目次
はじめに
第1章 子ども家庭相談の現状
1.子どもについての相談の現状
2.時代とともに変わる相談内容
3.子ども家庭相談に求められる対応
4.子ども家庭福祉と児童青年精神医学の関係
第2章 児童青年精神医学の基礎知識
1.児童青年精神医学の定義と特徴
2.精神障害の診断
(1)診断とは何か――「診断」と「診断分類」
(2)精神疾患の定義
(3)精神疾患の分類――ICDとDSM
(4)診断の方法
3.精神障害の治療
第3章 子ども家庭相談にみる精神障害
1.虐待相談
2.不登校相談
3.非行相談
4.障害相談
5.性格行動相談
第4章 子どもの精神障害の基礎知識
F0 症状性を含む器質性精神障害
F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害
F2 統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害
F3 気分(感情)障害
F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
(1)神経症性障害
(2)ストレス関連障害
a)心的外傷後ストレス障害
b)適応障害
(3)解離性(転換性)障害
(4)身体表現性障害
F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
(1)摂食障害
a)神経性無食欲症
b)神経性過食症
(2)非器質性睡眠障害
F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害
(1)パーソナリティ障害
(2)習癖および行動の障害
F7 精神遅滞[知的障害]
F8 心理的発達の障害
(1)会話および言語の特異的発達障害
(2)学力の特異的発達障害
(3)運動機能の特異的発達障害
(4)広汎性発達障害
a)自閉症
b)非定型自閉症
c)アスペルガー症候群
d)特定不能の広汎性発達障害
F9 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害
(1)多動性障害
(2)素行障害
(3)小児期・青年期の情緒障害と社会的機能の障害
a)小児期の分離不安障害
b)選択性緘黙
c)愛着障害
(4)チック障害
第5章 親の精神障害の基礎知識
1.親の精神障害の子どもへの影響
2.子ども虐待のリスク因子としての親の精神障害
(1)気分障害
(2)不安障害
(3)物質乱用・依存
(4)パーソナリティ障害
(5)代理ミュンヒハウゼン症候群
(6)その他の精神障害
(7)知的障害
3.親子関係の精神病理
4.親の精神障害への対応
第6章 子ども家庭相談と精神科医療の連携をめざして
1.精神科医療の概要
2.精神科医療の上手な利用法
3.精神科医とのコミュニケーションのコツ
4.児童相談所と精神科医療
5.児童福祉施設と精神科医療
6.子ども家庭福祉領域における精神科医療の可能性
引用文献
おわりに
前書きなど
はじめに
最近、子ども家庭福祉(児童福祉)だけでなく、教育、小児科医療・小児保健、少年司法などの子どもに関わるさまざまな領域で、子どもの精神医学の診断が活用されることが増えてきている。
たとえば、乳幼児健診では発達障害の早期発見と早期療育の取り組みが発展し、知的障害だけでなく自閉症などの広汎性発達障害への関心が高まり、保育所や幼稚園でも発達障害の「診断」に基づいて支援が行われるようになってきている。
教育の領域では、2007(平成19)年度から「特別支援教育」が正式に始まったが、これは従来の知的障害を中心とした「特殊教育」から、広汎性発達障害、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害などの精神医学の診断を基盤とした教育ニーズにも対応する支援の枠組みへの移行である。その結果、学校教育の現場でも精神医学の診断名が使用される機会が増えてきている。
少年司法の領域でもまた精神医学の役割が重大になってきている。殺人や殺人未遂などの凶悪事件を起こした少年たちに対して、家庭裁判所が精神鑑定を実施することが多くなり、非行行動を発達障害やさまざまな精神障害に関連する精神病理の視点から検討することがより一般的になってきている。このような司法の流れを受けて、非行少年を処遇する少年院などの矯正施設や児童自立支援施設でも、精神医学の診断名が付けられて入所してくる少年たちの指導のあり方が盛んに検討され始めている。
もちろん、医療・保健の領域でも、これまで以上に子どもの精神医学の診断名は一般的に用いられるようになってきている。小児保健に関わる保健師や発達相談員たちは、自閉症やADHDが疑われる子どもたちの相談にも力を注いでいるし、熱心な小児科医たちは地域においてこれらの子どもたちの診断や治療の役割も担っている。
子ども家庭福祉は、子どもの福祉、すなわち子どもが幸福に育つことに関わるあらゆる問題に対応する総合的な社会サービスであり、さまざまな社会資源を活用して子どもと家族の支援を行っている。子ども家庭福祉が取り扱う問題は、それぞれの時代や社会情勢の影響によってその中心的なテーマは変化してきたが、最近では子ども虐待の予防と対応がもっとも重要な問題になっている。子ども虐待への取り組みにおいては、被虐待児の心理的な評価やケアに対して精神医学の診断や治療法が採り入れられ、ケース記録の中には愛着障害、心的外傷後ストレス障害、解離性障害などの精神医学用語が頻繁に使われるようになっている。
(…中略…)
ここで大切なことは、どちらかひとつの方法を選択することではなく、両方の方法が必要であるということである。つまり、医師が医師以外のスタッフとのコミュニケーションを向上させる努力をする一方で、医師以外の人たちが子どもの精神障害についての知識や理解を高めることが大切なのである。
後者の要素、つまり、子ども家庭相談に関わる医師以外のすべての人たちが、子どもと家族の相談・支援に必要な児童青年精神医学の知識を高めていくためには、十分な研修の機会を提供していくことだけでなく、子ども家庭福祉の現場に即した児童青年精神医学を学習するためのテキストも必要である。本書はまさにそのために企画されたものであり、市町村、児童相談所、児童福祉施設でさまざまな問題を抱える子どもとその家族を支援している人たちが、少しでも精神医学的な視点を理解して現場で活用できるようにすることを目指したものである。
第1章に詳しく説明されているように、子ども家庭福祉と児童青年精神医学はもともと切っても切れない関係にあり、子どもの精神保健ニーズを満たすことなく子どもの真の福祉が得られることはない。子どもの福祉のために日夜心血を注いでいる人たちに、児童青年精神医学をより身近に感じてもらい、より有効に精神科医や精神科医療機関と連携できるようになればと筆者は願っている。本書が日本の子ども家庭福祉のさらなる進展の一助になれば幸いである。