目次
はじめに（磯部幸子：日本福祉文化学会理事）
第I部 地域再生と福祉文化
第1章 新しいコミュニティづくりと福祉文化の融合（磯部幸子）
はじめに
第1節 新しいコミュニティづくりはいま
1 コミュニティづくりと福祉文化の融合
2 地域再生活動と市民
3 創造的価値を含んだ福祉文化の芽──奥会津書房の活動
第2節 新しいコミュニティづくりと福祉文化の関係について
1 福祉教育と人権
2 地域社会は住民のものという視点
3 行政が使う福祉文化の意味
4 福祉文化の創造は住民生活から生み出される歴史的産物である
第3節 新しいコミュニティづくりとその必要条件について
1 人権尊重という視点
2 市民意識の視点について
3 共生という視点
4 地域に根ざした活動という視点
5 住民の自治という視点
第4節 まとめにかえて――創造的福祉文化の開花する豊かな地域社会としての新しいコミュニティとは
第2章 地域社会の崩壊と新しいコミュニティづくり―─地域社会における「日常生活」をめぐって（太田貞司）
第1節 戦後の地域社会の二つの変化と地域福祉
第2節 個別支援の「限界」と地域支援
第3節 コムスン問題と地域づくり
第4節 「地域包括ケア」とその課題
第5節 「地域包括ケア（システム）」の二面性
第6節 「日常生活」と地域社会
第7節 “新しいコミュニティづくり”として
第3章 限界集落の再生と福祉文化の課題（永山誠）
はじめに
第1節 21世紀初頭の限界集落をめぐる状況
1 戦後期の都市と農山村の文化状況
2 集落の衰退要因についての従来の解釈
3 「限界集落」論の集落研究上の意義
第2節 地域生活からみた集落とコミュニティ
1 限界集落の消滅過程の観察
2 進む山間部の地域コミュニティの弱体化
3 限界集落の衰退と地域コミュニティ
第3節 限界集落を再生させる地域コミュニティ
1 多様な生活文化を受容する地域コミュニティ
2 地域コミュニティは誰の所有物か
3 社会資本（Social Capital）と共生の地域社会
第4節 限界集落再生のエネルギー源と福祉文化─
1 福祉・保健医療、仕事づくりを包括した生活様式の再構成
2 「集落存続に関わる経験知」を継承する地域コミュニティ
第4章 人々の生活と福祉文化──子ども世代につなぎ、地域の福祉文化発展をめざして（阿部祥子）
はじめに
第1節 「住まい」と福祉文化
第2節 子どもの福祉文化の現状
1 子どもの現実
2 子どもの異変
3 子どもの異変の遠因
第3節 これからの子どもの福祉文化に必要なこと
1 子どもたちの暮らしに多世代の共生を
2 迷惑施設を文化施設に、人生を考える場に
3 風景も子どもを育てる福祉文化の礎に
第5章 市民性創造のための福祉教育（馬場清）
はじめに
第1節 市民性創造のための福祉教育とは何か
第2節 高等学校における福祉教育と福祉文化
第3節 市民性創造のための福祉教育と福祉文化
第II部 福祉文化活動最前線
第1章 地域をつくる新しい力
◆「市民参加の劇団」誕生で、“ご近所福祉”が変わる（平田厚）
1 大きな自治会に「わかる福祉」の挑戦
2 「浪蔵劇団」の誕生とこれから
3 「おばあちゃん劇団」が長寿者（高齢者）の自立を訴える
4「老いの準備学」講座の夢を託しながら、900回の公演に挑む
5 共感し合う「市民参加の劇団」の魅力
◆東京おもちゃ美術館と持続可能なNPO文化事業――福祉文化のソーシャルアライアンスを目指して（多田千尋）
1 よみがえる廃校
2 専門家が魂を吹き込む
3 文化ボランティアに支えられるミュージアム
4 「文化ボランティア」の推進ミュージアム
5 「民」が担う「公」
◆福祉施設が取り組む地域づくりと福祉文化（朝倉美江）
はじめに
1 杉並・老後を良くする会誕生から住民立の社会福祉法人創設まで
2 杉並・老後を良くする会の「小規模多目的施設づくり」運動
3 地域に開かれたサンフレンズの施設運営
4 地域の「住居」となるサンフレンズ善福寺と福祉文化
おわりに
◆地域における福祉文化の芽生え――せたがや福祉区民学会を例に（河畠修）
1 世田谷区の福祉活動をテーマとする学会を設立
2 設立準備大会へ
3 いよいよ設立大会開催へ
4 地域の福祉力を育てる福祉文化活動
第2章 地域社会の変化とネットワーキング活動
◆戸山団地の現状と福祉ネットワーキング（滝上裕嗣）
1 戸山団地の概要
2 現状と課題
3 住民によるさまざまな取り組み
4 福祉ネットワーク
5 今後の展望
◆限界集落の再生と地域文化（松本竹生）
はじめに
1 徳島県の限界集落群
2 消滅集落へ帰る
3 過疎集落の挑戦
◆地域社会の変化とネットワーキング活動（大島道子）
フリースクールがつくるネットワーク
第3章 人々が織りなす生活に根付いた福祉文化
◆地域文化に沿ったデイサービス活動（マーレー寛子）
1 琵琶湖に浮かぶ島、沖島
2 デイサービスセンター老喜の里
◆おらたちがつくる地域文化のとりくみ――山古志での活動（鈴木優子）
1 仮設住宅でのレクリエーション
2 「まけないぞう」づくりから盆踊り開催へ
3 文化を取り戻すことが元気につながる
◆小鹿野子ども歌舞伎と伝統文化の継承（木村たき子）
1 小鹿野子ども歌舞伎
2 子ども歌舞伎と地域社会
3 子ども歌舞伎と福祉文化
◆石見銀山・障害者施設の取り組み（森山登美子）
はじめに
1 大田市の人口と、精神保健福祉圏域人口について
おわりに
◆高齢者の今をつくる 園芸療法（毛利ユカ）
1 未来を見つめる高齢者
2 園芸療法とは
3 活動施設の紹介
4 私の園芸療法の土台
5 昔とった杵きね柄づか
6 お盆の思い出
さいごに
第4章 福祉教育と福祉文化活動
◆福祉現場での人権の視点と地域と協働する福祉文化活動──介護の文化を実現するために（市川禮子）
はじめに
1 「ノーマライゼーション」を法人の基本理念に――組織の価値観の確立
2 理念を具体化する運営方針は「人権を守る」と「民主的運営」──価値観に基づく実践
3 喜楽苑の開設──まず言葉から取り組んだ人権を守る取り組み
4 いくの喜楽苑の開設──特養では日本初の全室準個室化・居住エリアの分散化
5 あしや喜楽苑の開設──「福祉は文化」と定礎に刻む
6 人生の最終章こそきらめく時を
7 けま喜楽苑の開設──もう（収容）施設はつくらない、特養を「地域のケア付き住宅」に
8 個別ケアの追求
9 「介護の文化化」を
◆幼老統合ケアの心の通い合い（杉啓以子）
1 幼老統合ケア施設として
2 地域とのつながり
3 2世代・3世代の完成
4 江東園の福祉教育
◆人が、人となるために（妹尾信孝）
1 目指すは、心豊かな人づくり
2 「人塾」の理念と取り組み
3 私と福祉──講演活動を通して
◆知的障害当事者による組織運営──当事者中心の組織づくりをめざして（遠藤美貴）
1 「組織のボス」から「自分のボス」へ
2 「当事者中心の組織」にするために
3 「さわやか」から見えてきたこと
あとがき
前書きなど
はじめに
「人間の生活と福祉」「人間の生活と文化」「人間の生活と地域社会」それぞれは切っても切れない関係を持つ。それらは無意識に、あるいは意識的に日常の暮らしの中で関係をつくりながら、つながっている。新・福祉文化シリーズの第3巻の本号の主旨は、私たち人間の地域社会の中で繰り広げられている、生産（経済）活動、文化活動、福祉活動、教育活動、自然や環境への働きかけな
どから創り出されるものを、「福祉文化」という視点で拾い集め、その実践の意義を考えてみようとすることにある。
きっかけは、第20回日本福祉文化学会の大会ではじめて企画した分科会「地域に根ざした福祉文化の構築」に取り組む中で、人々の累々とした地域文化活動への真摯な取り組みに大切なことを教えられたことに端を発する。
具体的には上記の分科会において発表をお願いした秩父の子ども歌舞伎や山古志村で取り組まれ始めた地域文化を再生するあらたな活動などを核に、この新・福祉文化シリーズ第3巻では、各地で日々繰り広げられている福祉文化活動を、多くのみなさんに知っていただき、福祉文化は生活の中から生み出されることを実感していただきたいと考えている。
現在、日本福祉文化学会では、課題の一つとしている「創造的福祉文化」を追求している。その背景には、現実の地域社会の崩壊と再生-例えば、人と人との関係性の危うさ、限界集落の問題、多文化共生社会への模索、地域にある伝統的生活文化のつながりが消えていく危機とその再生活動へのあらたな取り組み-など私たちが生きている地域社会に起きているさまざまな現実をしっかり受け止めながら、人々の生活の豊かさとは何か、安全で安心した未来を求めて着実に生きてゆける地域社会づくりとはどういうことかが、まさに「いま」問われていると考えているからである。
日本福祉文化学会がこれからめざそうとする創造的福祉文化が開花し、それらが豊かに広がる社会は人々にとって安心と安定感のある社会であると確信するからである。
さて、今回この新・福祉文化シリーズ第3巻は第I部を主に理論編として、第II部に実践編を組み立てた。理論編のテーマ設定は地域社会と福祉文化の関係性を、地域社会を取り巻く今日的課題として5つに分類し、第1章では新しいコミュニティづくりと福祉文化の融合、第2章は地域社会の崩壊と新しいコミュニティづくり、第3章に限界集落の再生と福祉文化の課題、そして第4章には、人々の生活と福祉文化を、最後の第5章を市民性創造のための福祉教育とした。その流れを受け継ぐ形で、実践編はそれぞれの章のテーマに沿う形で、各地で繰り広げられている地域文化・福祉文化活動を織り込んでいこうと考えた。
企画の段階では厳しい時間の制約の中で実践活動をどれだけバランスよく織り込むことができるか不安がよぎったが、結果として多くの方々の快いご協力をいただくことができ編集作業に入ることができた。
10年連続、200本安打を打ち立てたイチローが、自分が取り組むべき日常の行動を淡々と繰り返し、当たり前のことを当たり前のこととして行うこと、それが結果として大きな力となって人の心を動かし、次に続く人々を生み出していく力となる、と言っていた。
同じことが、この実践編をお読みいただければおわかりいただけると思う。現場実践者は、知恵者であり創造者であり、献身的であることを改めて実感する。そして、その真摯な姿は地域を動かし、地域文化や福祉文化を新しいステージへと導いてくれるのである。
地域を取り巻く社会・経済情勢とあわせて自然環境の加速度的な変化は、人々の心も生き方も、生活パターンも大きく変えている。そしてさらに変化は進むであろう。多くの場合、新しいものを一つ生み出すために、二つも三つも、これまでのものを消滅させてしまうことが多かったように思う。しかし、この間失ったものが、人々の心や生き方にとってどれだけ貴重なものであったかを深く理解している人々が多くいるのも事実である。そうした人々がいま、地域社会の中で、緩やかに、しかし、着実に内なる心の叫びを抱いて動き出している。そしてそれらの活動を受け止める私たちに、何が大切であるかを教えてくれるのである。
こうした身の回りで起こっている手づくりの福祉文化活動を受けて、私たちも自分ができる小さなことから一歩踏み出せれば、それが大きな輪につながっていく可能性を持つことになる。結果として崩壊しつつある地域社会を救い、再生へ、さらに創造への道を歩むことができる。
日本福祉文化学会がめざす創造的福祉文化はこのような人々が織りなす心の豊かさを共有できる社会であると考えている。
どうぞ、本編をお読みいただき、ここで問いかけている意味を受け止め、新しい地域づくりの一歩を見つけ出していただければうれしい限りである。
2010年10月 日本福祉文化学会理事 磯部幸子
