目次
はじめに
第1章 高齢化が進むOECD諸国
減少する子どもの数
より長く生きる
変化する年齢構成
第2章 世界の人口、貧困、そして環境問題
人口が増加する地球
世界的な格差:豊かさと貧しさ
移動する人々
地球規模の環境問題
第3章 新しい経済の展望にむけて
グローバル経済
知識集約型のサービス経済
第4章 変わりつつある仕事や職業の世界
仕事にとらわれない生活?
さらに不安定な雇用?
働く女性
第5章 学習社会
学歴
教育投資の増大
グローバルな教育の状況:不平等と学生の移動
第6章 ICT:ネクストジェネレーション57
デジタル革命
広がりゆくwww(ワールドワイドウェブ)
ウェブ2.0にむかうのか?
第7章 シチズンシップと国
変わりつつある政治参加の形態
福祉国家の役割:より小さな政府へ?
第8章 社会的関係と価値
いっそう多様な家族形態を生きる
社会的相互作用は減少しているか?
進歩する価値
第9章 持続可能な豊かさ?
拡大する豊かさと増えるエネルギー消費
広がる不平等
健康リスクをともなうライフスタイル
『教育のトレンド』を考えるために
付録1 クイズ『教育のトレンド』
付録2 日本語版参考文献
前書きなど
日本語版序文
本書は、OECDの教育研究革新センター(Centre for Educational Research and Innovation:CERI)が著したTrends Shaping Education — 2008 Edition の翻訳である。原題を直訳すると、トレンド、つまり世界の方向性が教育を形作る、という意味である。だが、本書を読んでいただければわかるように、世界のトレンドが教育を形作るだけではなく、教育という領域自体がまた世界のトレンドに影響を及ぼしているという意味もそこには含まれている。
2007年の秋にパリの本部を私が訪問した際、本書の草稿を、著者のデビッド・イスタンス(David Istance)氏とヘンノ・テイセン(Henno Theisens)氏から見せていただいた。その際のタイトルは、Trends for Educationであった。“for”が“Shaping”と変化したのは、なおもトレンドが進行中であること、そして特にトレンドが教育を形作りながら、そこに教育とトレンドの相互作用もあることを強調しようとする意義が含まれている。記憶の容易さやわかりやすさを考えて、邦題は「教育のトレンド」としたが、本書は、単に教育が現在どのような流行の中にあるかを示すだけのものではない。
本書の第一の特徴は、教育界が、いかに他の領域のトレンドに影響を受け、また逆に影響を及ぼしていくかの相互作用がメインテーマとなっている。次の図には、本書で取りあげられたテーマと教育の関係を示したが、教育の世界が社会の多様な領域と、いかに深く関わりあっているかが本書では示されていく。特に、本書では、図に示した各領域との関わりを主としているが、ヘンノ氏の説明では、今後さらに他の領域との関係でのトピックが追加されていく可能性があるという。本書から、日本だけではなく、世界の教育がいかに他の社会領域からの影響を受けているか、その全体像をまず見取っていただければと思う。
第二に、本書は、世界のトレンドを把握するために客観的で長期的な統計データを基礎としていることである。特に、は40年以上にわたり、世界で最も信頼できる比較可能な統計、経済・社会データを収集し、世界のトレンドを観察しながら、経済動向の分析、予測を行ってきた。また、近年は、経済領域だけではなく、環境、農業、技術、医療等の分野にも及び、各種統計の報告が毎年のように刊行されていることからも統計的データを重視していることがわかる。それは、自体の目的が、1)経済成長、2)貿易自由化、3)途上国支援に置かれていることとも関係している。教育の領域についてもすでに、『図表でみる教育(Education at a Glance)』に各国の教育統計がまとめられ、毎年更新されている。また、統計だけでなく世界各国の動向についても多くの出版物を刊行しており、オンラインブック・ショップやSourceOECD(統計データベース)でも出版物やデータを利用できる。本書でもまたウェブサイトとの連動ができるように各種のアドレスが記載されており、世界の統計的データの利用が各領域別にできるよう工夫されている。
第三に、教育についての多くの「問い」を各トピック毎に提供している点が、本書の大きな特徴としてあげられる。私たちの日常の学習活動で、どのような問いを立てるかは、非常に重要な行為である。どのような問いを立てるかは、私たちが教育のどのような面に注意と関心を払っていくかということでもある。たとえば、人口の都市集中によって進む「地方の過疎化や停滞、学校の閉鎖などにどう向き合うか」という問いは、教育関係者だけでなく、過疎化の進む地域の住民にとっても大きな「問い」となる。また、学校がもつ「社会の錨(いかり)」としての役割、人を地域に根ざすように教育するという働きに注意や関心を向けることとなる。
本書では学校教育が中心となっているとはいえ、こうした教育をめぐる多くの問いは、教育を運営し、研究し、実践する専門家だけではなく、教育に関するレポートや卒業論文を書こうとする学生や、学校教育に協力し、学校を支えようとする多くの人々にとって、教育を学ぶ扉のキーになるだろう。
読者のみなさんが、教育をめぐる世界のトレンドを見ながら、教育についていっそう広く深く考える仕組みが本書の構成であり、大きな特徴になっているといえよう。
(…後略…)
2009年正月 国立教育政策研究所総括研究官 立田慶裕