目次
第1部 本書の意義と既往研究の潮流
第1章 本書の意義(石川義孝)
第2章 人口移動と人口移動研究 —人口流動史編纂に向けての序論—(ロナルド・スケルドン)
第2部 国内人口移動
第3章 高齢者の移動に関する主要な理論的見解(カオ・リー・リャウ)
第4章 オーストラリア、アデレード都市圏における人口移動の距離と方向 —「場の効果」概念を用いた分析—(田中和子)
第5章 タイにおける人口移動と人口動態の相互関連(高橋眞一)
第6章 バンコクおよびその近郊地域における近年の人口変化 —郊外化・工業立地分散・人口女性化—(中川聡史)
第7章 中国の省間人口移動の諸特性 —1990年センサスをもとに—(石原 潤)
第8章 20世紀後半におけるカナダの人口移動の概観(山田 誠)
第3部 国際人口移動
第9章 マクロ・ミクロ二つのレベルでみたトルコの人口移動(金坂清則)
第10章 ネパールからの国際労働移動 —新しいパターンと動向—(ビム・プラサド・スベディ)
第11章 マレーシア・サラワク州をめぐる国際労働移動(祖田亮次)
第12章 日本の国際人口移動の転換点(石川義孝)
第13章 アメリカ合衆国におけるアジア系移民の動向 —新移民法(1965)以後のハワイ州を事例に—(久武哲也)
あとがき(石川義孝)
索引
前書きなど
あとがき 本書は、平成12−14(2000−2002)年度にわたる日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(A)「アジア太平洋地域における人口移動変化の総合的研究」(代表者:石川義孝、課題番号:12308002)の研究成果報告書に掲載した論文を修正して採録したものである。分担者の寄稿論文のほかに、この科研で実施した、あるいは実施予定であった3名の外国人研究者による講演の原稿を訳出した論文も本書に採録している。 (中略) さて、この科研費プロジェクトは、私にとって大きな転機になった。具体的に述べると、1990年代まで私は主に、日本や先進諸外国の国内人口移動に関する研究を行ってきた。この科研が採択されたことを契機に、国際移動、とくにアジア太平洋地域における国際移動にも眼を向けることになった。それまで国境の内部におけるヒトの移動に関心を注いできた人間として、国境を越えた移動の研究は従来の研究のアナロジーでなんとかなるのではないか、といった甘い考えを当初は漠然と持っていたが、これは大きなまちがいであることにすぐに気づいた。言うまでもなく、国際移動と国内移動の違いは、基本的に国境を越えるか否か、という差異でしかない。しかし、国境を越えるヒトの流れには、国内移動にない多様さや複雑さ、ならびに、それに起因する研究上の難しさもある。その点に関しては、本書第1章で詳しく述べたし、第2章のスケルドン論文では、国内移動研究と国際移動研究がこれまでかなり異なる道を歩んできた経緯やその背景に関し、要点を尽くした説明がなされている。国際人口移動に足を踏み出した直後の私の率直な感想は、国内移動と国際移動では研究の雰囲気がずいぶん異なっている、というものであった。 一方、アジア太平洋地域という枠を本研究で採用したのは、当初、これが日本からみてトランスナショナルな現象を扱うさいの有力な視座であると考えたためである。しかし、この地域はあまりに広大であり、その中で展開しているヒトの移動について知れば知るほど、その内容がきわめて多岐にわたっていることを認識せざるをえず、いかにこの地域の人口移動についてまとめたらいいのか当惑するばかりであった。本科研によって6回の集会と2回の講演会を開催したが、そのたびに、この地域の人口移動を総括する難しさを次第に強く感じることになった。アジア太平洋という地域名を冠した先行文献では、国際移動の送出国・受入国の政策や国際移動者による母国への送金に焦点をあてるなど、具体的な研究課題を絞ったものも見られるが、このような関心の限定も一つの方向としてありうるであろう。しかし、本書では結局こうした方向は取らず、分担者のこれまでの研究経験を踏まえた、移動関連のテーマを自由に取り上げていただくことにした。これは編者である私の力量不足による部分も大きいが、このようなやり方の積極的な意義を主張することもまた可能である。この点をめぐっては第1章で詳述しているので、ここで再言することは避けたい。ただ、ここで強調しておきたいのは、アジア太平洋が今日では人気のある地域的枠組みであるにもかかわらず、こと人口移動というテーマに限って言えば、内外の既往研究を入念に参照し、その到達点と問題点を整理して、独自の研究を追求するという姿勢が従来必ずしも強くなかった、という点である。 こうした思いから、編者として日本人の寄稿者に、既往文献の丹念なレビューを踏まえ、独自性を念頭に置いた執筆をお願いしたし、外国人研究者の和訳論文も含め、採録した個別論文の具体的意義に第1章で言及することにした。かかる意図が成功しているかどうかに関しては、読者諸賢の率直な評価を待ちたい。ともあれ今は、この科研プロジェクトがスタートした時点から考えていた編著の刊行をともかく実現でき、安堵している。(後略)