目次
特集 女性と労働
「男女雇用機会均等法」から「男女共同参画社会基本法」まで——「ケアレス・マン」モデルを超えて(久場嬉子)
1 問題の所在
2 「新しい労働基準」とはなにか—OECD専門家レポートの問題提起
3 日本の現状—女性と男性の働き方をめぐって
4 総合的、戦略的政策の展開のために
ディーセント・ワーク(堀内光子)
1 グローバル化と社会問題
2 ディーセント・ワークとジェンダー
3 グローバル化と女性雇用
4 ディーセント・ワークの達成に向けて
5 ジェンダーの主流化
変容する労働法に必要なジェンダー視点(浅倉むつ子)
1 はじめに
2 労働法の「男性中心主義」とその「ゆらぎ」
3 最近の労働政策・労働立法の動向
4 ジェンダーの主流化を政策の基本に
「男性稼ぎ主」型から脱却できるか——年金制度・税制(大沢真理)
1 はじめに
2 社会政策システムの「型」
3 転換の萌芽から小泉改革へ
4 「型」の転換の意味
日本の男女賃金差別と同一価値労働同一賃金原則(木下武男)
1 日本における男女賃金差別の構造
2 年功賃金の性別差別
3 賃金決定基準と同一価値労働同一賃金原則
4 日本における「同一価値労働同一賃金」原則の活用と賃金差別是正運動
労働市場における男女の公平性を検討する(村尾祐美子)
1 労働市場と社会的資源
2 「仕事に対する統制力」
3 仕事の場における事柄決定力の規定要因とジェンダー
4 労働市場における男女公平を目指して—今後の課題
ポジティブ・アクション——女性の積極的「活用」は何をもたらすか(木本喜美子)
1 男女雇用機会均等法とポジティブ・アクション
2 日本的雇用慣用と女性労働
3 固定的なジェンダー間職務分離
4 ポジティブ・アクションの効用
5 今後の課題
パートタイム労働という働き方(田中裕美子)
1 はじめに
2 パートタイム労働者の現状
3 パートタイム労働の問題点
4 正社員との均等待遇
5 家族的責任とパートタイム労働
6 オランダのパートタイム労働
7 スウェーデンのパートタイム労働
8 パートタイム労働とジェンダー
「就業形態の多様化」が意味するもの(大森真紀)
1 女性に偏る非正規雇用
2 派遣労働における性別分離
3 契約社員と出向社員
4 在宅就業と請負
5 「多様な就業形態」の共通性
6 正規雇用の「拘束性」
女性の雇用機会の拡大は少子化をもたらすのか——新しい家族観とこれを支える雇用制度へと変革を求める(永瀬伸子)
1 現代日本の出生見通し
2 戦後の出生率の変化
3 近年の結婚行動の変化は何によってもたらされたのか?
4 仕事と家庭 雇用制度と価値観
5 新しい家族像と新しい共生社会の構築
6 子どもが育まれる社会
少子化の現状と次世代育成支援対策について(厚生労働省)
1 少子化の現状
2 少子化の要因と対応
3 少子化問題への対応の変遷
4 次世代育成支援に関する当面の取組方針
5 次世代育成支援対策推進法
6 児童福祉法の改正
7 行動計画策定指針
8 行動計画の策定に当たって
次世代育成支援における企業の役割(武石恵美子)
1 限定的な「少子化対策」の効果
2 国際比較にみる日本の特徴と課題
3 企業の役割への期待
4 企業にとっての次世代育成支援の意義
5 男性の子育て参加の促進
6 多様性尊重と次世代育成支援
7 おわりに
職場におけるセクシュアル・ハラスメント——その実態と課題点(林 弘子)
1 はじめに
2 コミュニケーション・ギャップからセクシュアル・ハラスメントへ
3 事業主のセクシュアル・ハラスメント防止配慮義務
4 増え続けるセクシュアル・ハラスメント相談
5 セクシュアル・ハラスメント裁判
6 国家公務員
7 大学—キャンパス・セクシュアル・ハラスメント
8 むすび
企業を対象とした男女共同参画センターの取り組み(神崎智子)
1 男女協働のための北九州企業懇話会
2 男女協働実践企業表彰
3 男女協働のための研修事業
4 企業家精神を持ったアプローチ
前書きなど
刊行にあたって 新聞・雑誌やTVなどのメディアで「ジェンダー」という言葉を耳にすることが多くなりました。一九九五年に北京で開催された第四回世界女性会議以降、日本でもこの言葉は定着してきています。しかし、私たちは「ジェンダー」について本当に理解しているのでしょうか。 ジェンダーとは社会的・文化的に形成された性別で、生物学的・解剖学的な性別であるセックスと区別して用いられる概念です。これまで私たちは、日常生活の中で、男は仕事、女は家事・育児という役割分担を「あたりまえ」のように感じ、ジェンダーに起因する男女格差に気づきにくい状況にありました。こうした問題に目を向け、ジェンダーに縛られず、各人の個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会を実現するためには「ジェンダー」について深く考え理解を深める必要があると思います。 私たちは、「ジェンダー」について、今話題になっていることについてその論点は何か明示してくれる本がほしいと考え、このムーブ叢書『ジェンダー白書』をシリーズで刊行することにしました。 第二回配本のジェンダー白書2の特集テーマは「女性と労働」です。 女性の社会進出が進む今日、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法など、男女が共に働く法環境の整備は進んできました。しかし、依然として、「男はこうあるべきだ」「女はこうあるべきだ」といったジェンダーによる役割分担意識は根強く、職場における男女の賃金格差、昇進差別、セクシュアル・ハラスメントなど、問題は山積しています。また、ワークシェアリングやディーセント・ワークといった新たな論点も浮かび上がってきました。さらに、一見平等に見える労働法制においても、そのモデルとなるのは男性労働者であり、女性の視点が欠けているという指摘もなされています。本書はこれら「女性と労働」に関するあらゆる問題を専門家の立場から分かりやすく解説したものです。 本書が女性センター・男女共同参画センターや地方自治体で、女性行政に携わる皆様のみならず、ジェンダーについて学んでいる学生や研究者の方たちに幅広く活用いただき、男女共同参画社会実現に向けての一助となることを願っています。 最後に本書作成に当たり、ご協力いただきました関係各位の皆様に心より感謝し、お礼申し上げます。北九州市立男女共同参画センター“ムーブ”所長 三隅 佳子