目次
国立民族学博物館「機関研究」の成果刊行について(松園万亀雄)
第1章 総論:北アメリカ先住民の社会経済開発(岸上伸啓)
1 はじめに
2 北アメリカ先住民の歴史と分布
3 ヨーロッパ人との接触と先住民社会の変容
4 二つの国家と先住民社会
5 都市への人口流入と多様化する先住民社会
6 北アメリカ先住民の社会経済開発
7 本書の構成と内容
8 小結
第2章 新しいバッファローを求めて——ラコタ・スー族の経済開発(阿部珠理)
1 ラコタ経済の現在
2 ローズバッド保留地における経済開発の取り組み
3 経済開発への障壁
4 今後の展望
第3章 ナヴァホ・ネイションの近代化と経済開発——アメリカ合衆国における「第三世界」の諸相(谷本和子)
1 ナヴァホ社会の現在
2 ナヴァホ・ネイションの社会経済開発状況
3 民主化と自治への道のり
4 予算と経済的基盤
5 ブラックメサ炭鉱の閉鎖をめぐる動き
6 新たな開発事業への取り組み
7 おわりに
第4章 協働作品としての『ホピ・ズニ作家展』——北米先住民の知的財産保護に向けた日本での実践(伊藤敦規)
1 はじめに
2 ホピとズニ
3 模倣品と諸対応
4 日本市場管理に向けた実践
5 おわりに
第5章 開発としてのカジノ経営——その成果と課題(青柳清孝)
1 はじめに
2 部族保留地カジノの開設
3 カリフォルニアのカジノをめぐる住民投票
4 保留地外カジノ設置
5 インディアン・カジノの評価
6 おわりに
第6章 現代ユッピックの「生き方」と金鉱開発プロジェクト(久保田亮)
1 はじめに
2 アラスカ先住民運動と先住民企業
3 ドンリン・クリーク金鉱開発プロジェクト
4 金鉱開発計画に対する反応/対応
5 むすびにかえて
第7章 アラスカ・ツィムシアンとアラスカ先住民法——「先住民」の開発を選ばなかった先住民たち(岡庭義行)
1 はじめに
2 ANCSAとアラスカ先住民
3 メトラカトラ・インディアン・コミュニティ
4 メトラカトラの課題
5 まとめと展望
第8章 アラスカ・ツィムシアンの観光開発と文化復興(齋藤玲子)
1 東南アラスカの先住民と観光
2 メトラカトラ・コミュニティの挑戦
3 観光の基盤整備と開発援助
4 おわりにかえて——アラスカ・ツィムシアンの観光開発から見えてきたこと
第9章 戦後カナダの先住民族に対する経済開発政策と教育——一九四五〜一九六九(広瀬健一郎)
1 はじめに
2 先住民族に対する開発政策の基盤形成
3 先住民族保留地における地域経済開発政策の展開
4 「民族自治型開発」の出現と教育自治
5 おわりに
第10章 カナダの先住民族クワクワカワクゥとサケの養殖業——〈経済vs環境〉をめぐる三つの次元(立川陽仁)
1 はじめに
2 人類学者としての「筆者」の位置
3 マクロな次元——バンクーバー島におけるサケの養殖業の経済貢献と環境問題
4 ミクロな次元——クワクワカワクゥ社会における対応
5 展望——科学的次元の意義
あとがき
索引
前書きなど
あとがき
本書は、国立民族学博物館の機関研究「文化人類学の社会的活用」のプロジェクト「日本における応用人類学展開のための基礎的研究」(二〇〇四年度〜二〇〇八年度、代表者・岸上伸啓)の成果のひとつである。編者はこのプロジェクトを遂行するために、国立民族学博物館の共同研究会「開発と先住民族」(二〇〇五年度〜二〇〇七年度、代表者・岸上伸啓)を最大限に活用した。したがって本書は、民博の共同研究会の成果でもある。
二〇〇六年六月二四・二五日に国立民族学博物館において、共同研究会「開発と先住民族」の枠組みを利用して一般公開シンポジウム「北アメリカ先住民の開発」を開催した。日本では北アメリカ先住民の文化や社会を研究する文化人類学者は存在するが、社会経済開発をテーマとして研究してきた者はほとんどいない。編者は、このシンポジウムのために青柳清孝(元国際基督教大学)、伊藤敦規(東京都立大学大学院)、井上敏昭(城西国際大学)、岡庭義行(帯広大谷短期大学)、齋藤玲子(北海道立北方民族博物館)、谷本和子(関西外国語大学)、立川陽仁(三重大学)、玉山ともよ(総合研究大学院大学)らの方々にお願いをして、北アメリカ先住民の開発をテーマとしてご報告をいただいた。本書はこのシンポジウムをベースにしたものである。また、本書のために、立教大学の阿部珠理氏、東北大学の久保田亮氏、鹿児島純心女子大学の広瀬健一郎氏には論文の書き下ろしをお願いし、寄稿してもらった。
なお、シンポジウム参加者のうち編者、井上敏昭、玉山ともよの事例報告は諸般の事情で、このシリーズの第七巻『開発と先住民』に所収することになったことをお断りしておきたい。
本書は、「北アメリカ先住民の開発」を研究対象とした日本で最初の編集本である。新しい研究分野であるため研究の蓄積も少ないうえに、編者の力量不足もあってかなり荒削りな書物となった感が無いわけではない。しかしながら、本書がこの分野の今後の発展のきっかけになれば、編者らにとって望外の喜びである。今後の研究の展開のためにも本書について読者諸氏にご批判、ご叱正を請う次第である。
(…略…)
二〇〇八年入梅時の民博にて 岸上伸啓