目次
はしがき
第1部 基本的視点
第1章 勤労者の視点から見た人口問題——質の高い雇用の場を生み出すことが少子化対策の王道
(小峰隆夫:法政大学教授)
1 少子化・人口減少問題の基本的な位置づけ
2 人口減少と勤労者の生活
3 労働力制約時代の幕開け
4 女性の社会参画と少子化
5 雇用の質を高め、勤労者、生活者の立場に立った仕組みを作ることこそが少子化対策の王道
第2章 少子化の要因と人口減少の諸相
(和田光平:中央大学教授)
1 少子化の諸要因
2 人口減少のメカニズム
3 わが国における人口減少・少子高齢化の姿
4 労働力人口の展望
第3章 人口減少下の日本経済の展望と課題——働き方の改善による成長で生活向上が可能
(吉川薫:白鴎大学教授)
1 人口減少が経済の供給サイドに与える影響とその対応
2 人口減少が経済の需要サイドに与える影響
3 人口減少下の財政健全化
4 2030年の日本経済の展望
5 人口減少による地域経済社会の変容と課題
第2部 人口減少の悪影響をいかに防ぐか
第4章 労働力減少時代の高齢者雇用——多様性管理と新たな課題
(奥西好夫:法政大学教授)
1 労働力人口の減少と高齢者の労働力率
2 企業の高齢者雇用制度の現状と展望
3 社会全体の対応
第5章 少子社会と女性の労働供給——新しい働き方のルールの模索
(永瀬伸子:お茶の水女子大学教授)
1 少子高齢化社会に適合した働き方
2 1990年代の女性雇用の変化
3 働き方のルールの何が問題なのか
4 少子化時代の新しい働き方のルールの模索
5 社会的な合意の形成と社会環境の整備
第6章 高齢化・人口減少社会における年金制度・医療制度の将来
(駒村康平:慶應義塾大学教授)
1 年金制度の評価と諸外国の年金改革
2 出生率低下が年金財政に与える影響
3 年金制度改革の選択肢と改革の試算
4 2006年の医療制度改革の評価と問題点
5 介護保険制度の動向と介護労働者の確保
6 まとめ
第3部 少子化にいかに歯止めをかけるか
第7章 育児と仕事の両立を超えて——子育て世帯の現状とワーク・ライフ・バランス
(大石亜希子:千葉大学准教授)
1 子育て世帯の経済状況と雇用
2 両立支援の必要性
3 労働政策の課題(1):ワーク・ライフ・バランス
4 労働政策の課題(2):育児休業
5 社会保障政策の課題:保育サービスと児童手当
6 おわりに
第8章 家族意識の変化と少子化
(渡辺秀樹:慶應義塾大学教授)
1 国際比較調査からみる家族意識の様相と変容
2 家族変化の実態:婚外子割合と妊娠先行型結婚の増加
3 都道府県別にみた婚外子と妊娠先行型結婚の動向
4 子育ての分担と共同、家族と仕事のバランス意識
5 まとめ
第9章 少子化と子育て支援
(大日向雅美:恵泉女学園大学教授)
1 少子化対策における視点の変化
2 少子化対策と人々の意識との乖離
3 真に求められている施策とは
前書きなど
はしがき
わが国の人口は2005年を境に減少過程に入ったとみられ、一時的な中断はあるとしても長期にわたって減少を続けることは確実である。この人口減少がわが国の経済産業、労働、社会生活にどのような影響を与えるか、その影響に対して各政策・制度はどう対応すべきかなど、人口減少が社会に与える影響に関する研究はいまだ十分には行われていない。
当連合総研では、前任の中名生隆(隆は生の上に一)所長の時代に、「人口減・少子化社会における経済・労働・社会保障政策の課題」に関する研究を実施することを決めた。2005年1月から、小峰隆夫法政大学教授を主査とする研究委員会において、日本の人口減少が経済産業、労働・雇用、社会保障などに与える影響について、短期・中期・長期の視点から解明を行うとともに、中期・長期の影響に対する各政策分野における対応策のあり方を検討してきた。この研究委員会には、学際的な観点から、幅広い分野の一流の学者の方々に参加していただいた。人口減少は、経済だけでなく、たとえば、育児についての考え方、家族のあり方にも見直しを迫るものであり、経済学や人口論のアプローチだけではなく、人的資源管理、社会保障論、家族社会学、発達心理学など各分野の専門家による論議が必要であると考えたからである。
本書は、同研究委員会の2年間にわたる研究の成果であるが、大きな特徴は、人口減少問題を「勤労者、生活者」の視点から取り上げたことである。その内容は2つに分けられる。1つは「人口減少の悪影響をいかに防ぐか」という視点である。人口減少は、経済生活、地域社会、社会保障など勤労者の生活に大きな影響を及ぼすこととなる。なかでも、労働力不足が経済的大問題となるなかで、働く意思と能力のあるすべての人々の就業を促進することが重要になる。このため、とりわけ高齢労働者と女性労働者が経済活動に積極的に参加しうる社会システムをつくることが不可欠である。そのようなかたちで就業率を引き上げることは、年金制度など社会保障分野にも、少なくとも短期的、中期的には好影響を与えることになる。
もう1つは「少子化にいかに歯止めをかけるか」という視点である。少子化には「日本の働き方」が影響している。従来型の、「再参入が難しく」、「正社員とパートの賃金格差が大きく」、「残業時間が長い」といった雇用慣行が、女性の子育ての機会費用を大きくすることを通じて、少子化をもたらしているからである。このことは、少子化対策としてたんに児童手当のような所得面から部分的に対策を講じるのではなく、就業による公正な所得、仕事と家族生活を両立させる労働時間制度、保育サービスなど子育てを支援する地域的な社会システムの3つを適切に組み合わせた一貫した政策が不可欠であることを意味する。
全体として、「雇用の質を高め、勤労者、生活者の立場に立った仕組みを作ることこそが人口減・少子化対策の王道である」というのが本書の主張である。
本書では、第1部の第1章で総括的な論議を行い、第2、3章で人口減少、少子化の現状および将来をデータに基づいて分析している。第2部の第4−6章では、高齢者雇用、女性を中心とする新しい働き方および社会保障の各側面から、人口減少の悪影響をいかに防ぐかについて論じ、そして第3部の第7−9章では、ワーク・ライフ・バランス、家族意識および子育て支援の各側面から、少子化にいかに歯止めをかけるかについて、それぞれの分野で取り組むべき政策課題を明確にしたうえで、実現可能な政策の提案を行っている。
最後に、本研究委員会のとりまとめにご尽力をいただいた小峰隆夫主査、ならびに研究委員会の場で有益な意見を提起していただいたうえ、優れた論稿をお寄せいただいた各委員に厚く御礼申し上げる。本書が各界で広く読まれ、関連する政策論議に一石を投ずることを強く期待したい。
2007年5月
財団法人 連合総合生活開発研究所
所長 薦田 隆成