目次
〈講座 現代の社会政策〉の刊行によせて
序章 生存・地域・労働と生活保障・支援
第1部 生活保障と支援の制度的展開と課題
第1章 最低生活の性格変化と直面する課題――公的扶助と最低生活の関係史から(中川清)
1 現代の最低生活への視点
2 公的扶助の展開と最低生活像の特徴
3 現代の最低生活と制度的課題
第2章 公的年金保険の役割(一圓光彌)
1 老後の生活維持手段の中で公的年金の果たす役割
2 現金による生活の保障と医療・福祉の保障の関係
3 高齢期の所得保障と年金の給付構造
4 社会保険の年金と財源
5 所得比例の年金と最低年金の確保
6 所得比例年金制度の一元化と個人単位化
7 年金の財政方式と財政再計算
第3章 地域社会における医療のゆくえ――イギリスNHSの変遷をもとに(白瀨由美香)
1 イギリスへのまなざし
2 医療へのアクセスの変遷
3 地域社会における医療をめぐる課題
4 これからの医療に向けて――イギリスと日本
第4章 介護保険制度における「介護の社会化」の陥穽――高齢者介護システムの系譜と家族モデルに焦点をあてて(井上信宏)
1 高齢者介護システムを考える二つの問題意識
2 高齢者の主体化と老人福祉の確立
3 家族介護の顕在化と在宅福祉サービスの拡大
4 日本型福祉社会と自立する高齢者:二つの家族モデルとそれを支える地域社会
5 家族介護に関する発想の転換と新しい高齢者介護システム
6 介護保険制度における「介護の社会化」の陥穽
第5章 社会福祉基礎構造改革の10年――総括と今後の展望(所道彦)
はじめに
1 社会福祉基礎構造改革の背景
2 社会福祉基礎構造改革へのスタンス
3 基礎構造改革の展開(2000‐2010年)
4 基礎構造改革の評価
5 ポスト基礎構造改革の方向性
おわりに
第2部 生存・地域・仕事をめぐる社会政策
第6章 社会政策としての自殺対策――「自殺総合対策大綱」の批判的検討(木原活信)
はじめに
1 政府の自殺総合対策大綱成立の経緯と概要
2 「追い込まれた末の死」という言説
3 雇用問題と自殺
4 スピリチュアリティ、宗教的視点の欠如
5 ソーシャルワークの視点の欠落
6 むすびにかえて 国家と自殺の間にあるもの――市民的公共圏と自殺予防
第7章 地域に根ざした施設発のソーシャルワーク――救護施設の実践からみる、トータルな生活保障の構築(松木宏史)
はじめに
1 救護施設とはどのような施設か
2 救護施設のあらたな挑戦――地域生活移行への志向
3 救護施設のあらたな挑戦から何を学ぶか
4 利用者の抱える問題を「ほっとけない」問題として共通課題にしていく仕組みづくり
第8章 障害者の就労および雇用支援政策の現状と課題(山村りつ)
1 障害者の就労および雇用に関する議論
2 わが国の就労支援のための制度
3 就労支援に関する制度の課題
4 就労および雇用支援の目指すべきもの
第9章 「生きていることは労働だ」――運動の中のベーシック・インカムと「青い芝」(山森亮)
1 運動
2 理論
3 青い芝の会:日本の障害者運動
【補論】「リバタリアン・バージョン vs. アウトノミア・バージョン?」
第10章 ディーセントワークの指標化をめぐって――今後のための基礎的作業(埋橋孝文)
1 ディーセントワークの指標
2 DWの性格――ワークフェアとメイキング・ワーク・ペイとの比較を通して
3 DWの指標化をめぐる方法論のサーベイ
4 提案されている指標に基づく国際比較結果の紹介
5 結びにかえて
あとがき
索引
編著者・執筆者紹介
前書きなど
序章 生存・地域・労働と生活保障・支援
20世紀に本格的に制度化され展開した社会保障は、人々の生活にはかりしれない影響を及ぼし、今日、人々の生き方にも深く内面化されている。「生活保障と支援の社会政策」と題する本巻では、社会保障とその関連政策の展開と課題を、あらためて生活のレベルにおいて検討してみたい。所得保障や社会サービスの公的給付が、生活レベルで具体的にどのように機能し作用するのかを検証し、今後の政策課題を示すことが本巻の一つの目的である。したがって、社会保障の政策主体よりも、社会保障の政策対象に軸足を置いた議論が重ねられることになるが、生活保障という用語は、このことの表明でもある。
ところで生活保障の現場は、公的給付のみではなく、家族、地域、企業などの広範な担い手によっても支えられてきた。21世紀の生活保障の一つの特徴は、様々な担い手の役割にあらためて注目され、その役割を補完し代替するような形で、生活保障のまわりに各種の生活支援が政策的に配置されることである。生活の質や個別ニーズへの関心の高まりも、生活保障と生活支援の連携を要請している。この点を踏まえると、本巻の目的は、生活保障と生活支援のあり方と拡がりを、あらためて社会政策として位置づけ展望することにある。新旧の生活課題を取り上げて関連づけ、従来の制度枠組みとの調整を図りながら、「生活保障と支援の社会政策」をいくつかの視点から提示してみたい。
この課題に応えるため本巻は、第1部「生活保障と支援の制度的展開と課題」と第2部「生存・地域・仕事をめぐる社会政策」の二つで構成される。前者は、制度的表現を用いると、公的扶助、公的年金、医療保障、介護保険、社会福祉改革の五つの章で構成される。ここでは、生活保障の大まかな制度枠組みとその展開が概括されるとともに、生活支援との連携にも言及される。後者では、自殺対策、救護施設、障害者の就労支援、ベーシック・インカム、ディーセントワークの五つが取り上げられる。ここでは、これまでの社会政策では正面から論じられることが少なかった論点が提示される。
(…後略…)