目次
序文(トニー・アトウッド)
著者のことば
謝辞
はじめに
本書の使い方
アスペルガー症候群と高機能自閉症の概要
第1部 自分の感情に気づき、対処する
イントロダクション
プログラム1 単純な感情に気づく ネガティブな考えをポジティブな考えに変える
プログラム2 さらに多くの感情を認識し、定義づける 非言語の手がかりを感情と関連づける
プログラム3 感情を表現する 感情のレベルを測る
プログラム4 ストレスI:データを集める ストレスシグナルと、ストレスの原因と影響を知る
プログラム5 ストレスII:ストレスレベルを自分でモニタリング(監視)する リラックス法を実践する
プログラム6 ストレスIII:ストレスを予防する
第2部 コミュニケーションスキルとソーシャルスキル
イントロダクション
プログラム7 基本的な会話の受け答え
プログラム8 相手の非言語・状況の手がかりに気づき、読み取る
プログラム9 人と会ったとき・別れるときの挨拶
プログラム10 会話を始める
プログラム11 非言語の会話スキルを使う:SENSEを使った会話
プログラム12 口調を読み取り、使いこなす
プログラム13 会話のマナー
プログラム14 紹介をする
プログラム15 公私の区別
プログラム16 助けを申し出る・助けを求める
プログラム17 ほめる・ほめられる
プログラム18 対立を解決する ネガティブな感情や意見を伝える
第3部 抽象思考スキル
イントロダクション
プログラム19 比喩的な表現
第4部 行動の問題
イントロダクション
プログラム20 指示に従う
付録A 参考資料一覧
付録B 生徒用教材
付録C 記入用フォーム
付録D プログラム進行管理表
付録E 用語集
監修者あとがき
著者・監修者・訳者紹介
前書きなど
監修者あとがき
(…前略…)
多くのソーシャルスキル支援と同様、本書で紹介しているプログラムにはロールプレイが取り入れられている。著者も指摘しているように、獲得したスキルを他の場面でも使えるような般化が支援成功のカギとなる。ASDのある人々のソーシャルスキル獲得およびそれに対する支援を難しくしていることの一つに、彼らの多くはこの般化が難しいという事実がある。プログラム中のロールプレイでは、児童生徒や支援者にとって社会的状況はわかりやすく、特定のソーシャルスキルを行うことに関係のない刺激(言葉やふるまいなど)はできる限り排除されている。しかし、実生活での社会的状況には雑多な刺激がいっぱいで、ASDのある児童生徒にとってプログラムで学習したソーシャルスキルを使うキーポイントやタイミングがわかりにくくなっている。本書では、学習したスキルをより多くの社会的場面で使えるよう、段階的にプログラムが組まれている。実は、この部分がソーシャルスキル支援では一番大事なところが大切なのであり、実生活でスキルを使い、その効果を「本人」が自分で理解し納得するところにある。ASD支援でよく言われる「成功体験」の積み重ねとはこのことであり、あくまでも本人が、自分の行動による、また自分にとってポジティブな結果を理解することで、般化が促進すると考えられる。
このことに関連して、ソーシャルスキル支援プログラムを行う際には、支援対象となる児童生徒の積極的参加が不可欠となる。私がアメリカと日本で支援を実践してきたなかでとても役立ったことの一つに、支援を行う際に児童生徒の支援プログラムに対するオーナーシップ(自分のものだと思うこと)を高めることがある。これはつまり、受け身でプログラムに参加するのではなく、自分である程度のイニシアティブをとって参加することを意味する。本書のプログラムはこの点において上手く構成されており、自らやってみようという気にさせていくことに細かい配慮がされている。本書の読者がプログラムを実践される際、なるべく児童生徒の意見を尊重し、彼らがリーダーシップをとっていけるような手助けを支援者として心がけることをお勧めする。支援に対するオーナーシップを高めることは、将来的に児童生徒が自分自身でソーシャルスキルの獲得や感情コントロール手段を考えていくことへの橋渡し的な役割を果たす。
本書には即実践に使えるさまざまなツール(プリント)が多く紹介されている。先にも述べたように、そのまま使えるものもあるかもしれないが、できれば児童生徒や支援者双方に合った形にアレンジして使っていただければと思う。これらのツールを使った支援は、「最終的にツールがなくても大丈夫」という支援ではなく、「ツールがあれば適応していける支援」というように考えていただけると、本書で紹介されているソーシャルスキル支援を児童生徒にとって将来的に発展して使っていただけるのではないかと思う。支援を受ける生徒が中学生である場合、中学時に支援を受けたことによって、彼が大人になったときソーシャルスキルに関する困難性がすべて解消しているということはおそらくないだろう。彼が成長するにしたがって、社会的な構成やまわりの期待は変化していく。ソーシャルスキルの支援は多くの場合生涯にわたって必要になると思われる。そのような場合、本書にあるようなプログラムを当事者の年齢に合わせて発展的に利用していくことが可能である。私自身日々の実践で経験していることであるが、子どものときに役に立った方法は、基本的に大人になっても十分役に立つ。また、本書では学齢期の子どもたちが主な対象になっているが、青年期・成人期の方々にもこれらのプログラムの基本的枠組みは十分使えるし、効果的であると考える。
私がふだん自分に言い聞かせていることは、ソーシャルスキル支援は、他人と同じようなふるまいを学習させることではないということである。普通学校では一斉指導が基本であり、多くの場合、集団行動の基準からはなれているASDのある児童生徒が注意・叱責の対象となり、彼らに対する指導も「みんなに合わせる」や「みんなと同じように行動する」ことに焦点を絞りがちになってしまう。しかし、社会的自立を目指したソーシャルスキル支援の場合、児童生徒本人が納得し、自分らしさを犠牲にしないアプローチが将来的にみてより有効な結果につながることは、私自身の就労支援にも関わっている経験からも言えることである。これはまさに本書のプログラムの根幹であり、本書を利用される方々がプログラムを実際に使ってみてこのことを実感していただければ幸いである。
2012年7月 萩原拓