目次
序章 少子高齢社会への日独伊の対応に関する比較研究の意義と展望(冨士谷あつ子)
第1部 日本・ドイツ・イタリアにおける少子高齢社会の現状とジェンダー
第1章 日本における少子高齢社会問題とジェンダー(冨士谷あつ子)
1.急激な高齢化につぐ少子化
2.盟友たちの戦後——全体主義と家族観
3.人口論と家族政策
4.権力と文化とジェンダー
5.少子化抑止と男女共同参画
6.少子高齢社会問題克服への提言
第2章 ドイツにおける家族・人口政策の展開とジェンダー(三成美保)
1.ドイツの少子化とジェンダー秩序
2.ナチス・ドイツにおける家族・人口政策
3.東西分裂のなかの家族と女性
4.統一ドイツと少子化政策
第3章 イタリアにおける少子高齢化とジェンダー政策(伊藤公雄)
はじめに——日本とイタリア
1.ファシズムと人口政策
2.戦後イタリア社会と家族問題
3.イタリアにおけるフェミニズムの展開と少子化の開始
4.イタリアにおけるジェンダー政策の展開
おわりに
第2部 ジェンダーと地域文化
第1章 日本女性の「近代化」の歴史と男女共同参画(佐伯順子)
1.明治前半の男女平等思想の展開
2.明治の女性解放思想の限界
3.性別役割分業と「主婦」の誕生〜大正期の展開と戦後への継承
4.積み残された問題〜男性問題としてのジェンダー問題
第2章 近代家族における家父長制の象徴「クリスマスツリー」(野口芳子)
1.イデオロギーとしての家父長制の誕生
2.クリスマスツリーとは何か
3.ゲルマンの冬至の祭りの「緑の若枝」
4.規則化された社会的行為としての風習
5.部屋の中に立てられた最初のクリスマスツリー
6.王室の書簡集に現れるクリスマスツリー
7.普仏戦争とクリスマスツリー
8.クリスマスツリーの都市市民層への普及
9.愛と平和に満ちた家族を演出するクリスマスツリー
10.近代家族のイデオロギーとしての家父長制の象徴
11.ポスト近代家族の中でのクリスマスツリー
第3章 女性による『女性論』モデラータ・フォンテの『女性の価値』(望月紀子)
1.『女性の価値』に先行する女性擁護論
2.ヴェネツィアの女性たち——隔離と保護
3.モデラータ・フォンテの『女性の価値』
4.作品の構成と独創性
第3部 ジェンダーと社会
第1章 福井県の地域特性と少子化抑止(塚本利幸)
1.はじめに:なぜ福井県か?——福井県における合計特殊出生率の動向
2.福井県の地域特性——少子化抑止に関する諸条件
3.福井県の地域特性と出生率
4.福井県における少子化抑止の地域努力
第2章 移民とジェンダー、言語、アイデンティティ欧州統合の過程で(ヴィクトリア・エシュバッハ=サボー、加藤由美子訳)
1.はじめに
2.ドイツの職場におけるジェンダー
3.移民とジェンダー
4.ドイツの入国政策
5.国際結婚と異文化間コミュニケーション
6.ドイツの日本人のジェンダー
7.ドイツにおける日本語と日本文化
8.言語接触場面での困難
9.おわりに
第3章 ドイツで育児と仕事を両立させて(ハイディ・ブック・アルブレット)
1.はじめに
2.ドイツ育児サービス文化
3.養育手当て、レンジ報奨金
4.両親手当て
5.3年間ドグマ
6.個人的な経験
7.ドイツの学校でよく授業が「休みになる」こと
8.ドイツの新しい扶助法
9.育児と大学でのキャリアを両立させて
10.おわりに
第4章 イタリアにおける女性の地位と日本研究におけるジェンダー教育(鷺山郁子)
1.イタリアにおける職業上の女性の地位とジェンダー政策
2.イタリアの日本研究にみるジェンダー教育の視点の可能性
第5章 イタリアにおいて若者が求める変革(ヴァレンティーナ・ザッピテッリ)
1.母親至上主義の克服
2.機会均等と家庭支援の政策
3.政府と企業の取り組み
4.カトリックの影響:規範、結婚、離婚
5.イタリアの若者の人生
6.イタリアの大学における機会均等の活動
第4部 日本・ドイツ・イタリアにおける教育・労働・福祉
第1章 戦後教育の動向とジェンダー(上杉孝實)
はじめに
1.教育改革の動向
2.高等教育と継続教育
3.男女平等の推進と教育
第2章 日独伊における少子高齢化対応にみるジェンダーと労働(香川孝三)
1.はじめに
2.ジェンダーの視点からみる少子化対策
3.ジェンダーの視点からみる高齢化対策
4.おわりに
第3章 ドイツの社会保障・社会福祉(岡本民夫)
1.社会保障・社会福祉の拡大とジェンダー視点
2.ドイツの社会保障・社会福祉の背景
3.ドイツの社会保障制度
4.ドイツの社会保障の課題
終章 日独伊/比較ジェンダー研究の意義と展望(伊藤公雄)
コラム
1.日本における少子高齢者問題——暮らしの中から(中村彰)
2.インタビュー:イタリア女性から見たジェンダーの実情(聞き手:ヴァレンティーナ・ザッピテッリ)
3.レポート:ドイツの若い夫婦たち——テュービンゲン大学でのケース・スタディー(ミヒャエラ・オーバーヴィンクラー)
前書きなど
序章 少子高齢社会への日独伊の対応に関する比較研究の意義と展望
急速な少子高齢化によって生じる深刻な問題をどのように克服するかは、地球規模の重要な課題となっている。本書では、日本・ドイツ・イタリア3カ国の少子高齢社会への対応を比較しながら、そこにどのようなジェンダーのありかたやジェンダーについての考え方が反映されているかを考察し、その結果を踏まえて提言を試みるものである。
この本の執筆者らは、主に日本・ドイツ・イタリアを対象として社会学・教育学・文学・法学・社会福祉学などの研究に従事しているが、日ごろ、比較研究にたずさわることが多く、本書においても複眼的な論考を重ねることを心がけた。またこの本の著者らは、すべての人々が人間らしく生きる社会を築くにはジェンダー平等の実現が必要であるという考えを共通の基盤として執筆している。
(…中略…)
第1部では、日独伊におけるジェンダーの流れと現状について、冨士谷あつ子(日本)、三成美保(ドイツ)、伊藤公雄(イタリア)が概括し、第2部ではジェンダーと地域文化について、佐伯順子、野口芳子、望月紀子が担当し、第3部ではジェンダーと社会について塚本利幸、ヴィクトリア・E=サボー、加藤由美子、ハイディ・B・アルブレット、鷺山郁子、ヴァレンティーナ・ザッピテッリが担当し、第4部では日本・ドイツ・イタリアにおける教育・労働・福祉について上杉孝實、香川孝三、岡本民夫が担当した。終章において伊藤公雄が男女共同参画による比較ジェンダー研究の意義と展望について述べ、本書の意図を総括した。また日本・ドイツ・イタリア各国の方々にコラムを執筆していただいた。
本書におさめた論文は、研究者として課題を客観的に記述するものばかりではなく、当該課題に関する経験を通して主観的に、当事者としてほとばしる思いを記されたものを含んでいる。“わが身のこと”を起点として問題を見つめ、その克服を目指すことは、既成の諸学問を洗いなおすことを目指した女性学の視点に通底するものである。私事になるが、日本初の女性学の本『女性学入門』(サイマル出版会、1979)を編著者として世に送ってから、本年は30周年を迎える。女性学とジェンダー学とは、いずれも性差別への反発を起爆剤とし、社会の意識と法制度及び慣習の改変を図る学問である。そうしたなかでこの本の共著者の多くが所属する日本ジェンダー学会では、女性のみならず男性も視座に入れ、ともどもに人間的生活の充実を図ることを目標としている。
(…後略…)
2009年6月 冨士谷あつ子