目次
日本語版への監訳者序文
前文
謝辞
序文
略語集
第1部 序論、概説および政策上の結論
第1章 東アジアの奇跡と危機を超えて[深作喜一郎、河合正弘、マイケル・G・プランマー、アレクサンドラ・トルチアック=デュヴァル]
第2部 先進諸国の政策による相互作用とその影響
第2章 マクロ経済の管理と金融的安定——東アジアへの影響[メンジー・D・チン]
第3章 アメリカとEUの貿易政策——東アジアの課題 [ピーター・ドライスデール、クリストファー・フィンドレー]
第4章 日本の構造改革と市場開放——東アジア経済への含意 [木村福成]
第5章 農業政策と貧困削減——インドネシア、ベトナムの経験[リチャード・バリチェロ]
第6章 援助の役割——東アジアの経済活力のために [ハディ・ソエサストロ]
第7章 環境政策と持続可能な発展——東アジアへの意義 [デービッド・オコナー]
第3部 東アジアにおける政策の役割
第8章 東アジアの経済統合と協調 [河合正弘]
第9章 東アジアにおける重層的発展プロセス[浦田秀次郎]
——貿易と海外直接投資の相互依存関係
第10章 韓国の経済発展——発展途上経済から新興工業経済へ [スーギル・ヤン(尹秀吉)]
第11章 中国の奇跡——対外要因の役割 [ジャスティン・イーフー・リン(林毅夫)、チューユン・リー(李志贇)]
第12章 高度熟練労働移動と経済発展 [ヨンユート・チャラムウォン]
第4部 開発政策への教訓
第13章 CLMV諸国への教訓——世界・地域市場への統合[シオユエ・チア(謝秀●【金へんに玉】)]
第14章 南アジアへの教訓——東アジアの経験を超えて [ムスタフィズー・ラーマン]
第15章 中央アジアへの教訓——中央計画経済から市場経済ヘ[リチャード・ポンフレット]
第16章 ラテンアメリカへの教訓——援助と経済発展 [バーバラ・ストーリングス]
監訳者あとがき
執筆者紹介
編著者・監訳者・翻訳者紹介
前書きなど
日本語版への監訳者序文
本書は“Policy Coherence Towards East Asia: Development Challenges for OECD Countries”(Development Centre, OECD)の日本語版である。原著書は、経済協力開発機構(OECD)と財務省財務総合政策研究所(財務総研)の共同研究プロジェクトの成果刊行物である。それは東アジアにおける経済発展に対して日本を始めとするOECD諸国の諸政策(貿易、投資、農業、金融、労働移動、開発援助、マクロ経済管理、地域協力などに関わるもの)がどのような役割を果たしたのかを分析し、そこから他の発展途上地域への教訓を得ることをめざしたものである。
本書のタイトルにある「政策の一貫性」(policy coherence)とは、広義には「ある目的をもつ政策の効果がそれと異なる目的をもつ他の政策の効果と互いに矛盾しないこと」と定義される。開発援助の分野においては、これは「開発のための政策一貫性」(policy coherence for development)と呼ばれ、発展途上国に影響を与えるすべての政策——先進諸国や国際機関の政策、国際ルールを含む——が当該国の経済発展・貧困削減に対して貢献しているか、少なくとも悪影響を与えていない状態を指す。より具体的には、それは、先進諸国、国際機関、発展途上国などのさまざまな主体による諸政策・制度の枠組みが、途上国の経済発展・貧困削減という政策目標を達成する上で、相互に首尾一貫していることを意味する。「開発のための政策一貫性」は4つのレベル——1特定の先進諸国の政府開発援助(ODA)政策内部での整合性、2特定の先進諸国内におけるODA政策とそれ以外の諸政策の間の整合性、3複数の先進諸国の諸政策の間での整合性、4先進諸国と途上国の諸政策の間での整合性——で捉えることができる。この中で、近年とりわけ重視されているのは2であり、それぞれの先進諸国内部において、発展途上国の経済発展・貧困削減に影響を及ぼし得るODA政策とそれ以外の諸政策の政策体系全体の間にいかに整合性を確保すべきかという課題である。こうした観点から、1990年代以降、ODA政策の効果発現をめざすべく「開発のための政策一貫性」の重要性についての認識が高まってきた。特に、先進諸国間の政策協議の場であるOECDにおける取り組みが最も進んでいる。たとえば、開発援助委員会(DAC)の対援助国審査会合では、それまで不定期に行われていた「政策一の貫性」の観点からの評価が、2000年以降恒常的な審査項目として追加されている。また、ミレニアム開発目標(MDGs)においては、開発のためのグローバル・パートナーシップの推進を目標とする第8ゴールに関連して「政策一の貫性」の重要性が強調されている。
先進諸国の諸政策が発展途上国にどのような効果を及ぼすのかを判断するためには、定量的な政策効果の分析や、具体的な国別・地域別の分析に基づく必要がある。こうした認識の下に、OECD事務局官房・政策一貫性担当のアレクサンドラ・トルチアック=デュヴァル氏(原著編著者の1人)から監訳者の1人(河合正弘)に対して東アジアに関する共同研究プロジェクトの可能性について打診があり、その結果OECDと財務総研の共同研究プロジェクトが2003年11月−2005年3月の期間にわたって始められることになった。この共同研究プロジェクトの事務局はOECD開発センター内に設置され、監訳者の1人(深作喜一郎)が担当することになった。さらに、学会・有識者の代表としてジョンズホプキンス大学ボローニャ・センター(イタリア)のマイケル・G・プランマー教授の参加を求めた。こうして4人の原著編著者が中心になって具体的な作業計画を作成し、本プロジェクトが開始された。原著書は、2004年4月の中間報告会と同年6月の専門家会合に提出された20を超える報告書やコメントに基づいてまとめられたものである。
2006年3月
河合 正弘
深作喜一郎