目次
はじめに
1 この本の使い方
この本は何の役に立つのか
例外:怒りが必要なとき
この本の使い方
「怒りの日記」のつけ方
2 怒りについての基本情報
1 四つの大きな誤解
誤解その1:怒りは生化学的な現象だ。
誤解その2:怒りと攻撃性は人間の本能だ。
誤解その3:欲求不満が攻撃につながる。
誤解その4:怒りを発散させるのは健康的だ。
2 怒りは、とにかく身体に悪い
ストレス反応
怒りの生理学
怒りと高血圧
怒りと心臓病
怒りと消化作用
怒りという反応を超えて
3 怒りは人間関係を傷つける
怒りが築く壁
幸せを感じられない
孤立
4 こんなにたくさんのものを失わせる
ワークシート(1):怒りの影響と自分の行動をふりかえる
ワークシート(2):怒りの影響の一覧表
怒りの真実(1)
3 あなたは「怒る」ことを選んでいる
怒りの働き
怒りはどうやってストレスを止めるか
怒り以外のストレスを減らす方法
なぜストレス軽減法として怒りを選んでいるのか
どのようにして怒りを生み出しているか
怒りのサイクル
2段階プロセスのもつ意味
怒りの日記への新しい記入内容
怒りの真実(2)
4 怒りは、誰のせいでもない
自己責任の原則
責任を引き受けるための六つのステップ
責任を引き受けること:練習問題
責任を引き受けることはなぜ望ましいのか
乗り切り呪文
怒りのコントロール(1)
5 怒りの引き金思考と戦う
引き金思考 (1):すべき思考
引き金思考 (2):おまえが悪い
自分の引き金思考を変える
怒りのコントロール(2)
6 怒らずに暮らす方法
嫌悪の連鎖反応
「怒りの日記」
嫌悪の連鎖反応への対処法
心の読みすぎ
心の中の古い記憶
心の読みすぎを乗り越える
怒りのコントロール(3)
7 セルフトーク(つぶやき)で対処する
効果的な対処思考
引き金思考を乗り越える
怒りのコントロール(4)
8 対応予習法(RCR)
カギとなる態度
対応予習法(RCR)
対応予習法のロールプレイ
実行
自分を励ますために
怒りのコントロール(5)
9 効果的なコミュニケーションを行う
受身的な対処スタイル
攻撃的な対処スタイル
受身的、のち攻撃的なスタイル
アサーティブな(きちんと主張する)対処スタイル
自分の思いを主張する発言のしかた
制裁
交渉
限界の設定
単にノーと言う
批判に対処する
効果的なコミュニケーションから生まれるもの
大切な人とのくらし(1)
10 子どもへの怒り
どのようにして怒りが生まれるのか
怒りは子どもにどんな影響を与えるか
引き金思考と怒りの高まり
親の期待
子どもを見つめる
怒りを感じやすくなる状況
強 化
子どもに気持ちを伝えるコミュニケーション
ここまでのまとめ――問題を解決するために
怒りに対抗する処方箋
カッとなってしまったとき
変化を実現させる
大切な人とのくらし(2)
11 パートナーの虐待
虐待者の特徴
もしもあなたが暴力を用いているなら
怒りのコントロール
暴力がストップしてから
監修者あとがき
前書きなど
監修者あとがき
(…前略…)
本書は、私たちが怒りについて信じてきたさまざまな事実が、現代の医学や心理学研究によるエビデンス(事実)によってほとんど支持されないことをまず提示してくれます。さらに、そうしたエビデンスに裏打ちされた対処法によって、怒りから身体や精神、そして人間関係を守る方略を教えてくれます。
怒りから身体や精神、人間関係を守るために、本書では徹底して私たちの怒りにかかわる心理的過程を相対化する方法を提示しています。そして相対化の方法である怒り日記やロールプレイなどを多用して、怒りの原因は実は他人にあるのではなく、怒りを感じている個人にあることに気づかせてくれます。
監修者はともに子どもの神経学を専門とする者ですが、現在子どもの神経疾患の専門家にとって最も大きな課題の一つが、多くの子どもに見られる発達障害と呼ばれる状態です。集中ができずすぐに衝動的な行動が出てしまう注意欠陥多動性障害や、人間関係のルールが理解できないアスペルガー症候群は、この発達障害の一つです。発達障害の子どもたちは、対人関係のつまずきから叱責されたり非難されたりすることが多く、そのために自尊感情が低下し、うつや非行などの二次障害をきたすことが多いことが知られています。また、近年教育現場で問題となっている不登校の誘因であるとも考えられます。自尊感情のとらえ方はいろいろありますが、「自分のことを大切な存在であると思える気持ち」ととらえることもできます。そして自尊感情を低くする原因の一つが、家庭における親からの頻繁な叱責や非難あるいは学校における教員からの叱責や注意なのです。
本書を監修するなかで、子どもへの怒りのコントロールの具体的な対処の項に出会い、本書が自分の「怒り」の感情を抑制したいと思っているすべての大人にとって有用であると同時に、発達障害のお子さんや生徒さんと毎日向き合っている、親や教員にとって極めて有益な指南書であることを確信しました。子どもたちの自尊感情を高めるために、そして読者の皆さんご自身の自尊感情を高めるために、いかに怒りに対処し、コントロールしていくかが、日常生活の中でもとても大切な自己管理の方策の一つであると考えられます。
本書は、監訳者である足立佳美さんが、バンクーバーの書店で偶然に出会い、その説得力のある内容にインスピレーションを受けたことが邦訳のきっかけになりました。読者のみなさんも本書から監訳者が感じたインスピレーションを受け取っていただき、さらに日常生活に有効に活用していただけければ幸いです。
二〇一〇年十一月 榊原洋一/小野次朗