紹介
人文科学、自然科学、社会科学など多様な分野のリスクに対峙してきたリスク学は、それぞれの学問分野ごとに独自のリスク概念が取り上げられてきた経緯から、これまで単一の学問体系は存在していなかった。しかし、世界の相互接続性、相互依存性の高まりから異なるリスク同士の結合も例外ではなく、それらを横断的に俯瞰できる試みが求められるようになってきた。
本事典は、中項目事典の体裁をとることで、それらリスク学を構成する各分野の相互連関性を分かりやすく把握できる体裁をとる。また、東日本大震災、リーマンショック、女性や性的マイノリティの社会的排除など、現代的な問題に起因するリスクも大々的に扱った章立てとなっている。
一人ひとりの市民が様々なリスクに直面する現代にあって、その把握し共生していくための必読書である。
目次
<第一部 リスク学の射程>第1章 リスクを取り巻く環境変化リスク学とは何かリスク概念の展開と多様化リスク学の歴史私たちを取り巻くリスク(1):マクロ統計からみるリスク私たちを取り巻くリスク(2):身近に隠れた日常生活リスクリスクを俯瞰する試み複合リスクリスクの固定化と市民化リスク学の社会実装(1):行政編リスク学の社会実装(2):企業編SDGsとESG5つの原発事故調査報告書と被ばく線量の安全基準値世界金融危機の構造と監督当局の対応3つのシステミックリスクからの示唆新たな社会実装の試み(1):水害対策の先進事例新たな社会実装の試み(2):保育園とアスベスト<第二部 リスク学の基本>第2章 リスク評価の手法:リスクを測るリスク評価の目的リスク評価の枠組みリスクの定量化手法社会経済分析データの不確実性と信頼性評価用量-反応関係の評価曝露評価とシミュレーション技法疫学研究のアプローチ生態リスクの評価工学システムのリスク評価定性的リスク評価原子力発電所の確率論的リスク評価ITシステムのリスク評価金融リスクの評価気候変動リスクの評価災害リスクの評価第3章 リスク管理の手法:リスクを最適化するリスクガバナンスの概念と枠組みリスクマネジメント規格ISO31000の枠組み工学システムにおけるリスク管理の国際規格リスク管理の基準とリスク受容基準値の役割とレギュラトリーサイエンスリスク削減対策の多様なアプローチ法律に組み込まれたリスク対応合理的なリスク管理のための行政決定裁判におけるリスクの取扱い予防原則/事前警戒原則予防原則の要件と適用制度化された社会経済分析消費者製品のリスク管理手法リスク比較リスクトレードオフリスクの相互依存と複合化への政策的対応産業保安と事故調査制度化学物質管理の国際規格と国際戦略環境アセスメント医薬品のガバナンスとレギュラトリーサイエンス国際基準と国内基準の調和:放射線のリスクガバナンス日本の危機管理体制企業の危機管理とリスク対策第4章 リスクコミュニケーション:リスクを対話する東日本大震災とリスクコミュニケーションリスクコミュニケーションの社会実装に向けてリスクコミュニケーション不確実性下における意思決定リスク認知とヒューリスティックリスク認知とバイアス (1): 知識と欠如モデルリスク認知とバイアス(2): 専門家と市民,専門家同士リスクに関する対話とリテラシー科学技術とコミュニケーションリスクガバナンスにおける対話の発展情報公開とリスク管理への参加対話の技法:ファシリテーションテクニックリスクの可視化と対話の共通言語手続き的公正を満たす合意形成にむけたプロセスデザイン対話とマスメディア対話とソーシャルメディア第5章 リスクファイナンス:リスクを移転するリスクファイナンスと残余リスク統合リスク管理と部門別資本配賦事業継続マネジメントリアルオプション巨大地震と再保険制度CATボンド環境リスクファイナンス<第三部 リスク学を構成する専門分野>第6章 環境と健康のリスク環境と健康労働環境放射線の健康リスク放射線利用のリスク管理電磁波のリスク大気環境室内環境における健康リスク喫煙上下水道・水環境の健康リスク土壌汚染の健康リスク重金属の健康リスク農薬の環境・健康リスク工業化学物質のリスク規制 (1): 歴史と国内動向工業化学物質のリスク規制(2): 海外の動向化学物質の安全学の考え方と過去の事例からの教訓新たな感染症のリスクワクチンと公衆衛生環境問題と健康リスク化学物質による生態リスク循環型社会におけるリスク制御第7章 社会インフラのリスク重要インフラストラクチャ―のリスクとレジリエンス工学システムと安全目標インフラの老朽化リスクプラント保守におけるリスクベースメンテナンス航空安全におけるリスク管理海上交通におけるリスクエネルギーシステムとセキュリティ社会インフラとしての原子力発電システムのリスクサプライチェーン途絶のリスク災害の経済被害ITリスク学宇宙開発利用をめぐるリスク安全保障(セキュリティ)リスク核のリスク第8章 気候変動と自然災害のリスク大規模広域災害時における国と地域の連携気候変動・自然災害リスクの概念と対策気候変動に対する国際的な取り組み・ガバナンス自然災害に対する国際的な取り組み・ガバナンス気候変動に対する国内の取り組み・ガバナンス自然災害に関する国内の取り組み・ガバナンス気候変動の現状とその要因気候変動によるハザードの変化気候変動による大規模な変化気候変動による生態リスク気候変動による社会・人間系へのリスク気候変動リスクへの対応:ネガティブエミッション技術の持続可能性評価極端気象リスク地震リスク津波リスク火山噴火リスク地盤・斜面リスク自然災害のマルチリスクリスクとレジリエンス残余のリスクと想定外への対応第9章 食品のリスクリスクアナリシス:リスクの概念とリスク低減の包括的枠組み食品安全の国際的対応枠組み主要国の食品安全行政と法化学物質の包括的リスク管理食品中の化学物質のリスク評価微生物の包括的リスク管理微生物学的リスク評価ナノテクノロジーと遺伝子組換えを利用した食品の安全評価と規制措置動物感染症と人獣共通感染症のリスクアナリシス食品現場の衛生管理とリスクベースの行政コントロール食品由来リスク知覚と双方向リスクコミュニケーション食品トレーサビリティとリスク管理緊急事態対応と危機管理食品分野のレギュラトリーサイエンスと専門人材育成食品摂取と健康リスク第10章 共生社会のリスクガバナンス共生社会を取り巻くリスク社会的排除と貧困女性の社会的排除と男女平等参画子どもをもつ家庭の貧困と社会的排除障害者との共生を阻むリスク認知症高齢者の意思決定支援と権利擁護性的マイノリティーの差別定住外国人の社会的排除と多文化共生雇用社会のリスク消費生活のリスク地域社会の崩壊と再生高レベル放射性廃棄物処分:地域と世代を超えるリスクのガバナンスリスクの地域的偏在:沖縄米軍基地被災者と地域の自己決定:東京電力福島第一原子力発電所事故疫学的照明とリスクガバナンス:水俣病事件第11章 金融と保険のリスクリスクの経済学の系譜バブルの歴史とその生成の仕組み金融・保険分野のリスクの概念とリスク管理 価格変動リスクの評価ヘッジと投機信用リスクの評価証券化とそのリスク保険会社の健全性リスクの評価モラル・ハザードと逆選択金融監督の国際基準とガバナンスフィンテックとインシュアテック<第四部 リスク学の今後>第12章 リスク教育と人材育成、国際潮流リスクリテラシー向上のためのリスク教育大学のリスク教育:食品社会人を対象とするリスク教育リスク管理のための人材育成アジアの化学物質管理:規制協力と展望アメリカにおける研究動向国際機関, EUなどの国際的なリスク管理に関する研究動向第13章 新しいリスクの台頭と社会の対応新興リスクの特徴新興リスクのためのガバナンスグローバルリスクへの対応ナショナルリスクアセスメントELSI(倫理的・法的・社会的課題/問題)とは何かプライバシーリスクとプライバシー影響評価リスクの分配的公平性リスクと世代間の衡平性リスク社会学風評被害とは何かバイオ技術のリスク人工知能の普及に伴うリスクのガバナンス再生医療と先端医療の光と影ドローンの登場と社会の環境整備生活支援ロボットと安全性の確保