目次
まえがき
第一章 戦争正当化論
一 戦争正当化論とは
1 内 容
2 意 図(戦争から利益を得る人々がいる)
3 戦争と人権
二 戦争正当化論の類型
1 ラパポートの分類
2 運命論
3 政策論
三 S・ハンチントンの「文明の衝突」について
1 内 容
2 意 図
3 戦争正当化論として
4 「文明の衝突」概念の問題点
5 「世界史の哲学」とのアナロジー
6 運命論を超えて
第二章 日本における戦争正当化論成立の前提
はじめに
一 『心のノート』作成の背景
1 経 過
2 『心のノート』の位置
3 国家と資本の論理の貫徹
二 『心のノート』の特徴(「中学生向け」にそって)
1 教育カリキュラムの道徳化
2 「畏敬の情操」の強調
3 集団優先主義
4 “自発性”
5 「こころ主義」
6 プロセスの無視
三 「愛国心」強制史(戦前まで)
1 「調 和」
2 「宗教的情操」
四 「愛国心」強制史(戦後より)
1 経 過
2 安藤社会科
3 「期待される人間像」(一九六五年「中央教育審議会」草案、翌年に「答申」)
4 「教育課程審議会答申」(一九八七年)
5 「中学校学習指導要領」(「昭和四三年度」)
6 「中学校学習指導要領」(「平成元年度」)
7 「臨時教育審議会答申」(一九八六年)
五 「愛国心」を“教育”することの欺瞞性
1 「愛国心」の強要は教育の場になじまない
2 過ちをくりかえさない
3 心理学の国家動員を拒否する
注 釈
第三章 再び「“くに”という宗教教団」
一 国 体
1 国体の創出
2 国体の特徴
3 国体の強制
二 国体の中核(国家神道)
1 定義と教義(教典)
2 本 尊
3 布教施設
三 国体の中核の中核(靖国)
1 教 義
2 本 尊
3 布教施設
4 その特徴
四 靖国からの解放
1 靖国を知る
2 美辞麗句に騙されない
第四章 人権侵害について
一 人権侵害の本質
1 人が「モノ」になる
2 キーワード「安全」「尊厳」「自由」
3 人権侵害の構成
4 人権侵害の定義
5 人権侵害正当化論
二 人権侵害の性格
1 継続する
2 永続する
3 連鎖する
4 被害者へ責任が転嫁される
5 自己評価の歪みをもたらす
三 人権を護るために
1 歴史を知る
2 国という枠を超える
3 自分を過大評価しない
4 靖国からの解放
【付 録】『日本国憲法』(抄)
『教育基本法』
あとがき
前書きなど
前著『人権理解の視座—自立と自律を求めて—』(明石書店 二〇〇二年)の意図は、差別や戦争の分析を通じて、日本における人権侵害の方法が、人間の自立と自律、そして自立した人間の連帯である自治の破壊であることを明らかにすることでした。そして、その作業のキーワードは「宗教」でした。今回は、主として戦争の問題をとりあげたいと思います。 やや詳しく言えば、戦争においては国家神道がその中核を形成しているということ、すなわち、天皇を頂点とする日本という“くに”自体が一つの巨大な宗教教団であるということが、戦争遂行体制をより容易にまた強固にすることにつながっていたということです。権力は、人間の自立を破壊し、みずから考えることを放棄させることによって人権侵害を可能にしたということです。そしてその思考放棄において、宗教が大きな役割を果たしたわけです。 最大の人権侵害は戦争、なかんずく、侵略戦争です。人権侵害とは人間を破壊する行為なのですが、戦争は命を破壊する究極の人権侵害です。侵略され殺される側はもちろん、侵略する側、すなわち殺す側にとってもそれは悲劇というほかありません。誰しも殺され殺すことを望んではいないのに、なぜこの人権侵害が繰り返されるのでしょうか。無論、戦争を望む人たちはいます。でもその人たちは少数です。しかし、少数の人だけで戦争はできません。だからして、「殺す」という人権侵害を大量に組織的に行うには、「人権侵害を望んでいない人」を「人権侵害を望む人」に大規模に変質させることが要求されます。そこに戦争正当化論(JUST WAR THEORY)が生まれる必然性があります。そして戦争が最大の人権侵害であるならば、戦争正当化論こそは最大の人権破壊思想というべきでしょう。 現在、人権をめぐる状況は予断を許しません。二〇〇三年五月一五日に、「有事法制」案が衆議院を通過しました。さらに、その動きと表裏一体のものとして、そこに至る重要な道程としての、「新しい教科書」や「国旗・国家法」、あるいは森首相の「日本は天皇を中心とした神の国」発言(二〇〇〇年五月一五日)、さらに二〇〇二年八月一三日の小泉首相の靖国神社公式参拝の問題なども看過できない問題です。 そして第二次「湾岸戦争(イラク戦争)」。石油利権をめぐる大国アメリカのエゴイズムが指摘されましたが、そこには、今後世界をアメリカンスタンダードで支配しようとするアメリカの国際戦略が見え隠れしています。そして、国際世論の強い非難を浴びながら強行されたこの戦争に、日本は全面的に賛成・協力しました。現在、日本のみならず、世界中で、戦争をめぐるさまざまの動きが活発化しています。「戦争こそが最大の人権侵害である」という立場を、いまこそ主張すべきときでしょう。 こういった新たな状況を視野に入れ、本書では「現代の戦争正当化論」を中心にして、ふたたび人権の問題に切り込んでいきたいと思います。(後略)