目次
序言と謝辞
第一章 美徳
朝鮮民族の起源/三国の時代/新羅支配化の朝鮮/王権の統一—高麗王朝/朝鮮時代—開花の時代/高麗社会の転換/家族、社会的流動性、教育/太陽の下の朝鮮/英祖と思悼/朝鮮時代—衰退/商業の発酵/結論
第二章 利益 一八六〇—一九〇四
隠者の王国/流産した開国ともう一つの道/中興、改革、革命/東学運動という名の改革/近代朝鮮の誕生/「言いようのない単調さ」—西洋人の見た朝鮮/結論
第三章 「蝕」 一九〇五—一九四五
朝鮮王朝の終焉/植民地行政—近代化か搾取か/朝鮮民族主義と共産主義の興隆/開発殖民地主義/植民地の圧力なべ
第四章 熱情 一九四五—一九四八
朝鮮分断/「数百人もの保守主義者」—初期の同盟/南朝鮮の左翼と右翼/大韓民国の発足/済州島と麗水の反乱/北朝鮮/警察と諜報機関/結論
第五章 衝突 一九四八—一九五三
北朝鮮と中国/韓国におけるゲリラ戦/一九四九年の三八度線付近での戦闘/開戦前夜/甕津での衝突事件/ソウルから釜山へ、そして仁川へ—封じ込め戦争/釜山への進撃/巻き返し戦争/南が北を占領する/中国の参戦/ワシントンにおけるパニック/結論
第六章 韓国の日の出—産業化 一九五三—現在
気前のいいアンクル・サム/漢江の奇跡/金融の構造—ソウルの子鬼たち/日本との国交正常化とヴェトナム戦争/大進撃/大財閥/危機と改革/ハン氏の奇跡/奇跡はなかった/家族主義は道徳と無関係だ/結論
第七章 美徳II—民主化運動 一九六〇—現在
四月革命/軍部の支配/維新体制/一九七〇年代のKCIA/労働運動/光州/反米と反韓/六月の突破口/独裁から民主主義へ/結論
第八章 太陽王の国—北朝鮮 一九五三—現在
「偉大な太陽」—北朝鮮のコーポラティズム/金正日の権力継承/北朝鮮の経済/農場の生活/落ちた太陽王/結論
第九章 アメリカの朝鮮人
第一〇章 世界のなかの朝鮮
不可侵の境界線/寧辺のミステリー/一触即発の危機から緊張の緩和へ/朝鮮におけるアメリカ核政策の背景/緊張緩和に向かって/太陽政策/朝鮮の統一は?/結論
訳者あとがき/参校文献/索引
前書きなど
本書は、ブルース・カミングスの著書Korea's Place in the Sun: A Modern History (Norton, 1997)の翻訳である。カミングスは一九四三年生まれ。コロンビア大学で政治学を学び、シアトルのワシントン大学国際関係学部を経て八七年からシカゴ大学歴史学部教授を務めている。一九六七年から六八年にかけて、徴兵を忌避して平和部隊に参加し、韓国で英語教師として働いた。それ以来、朝鮮現代史に関心を持ち、その研究を精力的に進めてきた。特に広範かつ豊富な資料に立脚しつつ、隣接諸科学の蓄積をもとり入れた視点から行われた、大著『朝鮮戦争の起源』二巻(The Origins of the Korean War, 2vols. Princeton University Press, 1981, 1990)における鋭い分析は、この分野の研究に圧倒的な影響を与えた。カミングスは、冷戦史研究の文脈ではいわゆる修正主義派に属するとされ、アメリカのアジア政策の鋭い批判で知られているが、今は、その見解の如何を問わず、彼の研究を抜きにしては朝鮮現代史を語ることはできない状態になっている。ただ、日本では、『朝鮮戦争の起源』第一巻が翻訳されたのみであるから、彼のまとまった著書が日本語に訳されるのは、おそらく今回が最初だろう。彼はまた、ヴェトナム戦争批判をきっかけにつくられた「憂慮するアジア研究者の委員会」のメンバーとして活躍したが、今また、朝鮮半島の危機に当たり、「憂慮する朝鮮研究者の会」をつくって、多くのアメリカの朝鮮研究者とともに朝鮮問題の平和的解決のために積極的に活躍している。 本書は、これまで現代朝鮮に関する様々な問題を扱ってきたブルース・カミングスが、初めて書いた総合的な朝鮮現代史である。叙述の中心を近現代史に置いてはいるが、近代以前の朝鮮の歴史が長い序章として扱われているので、これを通じて朝鮮史全体への接近を試みることも可能である。「日の当たる場所に位置を占めた朝鮮」とでも訳すことができる、原書の表題も変わっている。著者が序言で述べているように、著者からこの題名を聞いたシカゴ大学のボイヤー学部長は「ビスマルクみたいだね」と言って笑ったという。ドイツ・オーストリア史の専門家だけに、小邦分立状態を克服して統一ドイツ帝国をつくりあげ、やがて世界における列強の一員となった近代ドイツの歴史が思わず脳裏に浮かんだのかも知れない。カミングスはかつての「隠者の王国」から今や「太陽系」としての「産業時代の世界」の一員となった朝鮮の歴史を書こうとしたのである。だが、彼によれば、これは単なる朝鮮のサクセスストーリーではない。それはむしろ、古い朝鮮の滅亡と、それに続く日本の植民地支配、民族分断と破滅的な戦争といった受難の歴史だった。朝鮮戦争以後、韓国は経済的に成功し、現在では、ある程度の民主政治がおこなわれている。戦後、北朝鮮もまた急速に発展したが、やがて停滞の局面に入り、その政治・経済体制は今や崩壊の瀬戸際にあるとさえ言われている。分断体制を克服して統一にいたる道はまだはっきりと見えておらず、全体としての朝鮮は可能性としてあるにすぎない。本書は、この可能性を視野において構成されているように思われる。(後略)訳者あとがき