目次
読んでいただく前に(研究委員会:永山誠)
第I部 一番ヶ瀬福祉文化学の源流をたどる
第1章 21世紀の福祉と福祉文化――一番ヶ瀬福祉文化学との出会い(片岡千鶴子)
第1節 恵の丘長崎原爆ホームの福祉活動
第2節 純心女子学園の被爆体験のこと
第3節 ヨハネ・パウロII世訪日最後の訪問地:「恵の丘」原爆ホーム
第4節 21世紀の福祉を担う人材の養成
第2章 一番ヶ瀬福祉文化学――その人物と学問の歴史(津曲裕次)
第1節 序論
第2節 本論 一番ヶ瀬福祉文化学――その人物と学問の歴史
第II部 福祉文化学の21世紀における展開
第1章 福祉文化の二つの潮流とその論点――行政側の福祉文化論を理解する(永山誠)
第1節 「社会関係」の視点から考える
第2節 福祉文化についての二つの系譜
第3節 行政資料にみる「福祉文化」の内容
第4節 福祉文化の論点と21世紀の課題
第2章 被爆者福祉学という課題(山田幸子)
はじめに
第1節 福祉における「被爆者」の位置づけ
第2節 教育と福祉の接点
おわりに
第3章 一番ヶ瀬福祉文化学と東アジア福祉研究(沈潔)
第1節 東アジア福祉文化への思い
第2節 一番ヶ瀬の東アジア福祉文化論への接近
第3節 アジア福祉文化論の展開:異文化介護と多文化共生
第4章 豊楽美なHM福祉文化学(日比野正己)
第1節 福祉文化学との出会い
第2節 福祉文化(学)の概念の検討
第3節 HM福祉文化学の展開と課題
第5章 地域生活史の視点――近代社会事業史研究の課題(杉山博昭)
第1節 福祉文化学と歴史研究
第2節 東京都養育院百年史研究の視点
第3節 地域生活史研究の展開
第6章 精神障害者への「集団料理活動」を介した生活福祉支援の意義――一番ヶ瀬福祉文化学にひかれて(溝部佳子)
はじめに
第1節 本論
第2節 その後の展開
おわりに
第7章 総合的な生活保障の視点――三田谷啓に関する研究(本保恭子)
はじめに
第1節 三田谷の治療教育の実践とその理論に関する研究
第2節 「子どもの相談」を中心とした児童保護事業に関する研究
第3節 母性教育と育児啓蒙に関する研究
第4節 三田谷の執筆物に関する研究
第5節 児童文化に関する研究
第6節 三田谷治療教育院所蔵史資料に関する研究
おわりに
第8章 マザーテレサの生涯――個人史的視点での研究(工藤裕美)
はじめに
第1節 種まき――マザーテレサとの出会い
第2節 発芽――博士論文への道のり
第3節 これからの開花と実り――研究の成果を生かす
第9章 労働の意義としての「人間の尊厳」――国立ハンセン病療養所の「患者作業」研究(江藤さおり)
はじめに
第1節 博士論文の目的と課題
第2節 博士論文の方法
第3節 博士論文の結果及び考察の要約
第4節 博士論文での結論
おわりに――博士論文の限界とその後の研究
第10章 高齢者の「周死期」研究と福祉課題の再検討(永峯恵理子)
はじめに
第1節 これまでの高齢者福祉におけるAging in Place
第2節 離島生活高齢者の終末期介護の変遷とその実態分析
第3節 高齢者福祉における「Aging in Place」と「周死期」の構造
第11章 高齢期生活モデルに関する研究(赤星礼子)
第1節 博士論文の概要
第2節 一番ヶ瀬康子先生に学んだ「福祉文化学」の一端
第3節 博士号取得後の研究状況・成果
第III部 福祉文化学についての論点――第20回東京大会と第21回長崎大会のこと
第1章 長崎大会がめざしたこと――特徴・成果・課題(日比野正己)
第1節 全国大会のイノベーション
第2節 4つの課題と具体化
第3節 長崎大会の開催案内
第4節 大会長挨拶
第5節 全国大会の課題と学恩
第2章 東京と長崎の二つの大会が提起したもの(河東田博)
はじめに
第1節 第20回全国大会東京大会からの提起
第2節 第21回全国大会長崎大会からの提起
おわりに――「創造的福祉文化」の創出に向けて
第3章 批判の学としての福祉文化学(薗田碩哉)
第1節 「福祉文化」研究の基本的な視点
第2節 文化批判という研究視点
第3節 遊びと楽しみ=快楽原則の再評価について
第4章 福祉文化に関する研究状況と課題
第1節 二つの全国大会における研究分野での成果
第2節 福祉文化学関連テーマの学位取得者の増加
第3節 包括的な学問としての福祉文化学の未来
あとがき(研究委員会:永山誠)
前書きなど
読んでいただく前に
(…前略…)
2 福祉文化学の歴史をたどる内容
第20回全国大会東京大会は新・福祉文化シリーズ第1巻『福祉文化とは何か』の成果をベースに企画された感があると理解したので、この経過を尊重して、第21回全国大会長崎大会の研究成果を当該事務局の了承を得たうえで生かし、第5巻の構成を具体化することとした。その場合、東京大会の理論面での成果を配慮しながら、長崎大会での研究成果を主たる材料に整理をしようと思う。
以下、本企画の要点を示しておきたい。
この企画の趣旨を一言でいえば、福祉文化学を端緒にさかのぼって歴史的に理解し直すことである。もちろん「福祉活動は当初の『生活保障』のレベルから次第に発展して『生きがい保障』へと発展して行く」(薗田)のであるが、その変化・発展の過程をできるだけ〈正確に理解すること〉が私たちにとって大きな研究課題なのである。とりわけ、戦後の生存権にもとづく社会福祉の抜本的な転換が進行し、21世紀に新たな社会福祉の理念に移行したのであるから、なおさら、歴史の原点に戻って福祉文化について観察し、理解し直してみることは意味があることであろう。
第5巻の企画のポイントを少し具体的に示しておこう。
第1に、福祉文化学、具体的には一番ヶ瀬福祉文化学は、長崎という地域でなぜ展開したのかである。
第2に、福祉文化のキーパーソンである一番ヶ瀬康子の福祉文化学は、どのような理由で成立し、基本的にどのような性格をもち、どのような内容であるかを明らかにすることである。実は、一番ヶ瀬福祉文化学の研究は未開拓なので継承や批判は評論的なものにとどまり、理論的検証がなされていないように思われる。これは同時に、日本における福祉文化学および日本福祉文化学会の端緒、始点を考えることと重なる部分が多い。
第3に、地域住民の実践や研究の積み重ねによって福祉文化は豊かになってきたのであるが、これを背景に、福祉文化学はどう展開したのか。この文脈での論文やレポートは本シリーズの既刊本でも多く掲載されているので、ここでは、学位取得者を中心に、その継承と変化・発展を研究領域、研究法法、研究視点からたどる。
第4に、行政側の独自の福祉文化理論のアウトラインを示すことである。従来、福祉文化という言葉は、乱暴な言い方となるが、日本福祉文化学会をはじめとする主として民間側のものと事実上考えられてきたと思われる。
ところが経済界のシンクタンクが1970年代初頭から、「新たな価値体系」の研究に着手し、言ってみれば福祉文化の検討をはじめた。次いで日本福祉文化学会が創立された89年時点になると、福祉文化は政策用語として使われるようになる。その10年後の98年になると、厚生労働省所管の社会福祉基礎構造改革で福祉文化の意味が国民に向けて開示され、はじめて行政側の福祉文化についての考え方がどのようなものか関係者の注目を集めることになる。このような歴史経過をもつフォーマルな意味での福祉文化理論のアウトラインを示すことである。
最後に述べておきたいことは、メディアや福祉専門職教育での消極的な扱いとは裏腹に、21世紀は福祉文化をめぐる熱い時代であり、“時代の寵児”だということを理解してもらいたいのである。
さて福祉文化の研究を理論的に追求するとすれば、福祉文化という用語の使用された先行事例を採取する必要がある。コープ神戸がよく取り上げられるが、日本福祉文化学会創立以前に、福祉現場で用いられていたようであるし、1960年ごろから東京では福祉文化集団というグループが実践活動に取り組んでいる。その内容を含め歴史の調査が必要である。そして本学会の選出した研究グループによる福祉文化の慨念の整理をめざした諸研究をはじめ、本学会創立の呼びかけ人に福祉文化の考え方を『福祉文化研究』誌に投稿するようお願いした経緯もあり、さらに本学会のメンバーをはじめ、それ以外の方々が発表された研究成果が多々あることを研究委員会として承知している。
学会は、本来ならばこれらを包括した成果をとりまとめて紹介することが必要である。その意味からいえば、ここでカバーした研究は限定した領域の限定的視点から取り上げた成果でしかないともいえる。限界があるとすれば、ひとえに企画者側の責任である。
しかしここ数年における本学会の研究成果を読み取ろうとする場合、フォローできなかったものがあるが、意味のある論文を掲載できたと思う。この第5巻は、新・福祉文化シリーズの各巻、とくに第1巻『福祉文化とは何か』をあわせて活用して理解を深めていただくことを前提に企画を決めた。このことをとくにご理解いただきたい。
(…後略…)