目次
日本語版への序文
まえがき
序章 熱意の時代
第1章 黄金のベンガル
第2章 戦いと勇士
第3章 計画
第4章 問題
第5章 学ぶことと忘れること
第6章 マイクロクレジットと倹約の刃
第7章 学習する組織
第8章 ニワトリと卵の問題
第9章 シンプル・ソリューション
第10章 ピンクのゾウと9・11
第11章 桑の茂み
第12章 水とミルク
第13章 ミレニアム開発目標6(ターゲット8)
第14章 バングラデシュを教育する
第15章 フロンティアへの挑戦
第16章 大学
第17章 幸運とは備えができていること
第18章 民主主義の欠損
第19章 アフガニスタン
第20章 ナイルの源流
第21章 一層大きな自由の中で
監訳者あとがき
索引
前書きなど
日本語版への序文
この『貧困からの自由』は、BRACに関する最初の、そして今日まで唯一の伝記ともいうべきユニークな本である。BRACについては過去三八年間、いろいろな側面から多くの本が書かれてきた。しかし、著者のイアン・スマイリーは、この本においてBRACの物語を生き生きとかつ詳細に、そして驚くべき親愛の念をもって叙述している。そこにおいては、BRACの理念がいかに育まれ、それがどのようにして今日のBRACの活動へと発展してきたか、そして今後、どのような可能性が開けているのか、ということが述べられている。
BRACについて語ることは、それほど簡単なことではない。というのは、BRACそのものが複雑かつ技術的(組織的な意味での)な課題を遂行しているだけでなく、巨大で複雑な生きたシステムのように機能しているからである。イアン・スマイリーは、BRACとの長い交流の積み重ねから、この組織の分析と叙述において確かな生命力を付与することができる立場にあった。つまり、彼はBRACの軌跡をたどるだけでなく、その中枢にいた人たちからも、その都度、詳細な知識や情報を得ることができた。そして、それを基にこの本を書き上げることができたとも言える。
BRACは、バングラデシュの独立戦争の余波が残る一九七二年に設立された。当時、BRACは小規模な救済と復興プログラムを担う組織として存在していた。しかし、私たちはすぐにBRACを貧困削減と貧者のエンパワーメントという課題に長期にわたって対応できる組織として再編した。私たちのアプローチは、人権、社会的エンパワーメント、教育と健康、経済的エンパワーメントと起業家的な発展、生活トレーニング、環境サステナビリティーと災害予防といった領域において、各種の試みを統合した総合的かつ包括的な手法や政策として確立していった。私たちは、貧者の生活や労働における生産性を改善するだけでなく、BRACがますます自立的に活動できるように自主財源を確立すべく社会的起業家のパイオニアともなった。今日、私たちの活動はバングラデシュのみならずアジア・アフリカ諸国(八ヵ国)にまで拡大し、この分野での世界最大の組織となっている。そして、実施するプログラムの範囲と領域において、一億一〇〇〇万人以上の人たちを対象としている。
この『貧困からの自由』は、私たちBRACの四〇年もの長い旅についての年代記のようなものであり、またすべての旅についての叙述でもあるかのようである。それはまた、多くの失敗と勝利を背負った旅でもあった。私にとっては、真に希望と可能性を持った旅であった。これらの内容については、語り継がれてほしい重要なものがあると思っている。そして、このBRACの物語は、貧困についての援助と発展計画の通説に対して、そして「スモール・イズ・ビューティフル」といった既成の概念に疑問を投げかけたりすることに多少は役立つと私は信じている。私の大いなる希望は、BRACの活動の軌跡を知った人たちが、とりわけ発展途上国の人たちがこれによって勇気づけられ、結果として自らの行動を起こすことにつながることである。
この本が日本において翻訳されることを知り、大変嬉しく思っている。このことについては、立教大学におけるすべての人たちに感謝したい。とりわけ、BRACと立教大学との交流を推進し、この本の出版に際し監訳の仕事をしていただいた笠原清志教授には感謝したい。また日本語版の出版に際し、努力していただいた明石書店にも感謝の気持ちを表したい。私は日本の読者がBRACの活動の軌跡を知ることによって、なんらかの新しい視野が開けるといった楽しい経験をすることを希望している。
BRAC創設者・会長:ファズレ・ハサン・アベッド