目次
著作集の刊行によせて
第I部 戦間・戦後期の労働市場の変遷
第一章 恐慌と戦争下における労働市場の変貌――戦間期
はじめに
第1節 大恐慌と労働市場の変質
1 失業の累積と日雇労働市場の拡大
2 労働市場の重層化と労働運動の右傾化
第2節 戦時経済への移行と労働市場
1 準戦時体制への移行と労働力需給の転換――企業別労働市場の強化と臨時工制度
2 戦時労働統制と労働市場の変貌
(1)労働力の絶対的不足と労働力の強制駆り出し政策――上からの労働市場の組織化
(2)労働市場編成の特質
(3)戦時労務統制と労働市場機能の凍結
3 産報運動と労働組合の消滅
むすび
第二章 日本型労働市場の再編から変容へ――戦後期
第1節 戦後体制と労働市場の形成・展開
1 戦後経済の構想と完全雇用理念
2 戦後危機下の労働市場と失業政策
3 日本型内部労働市場=終身雇用制の再編
第2節 高度経済成長期の労働市場
1 高度成長と労働市場の構造変化
2 失業政策から雇用政策への転換
第3節 低成長への転換と労働市場
1 経済のサービス化と労働市場の構造変化――第一次石油危機からバブル崩壊(平成不況)へ
2 労働市場のフレキシビリティと日本的雇用調整
3 産業の構造調整と雇用・失業政策
むすび――日本的企業社会と雇用政策の将来像
第II部 戦後の「労働力女性化」の日本的特質
第三章 現代の合理化と婦人労働――一九六〇年代
1 せまりくる波――合理化
2 機械は人間を駆逐する――電話交換手の場合
3 景気に浮き沈みする女子工員――繊維の場合
4 ねらわれる既婚者
5 青春にいっぱいの太陽を!
6 むしばまれる母体
7 スマートな労務管理
8 機械化だけが合理化ではない
第四章 現段階における労働力の「女性化」とその展望――一九八〇年代
はじめに
1 現代女子労働問題の特質
2 平等基準をめぐる世界の動向
3 平等基準をめぐる日本の動向
第五章 変貌する経済と労働力の女性化――一九九〇年代
1 変貌する経済と労働力の女性化――その日本的特質
はじめに
第1節 労働力の女性化の意味するもの
1 労働力の女性化の諸指標
2 労働力の女性化を規定したもの――資本蓄積体制の新段階
3 生産と再生産の接合様式の新段階
第2節 一九八〇年代日本の経済構造調整と女性労働――雇用の女性化の日本的特質
1 雇用の女性化の日本的特質
2 労働のフレキシビリティ戦略と女性労働――日本的経営の中の女性労働
第3節 国家と女性労働をめぐる公共政策――新・性役割分業の再編
2 労働市場における性別職務分離――日本の場合
1 日本の労働力の女性化の特徴
2 性別職務分離の要因――企業・国家・労働組合の関係性
3 今後の課題
質議応答
第六章 「規制緩和」の中の女性労働――一九九〇年代後半以降
1 「規制緩和」の中の女性労働――二一世紀シナリオに求められるもの
はじめに
1 規制緩和と女性労働――その戦力化を可能にしたもの
2 二一世紀に向けて――女性の労働権確立へのシナリオ
(1)日経連の「雇用システムの改革」と「均等法」改正案
(2)アンペイド・ワークの社会・経済的評価と社会政策の課題
2 新・日本的経営への移行とフレキシブル化
1 新・日本的経営とジェンダー
2 パート労働政策の動向と問題点
3 経済のグローバル化と規制緩和
1 一九九五年以降、本格化する日本の規制緩和
2 規制緩和に向かう労働法制と女性
(1)労働法制の規制緩和
(2)女性労働に与える影響
あとがき
初出一覧
索引
前書きなど
あとがき
第III巻は、戦間・戦後期(昭和恐慌期~二〇〇〇年)の日本の労働市場の歴史的展開において、女性労働がどのような地位と役割を担ってきたかに焦点をおき、その歴史的分析を行ったものである。
私が労働問題の研究に入った一九五七年は、戦後華々しく行われた社会政策論争が一段落を遂げ、「労働問題の新しいアプローチ」としての労働経済論の体系化が論ぜられていた。こうした動向の中で労働市場に関する研究は、一方では日本の労使関係分析のツールとして、他方では賃金論具体化の実践的反省として発展をみることになった。私にとっては僥倖ともいえる理論的刺激の多い時代に居合わせたといえる。当初は労働市場の一般理論をどう構築すべきかに向かい、それは一九六九年の『現代労働市場の理論』(日本評論社、増補版・一九七九年――本著作集第I巻として収録)としてまとめることとなった。その後は、日本的労使関係の特殊性をめぐる労働市場論からの解明、ならびに、ジェンダー視点を欠く労働市場分析への批判に立つ歴史・現状分析へと、研究の焦点を移していくことになった。第III巻は、いわばこうした問題関心に立って論じたものである。
本巻は二部構成となっており、第I部は、戦間・戦後期の日本労働市場の歴史的展開の特質についての分析、第II部は、とくに戦後のグローバル経済の中で展開した日本の労働市場と女性労働との関係性に焦点をおき、日本の労働市場政策のもつジェンダー的性格の批判的分析を行った。
第I部「戦間・戦後期の労働市場の変遷」は、第一章「恐慌と戦争下における労働市場の変遷――戦間期」と、第二章「日本型労働市場の再編から変容へ――戦後期」の二つの章を収めた。
(……)
第II部は、第二次大戦後の「労働力の女性化」の日本的特質を解明することを目的に編んだものである。戦後のグローバルな経済発展に関連づけて、時系列的に問題点の推移がわかるよう、四つの章、第三章「現代の合理化と婦人労働――一九六〇年代」、第四章「現段階における労働力の『女性化』とその展望――一九八〇年代」、第五章「変貌する経済と労働力の女性化――一九九〇年代」、第六章「『規制緩和』の中の女性労働――一九九〇年代後半以降」、を収録した。
(……)
本巻は、日本の労働市場の歴史的展開をジェンダー視点から論じてきたが、いま改めて思うことは、過去の経験から学ぶこと、また、時代を先取りした世界の経験から学ぶことがいかに多いかである。グローバル経済浸透、加速した超高齢社会、少子化社会に入った日本にとって、「両性稼ぎ手モデル」の確立は、喫緊の課題であるといわなければならないであろう。