目次
はじめに
本書を活用していただくまえに
事例の読み方・活用の方法
凡例
相談援助演習の意義と組み立て方
第 I 部 演習における事例分析と応用
1 入所施設における強度行動障害者への支援と家族との関わりの難しさ
2 生活の困難が背景にあって子どもがネグレクトされている家庭に対する介入と支援
3 生活が危機的状況にある家庭への介入・ワーカーのジレンマ
4 家族支援のない保護受給者への支援とワーカーの役割
第II部 展開事例
【地域】
1 父子家庭の子どもたちへの地域支援
2 地域生活を送る上で様々な生活課題がある家族への支援——日常生活自立支援事業を利用して
3 親族から虐待を受けている認知症高齢者への緊急対応
【高齢者】
4 生活が困難になりつつある独居高齢者に対する支援
5 高齢者の虐待ケースに対するソーシャルワークアプローチ
6 認知症高齢者を介護する家族が意図せず犯す家庭内の暴力に対処する支援
7 施設は誰のものか・トラブル事例
8 精神疾患と認知症が疑われる独居高齢者への介入・家族との関わりについて
【障害者】
9 地域で生活を希望する身体障害者への支援
10 障害者自立支援法の下、地域で暮らす知的障害者が自立をめざすことへの支援
11 長期に入所施設で生活してきた知的障害者の地域移行支援と地域生活支援
12 医療機関への受診・社会とのつながり
13 精神障害者の「生活のしづらさ」への支援
14 地域で孤立しながら必死に病気と向き合う精神障害者への生活支援
【児童・家庭】
15 自立援助ホームにおける被虐待高齢児への心の傷の癒し
16 母子分離した家族への支援とアフターケア
17 近隣からの孤立・育児不安と夫の暴力を抱えた家族への介入
18 多問題家族・国籍・自己探求への援助課題に直面するワーカーの苦悩
19 教育分野でのソーシャルワーカー
20 軽度〜中度の児童虐待への市町村の対応——境界性パーソナリティ障害のケース
【低所得者】
21 養育能力に課題がある母親と子どもたちへの支援
22 ホームレスの地域生活移行支援——本人名義の年金を妻が受給している事例
23 路上生活からの自立をクライエントとともに考える支援
【保健医療】
24 高次脳機能障害を伴う脳血管疾患を発症したクライエントの社会復帰への支援
25 DVの夫からの緊急避難を含めた療養援助と家族への援助
【成年後見制度】
26 ケアマネジメントを超える多様な生活課題に対しての取り組み
27 成年後見制度を利用した実践
【更生保護】
28 触法知的障害者の社会復帰に向けた支援
【民間企業(高齢者サービス)】
29 地域の犯罪増加と高齢者の不安に対処する民間企業におけるソーシャルワーク
本書事例と新カリキュラムとの対応一覧表
編集後記
執筆者一覧
編集委員紹介
前書きなど
はじめに(一部抜粋)
ここ数年、社会福祉を取り巻く環境は大きく変化しています。
1999年の社会福祉基礎構造改革を受け、社会福祉は措置から契約の時代に変わりました。それにともなって、高齢者福祉の分野では2000年に介護保険がスタート、障害者福祉の分野では2006年に障害者自立支援法が施行されました。また、「児童虐待防止等に関する法律」、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(略称:DV防止法)」、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(略称:高齢者虐待防止法)」などの新しい法律も制定されています。福祉自体もかつては低所得者や母子世帯など具体的な支援対象が見えていたのですが、現在はセーフティネットの機能低下により労働、年金、医療、教育などを総合的に捉えなければならず、一般市民をも巻き込んで展開しています。
(…中略…)
じつは、かねてから、養成教育と実務(必要とされる実践力)に乖離があることが指摘されてきました。筆者自身、現場のソーシャルワーカーから「現在の教育内容では、卒業後即戦力とならない。社会福祉士の資格を持っていても実際場面では役に立たないので、職場に配置されると同時に、特に実践的な分野(援助スキル)について大学で教えてもらったことをすべて忘れさせ、実務的な再教育をしています」との厳しい意見をきいたこともあります。
筆者はここ数年、東京で「社会福祉援助技術演習研究会」という40人ぐらいの規模の研究会を隔月で開催してきました。その会では、大学などの教員と現場のソーシャルワーカーが交互に事例を持ち寄り、検討していたのですが、教育者と現場実践者とのたがいの視点の確認と意見交換が必要であることを痛切に感じました。そして、実際にどうすれば実務者として期待されるソーシャルワーカーとなれるのかを、その研究会のなかで事例や講義を通して学び合いました。
本書は、この実践重視のカリキュラムにあわせて編んだ事例集です。社会福祉士の資格の有無をとわず、ソーシャルワーカーとして、さまざまな分野で活躍している実践者の方々に執筆をお願いしました。「エンパワメント」と「ストレングス視点」というソーシャルワーカーとしての支援の基本をもって実践を積んでいる方たちばかりです。先の研究会の仲間も数多く参加しています。
本書をつくるにあたって留意したのは、福祉職をめざす学生や現場で日夜実践活動を行っている方々が、相談援助演習を学ぶに当たりわかりやすい表現や言葉をつかうこと、必要な専門的知識を確認できることです。今、ここで辛苦にあえいでいる要支援者への理解と支援のあり方をイメージし、福祉職をめざす学生には、卒業後福祉の第一線における即戦力として理論・知識・援助技術、そして何よりも「人権擁護の大切さ」について具体的な場面を通し学習していただきたいと考えています。また、福祉現場で実践活動を行っている方には、あらゆる分野の事例を通して、幅広く知識と理解を深め、「自分ならどう対応するか」などを考えて、職場内の研修会などでも活用していただきたいと思います。
ソーシャルワーカーとして意欲的に活動している32人の仲間と共に、本書を通して、それぞれの熱い思いを1つひとつの事例に託し皆さんに伝え、「利用者が第一」ということを忘れずに、これからの道を一緒に切り拓きたいと願っています。