目次
日本語版への序文
要旨
謝辞
インタビューに応じていただけた人々
第1部 序論
第1章 私たちぬきで私たちのことは何も決めるな
第2部 障害をもつ人に対する抑圧と日常生活
第2章 障害をもつ人に対する抑圧の範囲——概観
第3章 政治経済学と世界システム
第4章 (各種の)文化と信条体系
第5章 意識と疎外
第6章 日常生活の観察
第3部 エンパワメントと組織
第7章 権利に目覚めた意識とエンパワメントの哲学
第8章 エンパワメントの組織
第4部 結論
第9章 抑圧とエンパワメントの弁証法
原注
文献一覧
監訳者あとがき
索引(人名/組織名/事項)
前書きなど
本書は、James I. Charlton, Nothing About Us Without Us: Disability Oppression and Empowerment, Berkeley/Los Angeles/London, University of California Press, 1998の全訳である。 著者のジェームズ・I・チャールトン氏は、日本でも、障害をもつ人の権利のための活動家の間では周知の人物であるが、いまだ氏の著作などについて本格的に紹介されておらず、一般には馴染みが薄いかもしれない。氏は、シカゴ大学を社会理論専攻で卒業後、一九八五年からシカゴ市のアクセス・リビングで活動され、現在までに、企画部長、副代表、代表代理を歴任しておられる。障害をもつ人の権利や自立生活に関する研究で、一九九二・一九九三年シカゴ・コミュニティ・トラスト・フェローなどの数々の奨学金や賞を受け、全米中で知られているリーダーのひとりである。主たる活動は、『ザ・シカゴ・リーダー』『ディスアビリティ・ラグ』『ザ・シカゴ・リテラリー・クォータリー』に多くの論文を寄稿されるなどの著作活動と、幅広い講演活動である。私(岡部)自身は、氏にお会いしたことはなく、本書の翻訳に際して、メールのやりとりを数回行ったにすぎない。しかし、質問などに対する迅速かつ的確な回答や、端々に見られる非常に鋭い視点や分析から察するに、相当の博識であり、かつ誠実な人柄を感じている。また本書で、数多くの生きた経験を実証的に分析するという複雑かつ煩雑な作業を長年にわたり地道にこなされ、しかもそうした経験に感情移入しすぎることなく冷静に説得力の高い論理を展開し、かつ各々のテーマに確固たる信念を持って自己の理論を主張されておられることからも、クールな頭脳と強靭な精神力の持ち主であることがうかがえる。 本書は、一九九八年一二月に発行されたチャールトン氏の最も新しい著作であり、二〇〇三年現在、三刷まで発行され、アメリカ合衆国内外で広く読まれている。本書の手法のユニークな点は、氏自ら、本書を「論争の書」と位置づけ、あえて断定的に自説を展開し、同時にその他の主張や既存の各種システムに大胆な反論を加えていることである。このような手法を採れば、もちろん各方面からの激しい反論が予想されるところである。しかし、氏には、多少の戦略的意図があったように思われる。すなわち、第一に、障害問題に関連する様々な分野や方面に対して広く問題を提起し、障害をもつ人に対していまだ存在する旧式の思考や、それに基づいた各種システムについて強制的に意識させることである。第二に、障害をもつ人たちに対しても、彼らの現在の依存状態や諦観などを攻め立て、いままさに自分たちが何を考え行動しなければならないのか、ということを厳しく自問するよう迫ることである。第三に、様々な種類の障害者権利獲得運動に対して、その本質的な役割とは何か、ということを提案することである。要するに、本書に対する批判や攻撃こそ、むしろ氏の望むところであり、様々な反応を広く呼び起こすことで、社会変革を推し進めようと考えたものと思われる。(略)監訳者あとがき