アメリカにおける各エスニック集団の特徴をわかりやすく描き出している。各章のタイトルは以下の通りである。第3章「アングロサクソン中心とエスニシティに基づく対立(The Anglo-Saxon Core and Ethnic Antagonism)」、第4章「白人系エスニック・グループ(White Ethnic American)」、第5章「アフリカ系アメリカ人(African Americans)」、第6章「先住アメリカ人(Native Americans)」、第7章「ラティーノ(Latinos)」、第8章「アジア系・太平洋諸島系アメリカ人(Asian and Pacific Island Americans)」、第9章「アラブ系アメリカ人(Arab Americans)」、第10章「アメリカにおけるエスニシティの将来(The Future of Ethnicity in America)」。
第3章以下の各章では、共通する社会学的指標(所得、教育、職業、平均寿命、住宅事情など)を用いて、各エスニック集団の特徴について比較分析がなされており、それぞれの集団の社会学的特徴ならびに各エスニック集団間の類似点と相違点そして差別と偏見の実態が簡潔に分析されている。
加えて、本書の特徴は以下の点に求められる。第1に、2000年の国勢調査ならびに、その後数年ごとに米国勢調査局が発表した人口推計に基づき、各エスニック集団に関する実証的分析がなされている。第2に、アメリカ社会における各エスニック集団間の「差別」の実態を客観的に分析している。アフリカ系アメリカ人や近年急増しているラティーノに対する差別や偏見、また2001年9月11日の同時多発テロ以降に頻発したアラブ系アメリカ人にアメリカ社会で実際に生じた人種差別問題(人種的偏見に基づいてなされる犯罪・ヘイトクライム)についても詳細に言及している。第3に、アメリカのエスニシティ問題の核心を多くの図表や数値を用いて平易に分析・説明しており、学生や一般読者がこのテーマを理解し、知的関心を深めることが可能である。第4に、「学習と研究への指針」が充実している。各章末には、その章で取り上げられたキーワードや基礎概念がリストアップされ、その説明がなされている。また「議論するべき課題(Points of Debates)」が明示されるなど、読者が問題点を整理し、理解を深めるためのさまざまな工夫がなされている。加えて、著者が管理・運営するウエッブサイトにアクセスすることで、読者の理解が深まり新しいデータが入手可能となっている。このサイトは定期的にアップデートされており、米国勢調査局のアドレスなど専門家が研究を進める際に有用な基礎情報やデータに簡単にアクセスできて大変使い勝手がよい。さらに巻末には、この研究テーマに関する基礎的参考文献が多数紹介されており、広くアメリカのエスニシティ研究を志す学部生・大学院生や研究者にも大いに役立つものと確信する。
(…後略…)