目次
序章
第1部 文化交流と教育
第1章 文化交流と教育——人と文化の交わり
第2章 日本の近代教育と西洋教育思想
第3章 日本人移民の文化変容と教育——アメリカ日本人移民の集団間関係と教育ストラテジーの史的展開
第4章 バイリンガルの言語習得と生活文化
第5章 シルクロードへのノスタルジア——教育への応用
第2部 生涯学習の中の文化交流
第1章 学校教育における異文化理解教育
第2章 社会教育における文化交流——地域における子どもの体験と交流
第3章 大学における異文化間教育——多文化主義の挑戦に応えるカリキュラム構築にむけて
第4章 図書館の国際文化交流
第5章 同志社に学んだ留学生——戦前同志社大学の朝鮮留学生を中心に
第6章 スポーツのグローバリゼーション
前書きなど
序章(沖田行司:一部抜粋)
(…前略…)
本書は2部構成からなっている。第1部の「文化交流と教育」では主として、文化交流の実態とそこから生じてくる諸課題に焦点を当てながら、教育文化学の思想と理論の構築を目指した論考を中心に構成した。第1章においては日本固有と考えられてきた伝統的な教育文化が実は東アジアとの文化交流の中で形成され、そこから日本人の人間形成に関する理想が生み出されてきたことを明らかにしている。第2章では日本の近代教育の形成期において受容された欧米の教育学理論や制度が単なる模倣に終始したのではなく、主体的な受容と批判的な検証を経て確立されてきたことを論証している。第3章はアメリカに渡った日本人移民が、ホスト社会をはじめ、多様な移民集団とどのような関係性を構築し、それは移民集団そのものに、いかなる変容をもたらしたかを明らかにしている。民族や国民が越境して交わるグローバリゼーションが進行する現代社会の重要な教育問題と通底する。第4章ではバイリンガルの言語習得における文化の役割と意味を言語連想から単語の記憶構造まで踏み込んで考察している。二言語習得に必要な文化的環境をどのように考えるのかという重要な示唆を提示している。第5章ではシルクロードを主題とした10の講座の事例の分析を通して、文化のグローバル化とアジア地域へのアイデンティティに関する問題を考察するとともに、仮想のグローバル共同体の持つ可能性について言及している。
第2部の「生涯学習の中の文化交流」では、学校教育や社会教育または大学教育などの教育実践の場や、さらにはそれらを支援する図書館と広く国民の健康に関わるスポーツの立場からグローバリゼーションおよび文化交流の実際とその課題を取り扱っている。第1章では異文化理解教育を多文化共生社会という国際社会の動向を踏まえて再検討しながら、グローバルをローカルの視点で捉える「グローカル」教育の必要性とその具体的な方法を提示している。第2章では、戦後の社会教育が国際的な課題と取り組みながら新たな法整備を進めていった過程を明らかにするとともに、学校と社会の連携交流や日常的に体験する地域間や世代間の文化交流の「場」とその実際について論じている。第3章では多文化主義が大学教育にもたらした歴史的課題といったものを検証しながら、大学における異文化間教育の課題を論じている。とくにジェンダー学を多文化主義教育の文脈で捉えなおしたカリキュラム構成の実際を提示している。第4章では、公共図書館の新しい課題として、国際的な情報の流通とその共有化を支える「国際交流の場」としての機能と「文化の使徒」としての図書館専門職の国際交流及び国際貢献の実際を提示している。第5章では近代日本の留学史、とりわけアジアからの留学生の受け入れとその歴史的な意味を、国際主義を建学の精神とした同志社を例にとって明らかにしている。この分野の研究者は極めて少ないが、アジアの人々の日本観と日本人のアジア観を知る上でも重要な研究領域である。アジアからの留学生史は、今後のアジア交流を考える上でも大きな課題を担っていると言えよう。第6章は人間の身体的機能がもつ普遍性を前提としたスポーツ指導またはスポーツ教育のグローバリゼーションは多様な言語を媒介として伝達する際に、言語の背景にある文化風土が大きく作用することを明らかにしたうえで、そうした障壁を克服する方向を提示している。
(…後略…)