目次
まえがき
1 風景と人々
第1章 低い空の低い国——瑞々しいオランダ
第2章 「海面下」に暮らす——干拓の国土
第3章 広場と斜めに建つ家——それでも運河は残った
第4章 ダッチ・アカウント——倹約とケチの平等主義
第5章 季節と共に——三大祭と子ども優先社会
第6章 女王陛下は自転車に乗って——王室は我々が選んだ
第7章 変わるオランダ人——「贅沢」の媚薬を嗅いで
2 治水の文化と社会——文明モデルとして
第8章 ウオーターボード——治水と民主主義
第9章 「モーレンガンフ」から——風車と開拓技術の進化
第10章 ゾイデル計画とデルタ計画——終わりなき水との闘い
第11章 海からの「脅威」——温暖化と土地の沈下
第12章 三つの自由革命——息づく「寛容」と「黙認」
第13章 屋根裏教会——異文化共存モデル
第14章 開かれたパンドラの箱——二つの暗殺事件
第15章 試される「自由の国」——寛容性哲学の再構築
第16章 麻薬、飾り窓、尊厳死——「制御」の文化
第17章 オランダモデル——「政府=NPO=企業」の協働
第18章 21世紀の合意形成システム——コンセンサス民主主義
第19章 領域主権論——世界最大のNPOセクター
3 芸術の魅力
第20章 レンブラント工房——既製絵画市場
第21章 ゴッホとゴーギャン——その光と影
第22章 ロイヤル・コンセルトヘボー——クラシックの殿堂とオペラ
第23章 ネザーランドダンス——世界で最もモダンなダンスカンパニー
第24章 トータルフットボールの創出——ダッチ・フットボール 1
第25章 アヤックスとクライフの時代——ダッチ・フットボール 2
4 歴史の断章
第26章 氷河に削り取られて——ケルト人の到来
第27章 「未開の地」から「ホラント」へ——ローマ世界からキリスト教世界へ
第28章 「丘」から「堤防」へ——アムステルダムの形成
第29章 中世の秋——ブルゴーニュ公国とハプスブルク家
第30章 低地の国のカンタベリー——アムステルダムの奇跡
第31章 人文主義から宗教改革・カルビニズム——エラスムスからルターへ
第32章 「海乞食」の戦い——八十年戦争
第33章 大国の興亡——スペインの敗因
第34章 オランダ王室オラニエ家——立憲君主制のはしり
第35章 ミュンスター条約とウェストファリア条約——主権国家の成立
第36章 水とニシンを制する者——覇権国家への道
第37章 VOC——株式会社の源泉
第38章 チューリップ・バブル——神秘の花の誘惑
第39章 「進歩」と「工業化」の時代へ——覇権国家の終焉
第40章 「スパイス・ロード」を求めて——海洋大国への道
第41章 アフリカーナー——アパルトヘイトとオランダ人
第42章 第三次「大航海時代」——世界の中心アジアへの旅路
第43章 出島——黄金時代を支えた日本の銀
第44章 日本とライデン——日蘭交流
第45章 『マックス・ハーフェラール』——インドネシア統治の実態
第46章 柱状社会——多極共存民主主義
第47章 中立政策の動揺——二つの世界大戦とユダヤ人
第48章 アンネとオードリー——戦争に翻弄された二人の女性
5 政治と経済
第49章 植民地の行方——新オランダ王国の成立
第50章 ネオ・コーポラティズム——政労使の合意による経済政策
第51章 安定連立政権の動揺——選挙と議会
第52章 引き裂かれる国家——国際条約を優先する憲法
第53章 「オランダの奇跡」から——ポルダーモデルのその後
第54章 ワークシェアリング——働き方の変遷
第55章 多国籍企業国家——世界のモデル
第56章 産業内特化で競争力——産業構造
第57章 欧州に依存する経済——貿易と投資
第58章 欧州のゲートウェイ——インフラの統合力
第59章 日蘭経済関係——欧州の拠点
第60章 戦争責任——旧オランダ領東インドをめぐって
オランダを知るためのブックガイド
オランダを知るためのシネマガイド
前書きなど
まえがき
この本は、私自身のためのオランダガイドブックとしてつくったものです。アムステルダム駐在時代に、自分の好奇心からオランダについて知りたいと思った疑問について、その都度調べて『JCCかわら版』という在蘭日本商工会議所の雑誌に連載していました。帰国後も、好奇心を満足させるために、こつこつと調べてまとめたらこの本になったという感じです。実はそれだけではなく、日本に帰国してからも、世界のことを考えるにつけ、オランダへの好奇心は一層深まり、広がり続けました。問題意識の推移に従って、調べていくうちに、内容がさらに加わっていきました。
オランダという国は、これからの世界を考える上でも興味の尽きない国です。知れば知るほど好奇心がそそられる国と言えます。オランダを知るということ、オランダから考えるということは、全欧州的な視点で見るということですが、それにとどまらず、世界的な課題を教えてくれるということでもあります。オランダは規模からいえば小国に過ぎませんが、歴史の中でいつも先端的なモデルを提示してきた国です。今もそのことは変わらず、二一世紀的な関心事項について、先端的な発想を伝え続けてくれるように思います。
この本を書くために、オランダと知的ゲームを楽しんできました。そのためすっかりこの本の出版が遅れてしまいました。より深く考えるようになると、より深くオランダを知ることになり、さらに新しい問題意識が湧いて、といった具合に、自分の好奇心にからめとられた状態が続きました。三〜四年前には出来上がっていたはずなのですが、本にしてしまうとそれで終わってしまうような気がして手放すのが惜しく、校正に入っても、かなり書き加えたりして、編集の方に大変な迷惑をかけてしまいました。
ともあれ、この本を抱えていて調べることで、とても楽しい思いをしました。でも、そろそろ手放して一人歩きをさせなければなりません。
この本は、オランダの社会システムについて紹介した前著『オランダモデル』(日本経済新聞社、二〇〇〇年)と合わせて読んでいただくとありがたいと思います。前著に書いたことはできるだけ少し触れるに留めましたので、詳しくはこの本も読んでいただければと思います。
本書は自分の関心のままに書いたため、例えば「歴史」は客観的なオランダ史ではなく、私が関心をもった事項についての歴史です。そのため「歴史の断章」としました。また、地名表記には苦労しました。現地の発音と違っているところがあるかもしれませんが、対外的に一般化して使われていると思われるものはそれを優先しました。オランダの国名は、そのまま訳せば「ネーデルラント王国」ですが、オランダ政府が使っている日本語の国名は「オランダ王国」ですので、そのまま「オランダ」としました。但し、本書の中でも「ネーデルラント」という言葉を使っています。これは歴史的には概ねオランダ・ベルギー・ルクセンブルクを含む地域を表わしています。また、ユトレヒト同盟の対象となる七州は北ネーデルラント地域にあり、これは現在のオランダにあたるものとして、「オランダ」と表記しました。国王の追放令によって独立に至るオランダは、ネーデルラント連邦共和国と表記されることが多いのですが、北ネーデルラント(つまりベルギー、ルクセンブルク)が対象となるため、オランダ連邦共和国と表記しています。
この本はどこから読んでいただいても結構です。どうかお楽しみ下さい。
二〇〇七年四月
長坂寿久