目次
序文 先住少数民族について
北米先住民について
第1部 米国
解説
〈北東部〉
1 ペノブスコットとパサマコディ ◇土地の回復を求めて(澤田俊明)
2 イロクォイ ◇闘い続ける森の民(馬場優子)
〈南東部〉
3 チェロキー ◇混血と強制移住が生み出した多様性(佐藤 円)
4 セミノールとミコスーキ ◇経済発展がもたらす光と影(佐藤 円)
5 チカソー ◇自決への道の模索(岩さき(たつざき)佳孝)
〈大平原〉
6 ラコタ・スー ◇七世代目の民族再生へ向けて(阿部珠理)
7 シャイアン ◇経済開発と文化継承の間で(内田綾子)
〈大盆地〉
8 ショショニ ◇砂漠に生きる民(斎藤省三)
〈南西部〉
9 プエブロ ◇文化継承のための戦略と課題(水野由美子)
10 ナバホ ◇母なる大地に生きるディネェ(ぬくみ ちほ)
11 ホピ ◇精緻な宇宙論体系を持つ部族(北沢方邦)
第2部 カナダ・極北
解説
〈極北〉
12 グリーンランド、カナダ、アラスカ、シベリアのイヌイト ◇ツンドラの世界(スチュアート ヘンリ)
13 イヌビアルイト ◇ホッキョクセミクジラを捕獲(岩崎・グッドマン・まさみ)
14 グイッチン ◇現代のアメリカ社会を生きる狩猟民(井上敏昭)
15 アリュート ◇北方の海洋民(スチュアート ヘンリ)
16 ケベック州のクリーとイヌイト ◇狩猟採集民社会の再生と変容(岸上伸啓)
〈北西沿岸〉
17 トリンギット ◇過去と現在(益子待也)
18 ニスガーとシーシェルト ◇自治権を持つ北西沿岸の先住民(山田 亨)
19 クワクワカワクゥ ◇伝統と近代を生きる人びと(立川陽仁)
〈カナダ〉
20 メイティ ◇カナダの混血先住民(木村和男)
監修者あとがき
索引
編者・執筆者紹介
前書きなど
刊行にあたって
一九九一年のソ連邦の崩壊により、米ソの冷戦構造は終焉を迎え、折から目覚しい発展を遂げてきたIT(情報技術)の時代が、政治的平和とともに華やかに幕開けしたかにみえた。
しかし他方で、地球の自然、人間の環境は恐るべき勢いで荒廃してきている。空気や水の汚染、地球温暖化による氷河・氷山の溶解と海面水位の上昇、森林の破壊による砂漠化の広がり、エネルギー資源の枯渇、人口の増大と食糧不足、そして貴重な動植物の種の絶滅、狂牛病の発生、HIVやSARSのような新型ウイルスの出現も、人類による自然の秩序破壊と無関係ではないと思われる。
こうした人類文化の変化・発展と地球環境の荒廃の中で、そのマイナス面のしわ寄せを最も苛酷に蒙っているのが一般的に当該国民国家の中で少数民族と呼ばれている人びと、なかでも先住少数民族と呼ばれる多くの孤立的集団であろう。
先住少数民族が他の少数民族ともっとも異なっている点は、彼らが自らの自由な意思や合意の確認がないままに当該国家に組み込まれた人びとだということである。したがって、先住少数民族の場合、「民族自決権」が留保されていると考えることができる。先住少数民族に民族自決権が残されているということは、彼らには土地権や資源権も留保されているということであり、きわめて重要な属性であるといわねばならない。国家が各自の主権と国境を不可侵のものとし、他方で、多くの国家がいくつかの政治・経済連合へと向かう動きを示しつつある現代世界で、先住少数民族の問題は、基本的人権思想をもちだすまでもなく、人類史に残されてきた深刻な未解決の課題であろう。
本講座は、このような21世紀初頭における先住少数民族の状況を、国連の議決から10年を経た今再確認し、より多くの人びとにその情報を届け、少しでも早く、先住少数民族の社会、経済、文化的状況を、彼らの主体性において改善していく上での一助になることを願って企画されたものである。
IT革命、グローバル化が加速度的に進む現在、貴重な文化を育てて来たこれらの人びとの苦難を救っていくことこそ人類の最も緊急な責務ではなかろうか。(序文より抜粋)