目次
動機
研究目的及び手段
1 中国残留孤児問題へのアプローチ
中国残留孤児とは
2 戦争が生んだ中国残留孤児
戦争へと向かう日本社会
満州国建国とその推移
国策としての満州移民
敗戦
歴史的観点の関連づけ
3 敗戦後の日本の対応
現地土着方針と引き揚げの中断
未帰還者に関する特別措置法
そのころ孤児たちは
4 日中国交回復後の政府の対応
訪日調査までの道のり
「外国人」の「個人次元の問題」としての援護政策
政府による残留孤児援護に関わる年表
5 中国帰国者の生活実態
概要
孤児の日本語能力
生活保護による暮らし
就職の困難
帰国後の生活全般について
生活の現状から明らかになった真の「自立」支援措置の欠如
6 中国「残留孤児」国家賠償請求事件
主張しはじめた孤児たち
7 残留孤児に対して国が持つ義務の発生根拠
日本国憲法上の孤児の権利と国の義務
国際法上の孤児の権利と国の義務
法令上の孤児の権利と国の義務
条理
違法な先行行為に基づく国の義務
8 帰国か残留か
帰国に積極的な思い
帰国に消極的な思い
9 池田澄江先生の体験——春休みの訪問より
中国での生活——「徐明」という名の日本人として
帰国から日本国籍取得までの経過——「徐明」事件
帰国後の生活
国家賠償訴訟原告として
10 日本の国家賠償
国家賠償制度
国家賠償法の適用
国家賠償法一条に関するその他の問題
国家賠償の日英比較
11 戦後補償
戦後補償問題
日本の戦後補償裁判を特徴づける主張
日本の戦後補償の特徴
諸外国との比較
12 人権とは何か
人権という概念
日本における人権思想の変遷
「人権」思想
孤児と外国人の人権
人権意識の獲得
13 平等とは何か
平等の保障と自由
現代社会と平等
孤児と社会と平等
14 考察——「日本」と私たちに欠けていたもの
15 おわりに
参考文献
訪問調査・発表の記録
前書きなど
研究目的及び手段
調べはじめると、さまざまな疑問が浮かんできた。とくに、第二次世界大戦に端を発する孤児問題が、なぜ現在も尾を引いているのか、ということが大問題だった。残留孤児は、歴史に翻弄された人々であり、歴史との関係が非常に深い。そこで私は、中国帰国者をめぐる戦前から現在に至る歴史的経過を追うことによって、残留孤児が発生した原因及び問題長期化の原因を解明することを第一の目的とした。問題の歴史的足跡を追うことで、問題の体系的理解が得られると考えた。
さらに、残留孤児問題の「今」という側面から、新聞記事などの報道や統計資料を利用して、帰国者が現在抱えている問題の検討・分析を行うことから、本来望まれる支援方法を考察しようと考えた。とくに、残留孤児問題の影響は孤児本人にとどまらず、その子どもや孫の世代にまで及んでいる現状を受けて、その解決策を考えることも課題だった。
また、将来の進路として考えている法学に関して、自分の適性と興味関心を自己確認するため、法的な知識や考え方に触れることを付随的な目的とした。
以上のように、研究の主眼を残留孤児に据える一方で、以前から興味があった「国家の中での個人」、とくに個人の人権擁護の問題について考察していくことが大きな目的であった。メディア、地域社会、教育といった社会を構成する広範な要素を一度疑い、それについて考察を加えた研究を目指した。
こうした目的を達成するための研究手段としては、訪問調査・新聞調査・文献調査・裁判傍聴を用いることとした。なかでもとくに大切にしたかったのは、訪問調査である。実際に行った訪問調査や発表は、本文の最後に示した。