目次
はじめに
第1章 4年で地震が起きる確率70%の怪
○読売新聞の衝撃記事
東大地震研究所の正式発表ではない
首都直下型地震の範囲は
新しい現象が起きたのでもなく、最新の研究成果でもない
地震研が指摘する読売新聞の4つの誤り
いつまでのデータを活用した試算なのか
東大地震研グループの事実隠蔽疑惑
訂正記事を出さない新聞各紙の無責任
○政府の発表している確率30年で70%と、どうしてそれほど違うのか
○東大地震研グループの確率と地震調査委員会の確率との違い
○東大地震研グループによる試算
4年以内に70%はいかにして計算されたか?
東大地震研グループの誤り
○そもそも、マグニチュードって何?
マグニチュードとエネルギー
グーテンベルグ・リヒターの法則
の使った地震の回数
今後4年間の地震の回数
余震の減少法則
半年間の余震の数と今後4年間の余震の数
東大地震研グループの再計算の検証
第2章 確率の意味
○確率とはどのようなものか
意味がよくわからない「確率」
間違いだらけの辞典の定義
天気予報の確率
地震の確率も多数の試行が前提
確率概念のまともな説明
同じ条件下での偶然現象が前提
○確率70%の意味
確率70%に基づく実験
確率70%をシミュレーションすると……
確率70%のわかりやすい例
確率70%の事象の起こり方
第3章 東大地震研グループのさらにくわしい分析
○東大地震研グループはどのようにして確率70%を算出したのか
資料はどこで手に入るか
確率70%の計算根拠
首都圏誘発地震を狭義の余震とする根本的誤り
○「余震の確率評価手法」の基本的考え(1)大森公式
東北大地震の余震
○「余震の確率評価手法」の基本的考え(2)グーテンベルグ・リヒターの法則
○ポアソン分布による確率の計算
二項分布からポアソン分布へ
ポアソン分布に従う具体例
4年間に、マグニチュード6.7以上7.2以下の地震が発生する確率
東大地震研グループの4年で確率70%の信憑性
第4章 東海地震発生の30年確率88%の仮面をぐ
○3つのデータから4つめの数値を予測できるか
地震の起きる間隔はBPT分布に従う、と仮定
BPT分布の基になるブラウン運動
BPT分布の基礎としてのズレを含むブラウン運動
BPT分布を設定した理由
αの値の違い
○東海地震が今後30年間で発生する確率88%の導き方
BPT分布の仮定は合理的か
○不適切な「条件付き確率」
条件付き確率とは
東海地震が30年間に起きる確率88%はどう導かれたか
条件付き確率を使うのは適切か
第5章 不毛な地震予知・地震発生確率からの脱却を
○地震発生確率は妖怪
○まともな地震学者の意見に耳を傾けよう
前書きなど
はじめに
2011年3月11日、日本で観測史上初めてのマグニチュード9.0という超巨大地震が発生し、多くの犠牲者を出してから、地震や原発の情報は我々の生活に不可欠のものとなった。
そんな中、読売新聞が2012年1月23日付の1面で、「マグニチュード(M)7級の首都直下地震が今後4年以内に約70%、30年以内に98%の確率で発生するという試算を、東京大学地震研究所の研究チームがまとめた」と報じた。
これがきっかけになって、他の新聞はもちろん、テレビ、週刊誌と、この話題は大きく取り上げられた。一種のパニックが起きたと言ってもよい。
しかし、政府の地震調査委員会は従来から、首都圏で今後30年間で大地震が起きる確率は70%としており、今回の騒動のあとも変更しないとしている。
我々一般市民はどちらを信用すればいいのか。
そもそも、「確率」という概念がわかりにくい。「『4年間で70%』って、どういうこと?」「よくわからない」という人が多い。
一般市民にとっては、「地震発生確率」は、正体がわからない、いわば、「妖怪」である。
原子力発電、原発事故、放射能のことも同様であるが、我々は「今まで勉強してこなかったからわからない」では済まされない時代に生きている。
「地震発生確率」についても、その正しい理解が求められている。
私の専門は確率論と数学教育であり、確率とは何か、その基礎概念や歴史的な変遷、数学教育における確率の扱い、等を研究課題としてきた。このような専門的なこれまでの蓄積をもとにして、「地震発生確率」について、一般市民の立場で解説したのが本書である。
本書が、「地震発生確率」という妖怪の仮面をぐことになっていることを期待している。
(…後略…)