目次
〈講座 現代の社会政策〉の刊行によせて
序章 サステナブルな労働社会——日本の潜在力と社会政策の要衝
第1部 労働市場
第1章 地域産業振興策の多様な道筋と雇用の創出——領域横断的アプローチの可能性
はじめに
I 工場の国内回帰と雇用情勢の潜在的問題
II 地域産業振興策と雇用創出の多様な道筋
III 地域産業振興策と雇用創出における領域横断的アプローチの可能性
第2章 フリーターの職業能力開発とマッチング——フリーター問題から問われてくるもの
I フリーター問題から問われてくるもの
II 現にフリーターである者への支援
III 学校から職業への移行過程の変化と対応策
IV 雇用・社会保障のあり方の見直しに向けて
V まとめ
第2部 労使関係と制度
第3章 日本企業の人事改革と仕事管理——正社員の雇用関係
はじめに
I 世界の雇用改革と日本
II 日本の人事改革
III 仕事管理
IV 日本の労使関係の課題
第4章 長期安定雇用における高年齢者——労働行政と企業の対応
はじめに
I 60歳定年制への移行……1960年代から80年代
II 行政の中高年雇用政策
III 65歳までの雇用継続義務化
IV 展望
第5章 パートタイム労働をどう考えるか——自立パートと非自立パート
I 「身分」としてのパートタイム労働
II 多様性と統合
III 自立したパートタイム労働者
IV 自立したパートタイム労働を促す政策
第6章 サプライヤー企業の働き方と労使関係——柔軟な生産・要員調整と分業構造における共生のための課題
はじめに
I 事例分析
II サプライヤー企業の主体的発展・成長と共生のための枠組み
第7章 連合政策の展開の分析——政治・経済・組織問題をめぐる対立軸の視角から
はじめに
I 分析視角:政治的、経済的、組織的問題をめぐる対立軸
II 政治的問題をめぐる対立軸:第1期(1989−1995年)の連合の政策を中心として
III 経済的問題をめぐる対立軸:第2期(1995−2001年)の連合の政策を中心として
IV 組織的問題をめぐる対立軸:第3期(2001年以降)の連合の政策を中心として
おわりに
第3部 労働法
第8章 最低賃金制の現状と課題——その機能と新たな水準決定
はじめに
I 今日の最低賃金制の形成
II 地域別最低賃金の普及と「目安」
III 特定最低賃金(産業別最低賃金)
IV 労働協約に基づく地域的最低賃金
おわりに
第9章 労使関係の個別化と法——労働契約法の立法過程を中心に
はじめに
I 労使関係の個別化と紛争処理
II 労使関係の個別化と労働条件の決定・変更
III むすび——立法論における事実認識の重要性
あとがき
索引
編著者・執筆者紹介
前書きなど
序章 サステナブルな労働社会──日本の潜在力と社会政策の要衝
本巻の狙いは、日本の新しい社会環境に適応する社会政策の構築に向けた課題と方向性を、労働という視点から提示しようとするものである。
すなわち「サステナブルな企業そして労働社会」を展望するための手がかりを探ることを意図し、したがって各章の構成にあたっては、関連する領域全部を薄く広く網羅する方向はとらず、問題の所在と今後の方向性を凝縮的に示しうるテーマを集中的に取り上げている。
グローバル化による競争の激しさは、「世界標準」と称されるアメリカン・スタンダードの受容れを企業に迫り、その結果非正規社員の増大にともなう雇用の流動化と不安定化さらには所得格差の拡大が進み、雇用と労働を支える家族のあり方にも大きな変化をもたらしている。また、こうした変化の影響を最も直接的に受ける層が、社会の健全性を支える所謂「中産階級」であることは、日本のみならずかつてのアメリカにも認められるところである。その意味から今、日本社会の安定性さえもが危機にさらされようとしているという現状認識が求められているように思われる。
(…中略…)
第1部「労働市場」では二つの領域をとり上げている。第1章では2008年9月以降の経済環境悪化を、地域産業振興策と雇用のあり方を見直すチャンスととらえ、そのための道筋として、従来の工場誘致型にとらわれない新しい産業・雇用創出に向けた領域横断的アプローチの可能性を提示する。第2章では若者の労働力市場と職業能力開発の問題をとり上げ、フリーターに焦点を当て、フリーター問題を「子どもから大人へ」の移行期ととらえる。そして、現に労働市場にいるフリーターへの対応、学校教育のあり方、正規雇用との格差をめぐる雇用・社会保障のあり方の三つに政策領域を分類し、既にある「フリーター問題」のみに限定することなく幅広い視点から問題をとらえ、それぞれの領域について取り組みの方向性を考察する。
第2部「労使関係と制度」では、グローバル・スタンダードが日本的な企業風土の中にどのように取り入れられ適応してきたのか、そして企業の競争力の向上に寄与してきたのか、あるいは労使関係・労働運動を含めてそれぞれにどのような課題を残しているのかを明らかにする。第3章は、1990年代以降グローバル化と情報技術革新が本格化する過去20年ほどに生じた日本の雇用問題の変化を解析し、そうした中で生じつつある労使関係に関わる政策課題を抽出し考察する。すなわち先進諸国の中での日本の特殊性を明らかにし、次に日本が1990年代以降に切り開いた地平、すなわち成果主義の導入とそれに伴う仕事管理の変化、それらを「賃金と仕事のルール」として統一的にとらえる。そして、それらルールの制定・運用に関わる労使関係と、関連する課題の抽出を試みる。第4章では、長期雇用下にあるとされる「大企業」の中高年雇用について、定年制を中心に、その歴史的変質の過程を労働行政との関わりも含めて確認するとともに、65歳までの雇用確保、さらには大企業における労働力の変化と70歳までの継続雇用を展望する。またそうした中で、今後増加が見込まれる高学歴一般労働者を、どのように職域開発に織り込んでいくべきかという新たな課題提起を試みる。第5章では、「パートタイム労働」に焦点を当て、少子高齢化社会の中で多様な労働力の労働市場への参入を促すために、正社員との格差を縮小し差別を解消することによって多様な労働者を統合すべきこと、すなわち「身分」としてのパートタイム労働から「権利」としてのパートタイム労働への転換の必要性を説く。第6章では、研究の領域を企業内から企業系列に拡大し、日本の労働集約型産業を代表する自動車産業の国際競争力を支えてきた重層的系列生産分業構造の基層における生産調整のプロセスに焦点を当て、その健全性についてアセスメントを試みる。すなわち1次仕入れ先も視野に入れ生産分業構造を体系的に捉える中で、2次仕入れ先における柔軟な生産対応の実態について、生産管理にとどまらず経営、職場管理と技能形成さらには労使関係の視点も加え、系列生産分業システムの健全性についての総合的な評価・検証を試みる。第7章では、過去20年に及ぶ連合の政策の展開を、構成組織間の政治的、経済的、組織的問題をめぐる対立軸という視角から分析する。国家や政治に関する「マクロレベル」の課題から部門や産業の経済的利害に影響を受ける「メゾレベル」の課題へ、そして連合が主導する労働運動組織のあり方に関わる「ミクロレベル」の課題へと、歴史的な変化に注目して三つの時期に分け政策の解明を試みる。その上で、正規従業員を含む雇用不安が広がる中で、不況による環境の急激な変化を再活性化の機会ととらえ、社会運動ユニオニズムや企業別組合を中心とする従来の日本的労働運動から産業別組織の強化へ、非正規労働者の組織化、地域労働運動との連携など、こうした労働運動を巡る新たな動きの中で連合さらには日本の労働運動の変容可能性を示唆する。
第3部「労働法」では、セーフティネットに関わる法整備に向けた課題を、労働法の視点からとり上げる。第8章では、労働条件の適正な形成に重要な役割を果たし得るにもかかわらずその効果が限定されている「最低賃金制」の機能に着目し、どのように最低賃金についての取り決めが行われるのかを明らかにする。その中でとくに地域別最低賃金と産業別最低賃金との関係をめぐる課題にも言及する。第9章では、労使関係の個別化の傾向が強まる中で、まず紛争解決と労働条件の決定・変更に関する法システムを確認し、労働契約の立法過程における審議を概説する中で、法制度設計のあり方について考察する。
(…後略…)