目次
国立民族学博物館「機関研究」の成果刊行について(須藤健一)
第1章 総論:開発途上国における自然災害と復興支援——二〇〇四年インド洋地震津波被災地から(林勲男)
1 途上国を襲う自然災害
2 インド洋地震津波災害
3 フィールドワークとエスノグラフィー
4 所収論文について
第2章 スリランカ東部州の住民と復興活動(澁谷利雄)
1 はじめに
2 東部州の状況:内戦と復興活動
3 パーナマ村の住民と復興活動
4 内戦と援助漬け状態での復興
第3章 スリランカ南部を中心にした住宅再建について(青田良介)
1 はじめに
2 津波災害後一〇ヶ月後の状況
3 二年後の状況について
4 スリランカの住宅再建築のまとめと今後の研究課題
第4章 スリランカにおける居住地移転をともなう住宅再建事業の現状と課題——南西沿岸を事例に(前田昌弘)
1 はじめに
2 スリランカにおける住宅再建と居住地移転
3 居住地移転の手続きと再定住地の計画内容
4 南西沿岸部における被災地から再定住地への世帯移動の地域特性
5 移住者の居住状況の事例分析
6 おわりに
第5章 災害復興と文化遺産——南インド、タミルナードゥ州の例から(深尾淳一)
1 はじめに
2 被害をほぼ免れた文化遺産
3 放置されたままの遺跡
4 復旧・再生した文化遺産
5 まとめとして
第6章 タイ南部における被災観光地での復興過程とその課題(柄谷友香)
1 はじめに
2 タイにおける観光産業の歴史
3 被災状況の概要
4 危機的な事案がもたらす観光客動向への影響
5 インタビュー調査に基づくインド洋津波後の復興過程
6 考察と課題——タイ南部の復興から学ぶ
第7章 「悪い家屋」に住む——タイ、スリン諸島モーケン村落の動態(鈴木佑記)
1 はじめに
2 背景
3 津波被災以前の家屋
4 津波被災後の家屋と村落
5 まとめと今後の課題
第8章 分断するコミュニティ——タイ南部津波被災地の復興プロセス(小河久志)
1 はじめに
2 調査地の概況
3 復興支援の申請と分配をめぐる問題
4 経済構造の変化
5 政治対立の発生と村の分裂
6 考察
7 おわりに
第9章 津波被害の地域差、地理的特性、都市空間構造(高橋誠)
1 はじめに
2 バンダアチェの自然地理的条件
3 津波の挙動と被害の地域差
4 都市空間構造とその変化
5 おわりに
第10章 目撃証言から津波の挙動を探る(林能成)
1 はじめに
2 自然現象としての津波
3 ビデオ動画に記録された津波
4 目撃証言を集め津波の挙動を探る
5 インタビュー調査の手法
6 現地における調査
7 集められた津波体験談
8 津波体験談からわかること
9 まとめ
第11章 定性的・定量的評価から明らかになった被災者行動と生活再建のようす(木村玲欧)
1 定性的調査による災害像の描出
2 半構造化インタビュー
3 被災者・被災地社会の全体像の解明
第12章 スマトラ島沖地震の緊急対応、復興過程とコミュニティの役割(田中重好)
1 スマトラ島沖地震の概況
2 一年後の災害対応とエージェント
3 一年後までのエージェントとコミュニティの役割
4 一年後以降の災害復興とコミュニティの役割
5 コミュニティの「死と再生」
6 被災後のコミュニティの役割
第13章 バンダアチェにおける被災者の災害対応行動と災害観に関する実態調査——被災経験の語り継ぎのために(阪本真由美)
1 はじめに
2 災害観に関する先行研究
3 インド洋津波災害における被災者の災害対応行動
4 災害観に関する調査
5 被災経験の語り継ぎ
6 おわりに
第14章 バンダアチェの住宅再建——現地再建と再定住地(牧紀男・山本直彦)
1 緊急・応急対応、復旧・復興
2 インドネシアにおける住宅再建の概要
3 被災場所での住宅再建——バンダアチェを事例として
4 再定住地(リセトルメント)での住宅再建
第15章 人道支援活動とコミュニティの形成(山本博之)
1 はじめに——ポスト・インド洋津波の時代の人道支援
2 ポスコと「動く被災者」
3 四つの復興住宅村
4 結びにかえて
第16章 裏切られる津波被災者像——災害は私たちに何を乗り越えさせるのか(西芳実)
1 はじめに
2 津波後を生きる「復興」
3 結び
あとがき
索引
前書きなど
あとがき
(…前略…)
復興研究
一九九五年一月一七日に発生した兵庫県南部地震災害(阪神・淡路大震災)では、被災者の生活再建を含めた復興の道の容易ならざる実情が、新聞やテレビ、雑誌などの報道や調査研究の成果で示されてきた。この災害は大都市を襲った巨大災害であり、それだけ多くの人びとの生活が影響を受け、多くの研究調査が継続的になされたということがあるが、災害の種類や規模にかかわらず、復興の道の険しさは、すべての災害に言えることである。
二〇〇五年一月に神戸市で開催された国連防災世界会議で、被災地の復興を国際的に支援するための新たな拠点づくりが決議され、その年の五月に、国際復興支援プラットフォームが設置された。これは、被災後の復興において、被災前と同様のリスクが再構築されるケースが多く、また不十分な連携のために、復興過程が複雑で非効率的なケースがあることを受け、緊急支援から復興への移行を円滑にし、復興過程にリスク軽減の視点を組み込むための実践を目指している。また二〇〇七年には、災害復興学の確立と研究の向上、被災地の再建と被災者の再起に資することを目的とした日本災害復興学会が設立された。すでに指摘し、具体的事例として各章で述べられていることであるが、災害被災地の復興は決して順調な平坦な道ではない。災害直後の緊急支援の体制は徐々に整えられて来ているが、復興には被災地となった地域の特性に十分配慮するとともに、その特性を生かした活動とその支援が求められている。復興研究とは、復興の道を歩む現地社会を多角的かつ正確に理解して初めて成り立つものであろう。
総論にも書いたように、近年の災害を見ると、その頻度や規模は拡大しており、今後も地震・津波・火山噴火などによる災害や、気候変動に伴う海面上昇や降雨量・降雨時期の変化などが、人間の生活環境や生活手段に与える影響の拡大が懸念されている。それは農漁業など自然環境に直接的に依存した生業に従事する人びとだけでなく、都市に暮らす人びとにとっても同様である。一方、そうした環境変化に対応すべき人間の生活も、近代化やグローバル化の中で都市と地方の双方において大きく変化してきている。都市においては人口の過密化や交通・情報インフラの発達が災害の複雑化を招き、住民の流動性は地域的な人のつながりを弱めており、地方においては過疎化や高齢化が進むことで、やはり地域社会の災害対応力を減衰させている。災害に対する地域社会が孕むこうした脆弱性は、人口の過密化や過疎化以外にも、歴史的・文化的・政治的なさまざまな要因の絡み合いとして形成されたものであるにもかかわらず、その正確な把握が不十分のまま、防災や災害復興の国際協力が行われているのが現状である。復興過程において、災害前と同様のリスクを再生しないためにも、文化人類学や地域研究などのフィールドサイエンスの知見や研究手法を用いた、現状の正確かつ詳細な把握とそれに基づく対策が緊急の課題としてあげられる。
防災は建築学、土木学、法律学、行政学、都市計画、金融・財政学、社会学、歴史学、保健学、看護学等々さまざまな研究領域を巻き込んで取り組むべき課題であり、それは災害からの復興についても同様である。我々は今後も、インド洋地震津波被災地の復興研究を継続する中で、多様な分野とのコーディネーションを図りながら、その成果が災害リスクの軽減を含んだ地域の復興、被災者の生活再建、さらには他地域での防災・減災につながっていくことを願っている。
(…後略…)