前書きなど
外国のことを学ぶときに初学者が一番困るのは、その国の人たちにはなんでもないことなのに、それがこちらには全く分からないということである。ことに中国の場合、漢字の故につい分かった気になって、実は理解していない場合が多い。本書の中の「加油站」が農村図書室の別称(佐々木さんは、一過性の言葉かも、と言われるが)というのはその一例である。「書票」は日本では蔵書票だが、中国には別の意味がある。「人等書」の「早く資料を整理せよ」という意味を、私は本書によってはじめて知った。「旧書館」は、毎年の予算削減に悩む日本の図書館人の共感を呼ぶ言葉である。 流石に漢字を生み、育ててきた国、と感嘆する表現も多い。たとえば「石沈大海」「雪中送炭」など。「五気」や「五多五少」には自戒の意が篭められていて、われわれを省みる鏡ともなる。さらに「現象本質統一説」では、図書館学の研究対象についての学説が解説され、図書館の本質についての考え方を示している。読者はその記述から文献に導かれ、眼前に広い世界が開けるのを実感することだろう。 一言で言えば、本書は中国の図書館について、言葉の解説と共に、その組織や背景、基礎的な考え方、図書館に関わる人の生活感覚などが分かるように編纂されている。単に「引く辞書」だけでなく、「読む辞書」として、さまざまな使い方ができるであろう。嘗て勝俣銑吉郎氏は、その英和活用大辞典新版の序文の中で、この浩瀚な辞典を「読む」ことを勧められた。本書もまた同様な使い方によって、大きな役割を果たすことであろう。本書が多くの人々の机上に置かれ、相互理解の確かな手段となることを心から願う次第である。