目次
著作集の刊行によせて
第I部 男女賃金格差(一九六〇年代)――労働市場研究からのアプローチ
第一章 婦人の賃金
第1節 低賃金の中の低賃金
第2節 低賃金層への婦人のふきだまり
第3節 昇進さしとめの足かせ
第4節 女性の職場と低賃金
第5節 賃金体系の中の差別
第6節 男女同一労働同一賃金の要求
第二章 婦人の低賃金構造と労働組合運動
1 婦人賃金の問題点と課題
1 婦人の低賃金と労働運動
2 婦人はなぜ低賃金か
3 日本の婦人の低賃金と男女の格差
4 今後の課題
2 婦人のしごとと賃金
1 労働力不足の中の婦人の低賃金
2 婦人の低賃金の原因は何か
3 運動の方向と課題
第三章 婦人労働者の賃金問題
第1節 婦人賃金問題の所在
第2節 男女賃金格差の構造
1 婦人の賃金構造の特徴
2 労働市場における婦人の地位と賃金決定
3 企業内賃金制度と男女差別賃金
第3節 男女同一労働同一賃金実現への課題――ILO一〇〇号条約発効と関連して
第II部 日本の賃金決定機構の特殊性とジェンダー(一九七〇年代)
第四章 七〇年代春闘と婦人の賃金
1 婦人の低賃金と今日の課題―――ウーマン・パワー政策および所得政策に関連して
はしがき
1 七〇年代ウーマン・パワー政策の新局面
2 七一年春闘と所得政策のねらい
むすび
2 春闘と女の賃金
1 インフレの中の七三年春闘の意義
2 賃金の中の差別構造――女の賃金の実態
3 労働の中の復権――賃金闘争における具体的課題
3 女性の低賃金と「春闘」批判
1 「ベースアップ要求方法」から「個別賃金要求方式」への転換について
2 一九六〇年代職務給導入をめぐる労働組合の対応――論争「“大幅賃上げ”か“横断賃率”か」
第五章 女子労働者と賃金問題
はじめに――女子賃金問題の所在
第1節 女子の賃金構造の特質
第2節 日本の賃金決定機構の特質と女子賃金
1 労働市場における女性の地位と賃金交渉
2 企業内賃金制度と女子の賃金
むすび――男女同一賃金のための今日的課題
第六章 日本の企業内賃金構造の特質――いわゆる年功制の分析視角をめぐって
はしがき
第1節 賃金体系論の再構成――日本の賃金体系の特殊性
第2節 年功制をめぐる経済的要因と制度的要因――舟橋氏の拙稿批判によせて
1 年功賃金成立要因をめぐる論点
2 年功賃金成立時点をめぐる論点
むすび
第III部 いかにして男女同一価値労働同一賃金原則を実現するか――その具体的階梯をめぐって
第七章 イギリス一九七〇年男女「同等賃金法」について
はじめに
1 イギリス一九七〇年「同等賃金法」成立の背景
2 一九七〇年法の内容と問題点
3 男女同等賃金実現の課題
第八章 男女賃金格差とコンパラブル・ワース――一九九〇年代後半以降
はじめに
1 性別賃金格差の実態――国際比較からみた日本の位置
2 なぜ男女賃金格差が生まれるのか
3 なぜいま、コンパラブル・ワースが注目されるのか
4 欧米のコンパラブル・ワース運動の実例
5 日本におけるコンパラブル・ワースの適用について
むすび――日本への適用の意義と限界について
第九章 再燃する男女同一価値労働同一賃金原則(コンパラブル・ワース)の意義
1 台頭するコンパラブル・ワース運動
2 コンパラブル・ワースをめぐる論争と、その原則具体化への課題
付論
〈付論〉ILO看護婦条約の背景と意義
はじめに
1 「看護婦条約・勧告」成立までの経過と労使の争点
2 日本の看護婦の労働権の実態とILO「看護婦条約・勧告」のもつ意義
あとがき
初出一覧
索引
前書きなど
あとがき
女性の低賃金問題、あるいは男女賃金格差問題は古くて新しい問題であり、まさしく女性労働のジェンダー問題の核をなすものである。私が研究生活に入った一九五二年当時は、賃金格差についても抽象的な本質論議(価値論)に終始していた(一九五三年の拙稿「男女賃金格差と男女同一労働同一賃金原則についての一考察」大阪市立大学経済研究会『経済学雑誌』第二九巻第三・四号も、その限界を共有していたことは否めない)。
そうした中で、男女賃金格差論争に重要な一石を投じたのが、氏原正治郎氏の「労働市場論の反省」(『経済評論』第六巻第一一号、日本評論社、一九五七年一一月)であった。この論文は、労働市場分析を抜きにした賃金決定論に対して鋭い批判のメスを加え、賃金分析の方法への反省を促すものであった。それに触発されて発表したのが、中村(=西口)俊子氏との共同執筆になる「労働市場と賃金決定」(社会政策学会編『労働市場と賃金』有斐閣、一九六一年)である。
労働市場とは、労働力の売り手と買い手が出合う場であり、それは企業外労働市場と企業内労働市場(内部労働市場)の両者を含むが、この論文を機に私の研究も、労働市場の構造とそのもとでの競争分析こそ、賃金決定の具体的な媒介環であると考えるようになった。したがって、男女賃金格差、女性の低賃金問題の分析には、労働力の需要・供給構造の変化の中で女性労働がどのような地位を占めるのか、総じて労働市場構造の中で女性労働の占める地位を明らかにすることによって、具体化する必要があると考えるようになった。
こうした分析枠組みに基づいて、女性の低賃金構造、男女賃金格差論を発表したのが、「日本における婦人の雇用構造と賃金」(大阪市立大学経済学部『経済学年報』第一五集、一九六二年)である。その点からいえば、この論文は本巻に収録すべきものであるが、すでに本著作集第Ⅱ巻『戦後女子労働史論』(初出は、有斐閣、一九八九年)に収められているので、重複を避けて本巻からは省くことにした。しかし、女性賃金の内的構造を分析した最初のものであるので、関連論文として参照していただきたい。
本巻を編むにあたっては、時代背景に規定づけられた女性賃金問題の焦点を浮き彫りにするため、三部に分け、第I部を、一九六〇年代(正確には一九五〇年代後半から高度経済成長の前半期を含む)における労働市場研究からのアプローチによる男女賃金格差の実態分析、第II部を、一九七〇年代(高度経済成長から一九七三年秋の低成長への転換期以降)を中心として展開された日本的賃金交渉機構のもつジェンダー分析におき、第III部を、一九〇〇年代半ば以降に新たに台頭してきた男女同一価値労働同一賃金原則の実現をめぐる論議を中心にした。なお、付論として、一九七八年発表の「ILO看護婦条約の背景と意義」と題する拙稿を収めた。
第I部「男女賃金格差(一九六〇年代)――労働市場研究からのアプローチ」は、第一章「婦人の賃金」、第二章「婦人の低賃金構造と労働組合運動」、その1「婦人賃金の問題点と課題」、その2「婦人のしごとと賃金」、第三章「婦人労働者の賃金問題」からなっている。
(……)
第II部「日本の賃金決定機構の特殊性とジェンダー(一九七〇年代)」は、第四章「七〇年代春闘と婦人の賃金」、その1「婦人の低賃金と今日の課題――ウーマン・パワー政策および所得政策に関連して」、その2「春闘と女の賃金」、その3「女性の低賃金と『春闘』批判」、第五章「女子労働者と賃金問題」、第六章「日本の企業内賃金構造の特質――いわゆる年功制の分析視角をめぐって」、の三章五論文からなっている。
(……)
第III部「いかにして男女同一価値労働同一賃金原則を実現するか――その具体的階梯をめぐって」は、第七章「イギリス一九七〇年男女『同等賃金法』について」、第八章「男女賃金格差とコンパラブル・ワース――一九九〇年代後半以降」、第九章「再燃する男女同一価値労働同一賃金原則(コンパラブル・ワ―ス)の意義」の三章からなっている。
(……)
〈付論〉として、一九七八年に発表した「ILO看護婦条約の背景と意義」と題する拙稿を収めた。これは一九七七年、ILO第六三回総会で採択された「看護職員の雇用・労働条件及び生活状態に関する条約」(通称「看護婦条約」)、ならびに同勧告について、その意義を論じたものである。この「条約・勧告」実現までの経過と労使の争点は、日本の看護師の労働権の実態に照らしても、そのもつ意義は大きいと考え、ここに収録した。