目次
はじめに
1 私たちの住む世界と地球の実態
——格差拡大と環境破壊のメカニズム
1 貧困と不平等◇シャンパングラスの世界
2 ミレニアム開発目標◇世界の人間開発推進を目指して
3 ホワイトバンド・キャンペーン◇ほっとけない、世界のまずしさ
4 MDGs失敗の場合◇支払うべき重い代償
5 地球環境問題◇「持続可能な世界」を指し示すNGO
2 21世紀の合意形成モデル
——「2セクター」から「3セクター」モデルへ
1 福祉国家と民主主義の限界
2 3セクターモデルへ向けて——「政府=NGO=企業」三者の協働モデル
3 NGOネットワークと3セクターモデル
4 冷戦後の新しい世界システムとして
3 NGOの国際ネットワーク
——グローバリゼーションに抗するアクター
1 地球サミットからシアトルWTO閣僚会議へ
2 NGOの行動理念——非暴力直接行動主義と説明責任
4 政府とNGOの新しい協働
——「市民社会力」が世界を変える
1 国境を超える市民社会
2 NGOの協働戦略
3 NGOの代表性と交渉(譲許)性
5 国際イベントの環境対応
——グリーンゲーム
1 「グリーンゲーム」とは何か
2 グリーンピースが要求した七分野の評価
3 「緑色五輪」——北京オリンピックとNGO
4 アテネ・オリンピックの環境評価
6 WTOの何が問題なのか
——NGOの主張から
1 民主的な意思決定システムにせよ
2 法的権限が強大過ぎる
3 貿易は人権の法に服すべきである
4 「環境」を貿易財にするな
5 公共サービスを貿易財にするな
6 「最低水準」の環境規制を「最高水準」にすり替えるな
7 輸入品の安全性は輸入国側が判断すべき
8 TRIMS協定は途上国の開発を遅らせている
9 労働、人権、社会・環境を守る最低基準がない
10 TRIPS協定の改革で途上国の医療を守れ
11 先進国の農業補助金の削減・撤廃を
12 「特別かつ差異ある待遇」原則を形骸化させるな
7 IMF・世界銀行と開発途上国の債務
——JUBILEE2000
1 開発途上国の債務問題の展開
2 「ジュビリー2000」運動の展開
3 進むIMF・世界銀行離れ
8 医療へのユニバーサルアクセスを
——ジェネリック薬問題を中心として
1 開発途上国のエイズ・感染症問題
2 NGO vs WTO
3 必須医薬品入手キャンペーン
4 必要資金の確保
5 日本の医療費削減策として
9 革新的資金調達メカニズムへの道
——国際連帯税導入に向けて
1 新たな資金源として
2 国際連帯税とは
3 通貨取引税(トービン税)のメカニズム
10 ODAとNGOの協働
——第三の援助ルートとその意義
1 DAC諸国のODAとNGOルート
2 オランダの開発協力とNGO
3 日本のODAとNGO
4 政府とNGOの協働へ向けて
11 人間開発と新しい「平和学」
——平和構築のための日本国憲法第九条
1 人間の安全保障
2 紛争予防への取り組み
3 「九条」を世界のものに——GPPAC
4 「九条」世界化プロセス
5 二〇〇七年夏 平和宣言 広島
12 公共哲学と市民社会
——「公・私」二元論から「公・公共・私」三元論へ
1 「公共哲学」と「市民社会」論の展開
2 「領域主権論」
3 「新しい市民社会」論と「市民的公共性」
4 日本の近代化と「公共圏」
5 日本の改革へ向けて
13 日本の市民社会セクター
——変革のバロメーター
1 急増するNPO法人
2 市民社会セクターを支えるサブシステム
前書きなど
はじめに
この本は、今、この世界で何が起こっているのかについて書いています。「NGOの視点」から見た世界・地球の実態についての本です。
私たちはこれまで、「政府(国家)」と「企業(産業)」の二つの視点からのみ世界を見、論じてきました。しかし現在は、第三の視点として「NGO」からも見ないと、世界を正しく認識できない時代になっています。NGOが世界システムの主要なプレーヤーの一つとして登場しているからです。この本を読んでいただき、NGOからの視点を併せ持つことの重要さに気づいていただけると、世界・地球の状況をより良く、より深く理解することができるようになることと思います。
この本は、世界のNGOが世界の市民社会とネットワークを組み、いかに私たちの「生活世界」を改善・改革するために取り組んでいるかについて書いています(第3章)。但し、世界のNGOの活動はあまりにも多様で深いため、そのごくごく一部を紹介したに過ぎません。それでも、NGOがいかに重要な活動をし、いかに世界を変えているかという現実は、十分お分かりいただけると思います。
この本は、政府とNGOの新しい協働関係(パートナーシップ)について書いています。世界・地球をより良くしていくために、政府とNGOが新しいパートナーシップを組んで取り組んでいる姿を紹介しています(第4・7〜10章)。もう一つの重要な動きに、CSR(企業の社会的責任、第2章)があります。これは、世界をより良くしていくために企業とNGOが築く新しい協働関係のことです。これについては、次の本で報告したいと思います。
この本は、新しい世界モデル(世界システム)について書いています。「政府・企業」の2セクターによる経済社会運営モデルから、「政府・NGO・企業」の三者の協働と合意によって運営する新しい3セクターモデルへの移行(第2章)、「公・私」二元論でなく、「公・公共・私」の三元論への移行(第12章)、という新しいモデルを紹介しています。さらに、NGOの国際ネットワークとその主張に賛同する特定国政府との協働による新しい多国間条約の成立過程(プロセス革命)の登場と新しい世界システムの形成について紹介しています(第3・4章)。
この本は、二一世紀の私たちの「生活世界」を建て直す上で、“市民社会力”がいかに鍵(キー)となるかについて知っていただくための本です。建て直しの方法は多岐にわたりますが、特に地球規模での平和構築は緊急の課題といえるでしょう。そのために市民社会とNGOネットワークが果たしている役割と今後の可能性について紹介し、展望しています(第11章)。
本書のキーワードである“市民社会力”とは、個人である「私」が自分自身のことを考えると同時に、他者のことを考え、真摯にコミュニケーションと対話を行い、さらに皆のこと(公共)を考え、公共の視点から「公」つまり政府を開いていく、その力のことです。
私たちの日本は、「公・私」二元論で近代国家(明治)を造ってきました。「公共(public)」とは皆のことという意味ですが、日本ではこの「公共圏」は政府が行う部門として公のカテゴリーにからめ取られてきました。日本は世界の先進国の中で、市民社会セクターが最も小さい国の一つですが、その理由はこういったところにあります。
それに対して、日本の真の改革のために、「公共圏」を市民のものにしていくために、そこで活動する市民社会団体(NGOなど)により形成される市民社会セクターが、政府セクター、企業セクターと協働していくことによって創り上げられる新しい公共圏の形成を構想して本書は書かれています。
そうした市民社会団体(セクター)が国境を超えてネットワークをつくり、その力が私たちの生活世界を改革していく力を“市民社会力”と表現しています。それぞれの発想や考え方は、先人の体験と研究によって創り上げられてきましたが、本書では、最新の世界の動きを踏まえて、それらの意味を捉え直し、体系的に発信してみようと試みました。
「NGO」の定義について少し書いておきましょう。本書では、市民社会力の中心的アクターとして、「NGO(non-governmental organization 非政府団体)」という言葉を主に使っています。同様の意味で、「NPO(non-profit organization 非営利団体)」、あるいは「CSO(civil society organization 市民社会団体)」などの言葉もあります。この三つはほとんど同じものだとお考え下さい(NGO、NPOの詳しい定義は第13章)。NGOは国連が使っている言葉で、NPOは法律用語として使われている場合が多く、CSOは先進国用語(先進国クラブであるOECD〔経済協力開発機構〕が使ってきた言葉)といったニュアンスの違いがあります。
「市民社会(civil society)」という言葉は、途上国からはむしろ先進国用語として批判されてきました。独裁政権が多くあった時代には、そういう国々では、「市民社会」などなく、われわれは「市民」ではなく、「人民(people)」だといって、人民団体(people's organization)と呼ぶ国もありました。
しかし、九〇年代後半以降の国際的なNGO活動の興隆から、途上国でも「市民社会」という言葉が急速に普及していき、今では「CSO」という言葉が広く使われるようになっている傾向もみられます。その点で、本書の趣旨からいうと、NGO・NPOよりも「CSO」がふさわしいのかもしれもませんが、現段階ではアクターとしての呼び名が一般化している「NGO」を使っています。
この本は、多くの方々との素晴らしい出会いによって出来上がりました。その出会いに感謝します。執筆にあたって多くの資料を使いましたが、読者の便宜を考え、資料掲示は日本語のものを中心に、かつ最小限にとどめました。
この本を読んでくださった方々は、きっと新しい現代世界に出会い、人間というもののすばらしさを感じていただけることと信じています。
二〇〇七年 九月 長坂寿久