目次
序にかえて現代に生きるケルト
第1部 ケルト・ミュージックから見たアイルランド
1 ダニー・ボーイとロンドンデリーの歌
2 「血の日曜日」を忘れられるか――U2とデリー市民の温度差
3 ブリティッシュかアイリッシュか――プロテスタントとカトリック
4 アイリッシュダンス――なぜ足だけで踊るのか
[コラム01]イギリスおよびアイルランドという“国”――連合王国の成立
5 夜毎繰り広げられるパブでのセッション――アイルランド伝統音楽(1)
6 ショーン・オ・リアダとザ・チーフタンズ――アイルランド伝統音楽(2)
7 酔いどれ天使ポーグス
8 クホリンに憧れて――ケルト神話の英雄になりたかった男フィル・ライノット
9 アイルランド伝統音楽の懐の深さ――クラナド
10 エンヤ――ヒーリングという新しいアイルランド伝統音楽
[コラム02]流浪の民ケルト――その民族と言語
第2部 ケルト・ミュージックから見たウェールズ
11 ウェールズとカムリ、ふたつの国名、ふたつの言葉――「ハルレッフの男たち」と「わが父祖の国」
12 「歌の国」ウェールズの誕生――力強い低音の魅力、男声合唱団
13 中世ウェールズと音楽――職業詩人バルズと民謡
14 ウェルッシュ・ハープ――伝統から前衛まで ロードリ・デイヴィス
15 ウェールズの歌姫たち――メアリー・ホプキン、シャルロット・チャーチ、シアン・ジェームス
[コラム03]No Vacancies !?――宿を取ろう 現代宿泊施設事情
16 現代ウェールズ、ふたつの文化圏――ダヴィズ・イワンとカール・ジェンキンス
17 サッチャリズムの光と影――80年代という時代の節目に
18 「国旗」を掲げて――ジ・アラームの『Changes.』と『Newid.』
19 炭鉱の消えた「丘」――閉山後のコミュニティ崩壊とロック
20 北、そして、南――“バイリンガル”ウェールズ
[コラム04]ヴァーチャル・トラベルVS観光案内所――情報収集あれこれ
第3部 ケルト・ミュージックから見たスコットランド
21 「蛍の光」と「故郷」の作者は人気詩人――ロバート・バーンズを歌う人々
22 王国スコットランドと「国歌」
23 バラッドとフォーク・リバイバル
24 渓谷に響け!――バグパイプとコールドパイプ
25 クラン(氏族)とバグパイプ――「口三味線」が伝えた伝統文化
[コラム05]当代交通事情――空路、海路、陸路の公共交通機関の利点と欠点
26 16世紀、変革の時――吟遊詩人、労働歌、そして賛美歌
27 ロウランドとスコットランド啓蒙――エディンバラとグラスゴー
28 管楽器がなくとも――伝統的なハープとフィドル
29 マン島――失われし言葉、失われし音楽
30 スコティッシュ・ゲール語で歌おう――遅れてきたケルト語復興運動
[コラム06]イギリス・アイルランドを走ろう――レンタカーと運転
第4部 アイルランドに残るケルト文化
31 ここがケルトの生きる道――ケルト土着信仰と聖パトリックの伝道
32 修道院はケルト・タイム・カプセル
33 背の高い十字架の変種(ハイ・クロス・ヴァリエーション)――ケルト土着宗教の呪縛
34 太古の民、太古の神々――神話の島アイルランド
35 スコティッシュ・コネクション――北アイルランド海岸通り駆け足紀行
36 壁画に思いをぶつけて――北アイルランド、対立と悲劇の歴史
37 ケルトに惹かれ、ケルトを離れ――ダブリンとコークの今
[コラム07]イギリス・アイルランドを食らう(1)――朝食から軽食まで腹ごしらえはこれで十分
第5部 ウェールズに残るケルト文化
38 古代に思いを馳せて――アングルシー島の三つの呼び名
39 聖なる“囲い”スラン――初期キリスト教の跡
40 アイリッシュ・コネクション――アイルランドからの移住者の痕跡
41 民族の祭典アイステズヴォッド――詩人の“王国”ウェールズ
42 アルスルって知っていますか?――ウェールズ・アーサー王列伝
43 伝説の息づく土地――異界、水、そして言葉
44 ウェールズの王子と「反骨精神」――歴史の陰で独立を求め
45 英語か? ウェールズ語か?!――北、南、そして中部国境地帯
[コラム08]イギリス・アイルランドを食らう(2)――主菜に舌鼓
第6部 ブリテン島他の地域に残るケルト文化とその周辺
46 スコットランド独立の象徴――スターリングを見守る2人の英雄
47 高地行きの列車に乗って――ジャコバイトと高地の中心都市インヴァネス
48 クランとハイランド西部――スカイ島と悲しみのグレンコー
49 ロウランド――エディンバラとグラスゴーから見たケルト
50 霧に囲まれた神秘の島――マン島
51 ローマ軍駐留とケルト――チェスターとヨーク、ハドリアヌスの長城
52 ロンドン、ケルト巡り――テムズ川、大英博物館、ボグ・マン
[コラム09]イギリス・アイルランドを飲みつくす!――イギリス流ビール・エールと飲料水
ケルト(イギリス・アイルランド)を知るための文献・情報ガイド
終わりに――終章にかえて
索引
前書きなど
序にかえて――現代に生きるケルト
唐突だが、皆さんはケルトと言われて、何を思い浮かべるだろうか?
たとえば、どこまでも広がりゆくようなエメラルド色の大地。そこに眩いばかりの夏の日差しを浴びて建つ、古代のスタンディング・ストーン(立石)。
あるいは今にも泣き出しそうな厚い灰色の雲。立木も枯れ、空気も凍てつくその冬の空の下、廃墟に建つ、円環を戴いた十字架。
あるいは鎧で身を固めた敵兵の軍勢に、果敢に立ち向かう青い染料で体を染め上げた半裸の戦士。そして魔法を操るドルイド僧に、松明を掲げた女傑たち。
あるいは夜の帳が下りたころ、三々五々、各々楽器を持ち寄り、パブに集まる村人たち。そして酒の量が過ぎ、演奏できなくなるまで、夜ごと繰り広げられる音楽と踊り。
あるいは気の遠くなるほど長い詩歌を、ハープを片手に暗誦する吟遊詩人。
あるいは螺旋を基調とした、どこまでも終わりのない編み目模様の装飾品――。
ケルトと言われて想像するのは、こんなところだろうか? ケルトというと古代の民、そして遺跡にケルト十字を想像する人が多いようだ。
だが果たして、ケルトは太古のものだろうか? ケルトは強国に戦いで敗れ、歴史の闇に消えた幻の民族なのだろうか?
(…中略…)
そこで本書では、ブリテン島およびアイルランド島で現代に生きる/残るケルトを、音楽と現地での旅を通じて浮き彫りにしようとする。そのため私は次のような手法をとった。まず、この地域に点在する伝統音楽や遺跡/史跡に、個々に焦点を当てる。更にそれらの間にある隔たりをつなぐ。ケルトの螺旋を読み解くのではなく、散在するいくつもの点と点を際立たせ、それを線でつなぐ。この過程で現代に生きるケルトを浮かびあがらせようとしたのである。
本書は大きく2部に分かれる。前半では音楽を扱い、後半ではケルトを巡る旅を描く。
具体的には音楽の部では、いわゆる“ケルティック・ミュージック”と呼ばれる伝統音楽を基軸に、そこから派生したポピュラー・ミュージックを中心に扱う。ここでは伝統音楽一辺倒に音楽を読み解くのではなく、ポップスやロックはもちろんのこと、パンクやヒップホップ、テクノにエレクトロニカからフリージャズまで多義に渡る音楽ジャンルに言及したつもりである。
一方、旅の部門は筆者自身が現地を旅した時に書きつけた日記や撮影した写真を中心に、現地ならではの情報や帰国後に得た情報を織り交ぜながら、書き綴った。読者の旅のヒントにでもなれば幸いである。
なお地名や人名は、主要なものについては日本語のガイドブックや音楽雑誌等を参考にしたが、それ以外の細かいものはJ・C・ウェルズ氏による『発音辞典』(Longman、第3版)を参考に、できる限り原語に近い発音をカタカナで表記した。そうは言ってもウェールズ語はともかく、ゲール語には明るくない。様々なご指摘もあろうかと思う。お気づきの方はご教示いただければ幸いである。
なお便宜上、どちらもアイルランド、ウェールズ、そしてスコットランドおよびその周辺と分けてある。
願わくはケルト像に、本書から新しい光があたらんことを。