紹介
「沈黙を強いる問い」「論点のすり替え」「二者択一の力」…議論に仕掛けられた巧妙な罠。
非がないにも関わらず術中に嵌って沈黙せざるを得なかった経験はないか。
護「心」術としての議論術を身につける!
古今東西の文学作品その他から、面白い議論術や詭弁・強弁を集めて分析。読み物としても楽しめる一冊。
「われわれは、言葉によって、自分の精神を、心を護らなくてはなりません。無神経な人間の言葉の暴力に対して、ハリネズミのように武装しましょう。うっかり触ったときには、針で刺す程度の痛みを与え、滅多なことは言わないように思い知らせてやるのです。覚えておいてください。われわれが議論に強くなろうとするのは、人間としての最低限のプライドを保つためです。本書は、そうした「心やさしき」人たちに、言葉で自分の心を守れるだけの議論術を身につけていただくために書かれた本です。」(まえがきより)
目次
まえがき
第一章 議論を制する「問いの技術」
第一話 赤シャツの冷笑……問いの効果
「あなたの仰ゃる通りだと、下宿屋の婆さんの云う事は信ずるが、教頭の云う事は信じないと云う様に聞えるが、そう云う意味に解釈して差支ないでしょうか」
第二話 カンニング学生の開き直り……「問い」の打ち破り方
「他にもやっている人がある。要領よくやっているのが得をして、たまたま見つかったものが損をするのですか」
第三話 北山修の後知恵……論点の摩り替えその1
「ホット・ドッグ一つで寝ることがいけないのなら、数百万もするダイアモンドの結婚指輪をもらって寝ることはイイことなのか」
第四話 西行の選択肢……二者択一の力
「そも、保元の御謀叛は天の神の教へ給ふことわりにも違はじとておぼし立たせ給ふか。又みづからの人慾より計策り給ふか」
第二章 なぜ「問い」は効果的なのか?
第五話 村上春樹の啖呵……相手の答えを封じる問い
「ふん、長ズボンはかなくちゃ食えないような立派な料理なのかよ」
第六話 臼淵大尉の鉄拳……言質を取るための問い
「貴様はどこにおるんだ、今娑婆にいるのか」
第七話 福田恆存の雪隠詰……相手に沈黙を強いる問い
「では、あなたは天皇をあなた方の象徴と考へるか、さういふ風に行動するか」
第三章 相手を操る弁論術
第八話 ナポレオンの恫喝……多問の虚偽と不当予断の問い
「諸君の中で、ジョーンズに帰ってきてほしいなどと願っているものは、ひとりもいないだろう、ええ?」
第九話 丸山眞男の対照法……選択肢の詐術
「私自身の選択についていうならば、大日本帝国の『実在』よりも戦後民主主義の『虚妄』の方に賭ける」
第十話 鳴海仙吉のディレンマ……ディレンマの活用
「もし君がオリジナルなものを書いているなら、君の年齢でそれは自分に分らずにいることができないから、師匠はいらない。もし君が二十三歳になって既成の他人のマナリズムをくりかえしているのなら、 君は師匠を持っても、意味がない」
第四章 「論証」を極める
第十一話 プラトンの不安……論争における「根拠」
「君は気がついていないかね? 現在この問答の技術による哲学的議論には、どれほど大きな害毒がまつわりついているかということに」
第十二話 夏目漱石の摩り替え……論点の摩り替えその2
「じゃ小説を作れば、自然柔道も旨くなるかい」
第十三話 芥川龍之介の「魔術」……相手をはめる
「そこで僕が思うには、この金貨を元手にして、君が僕たちと骨牌をするのだ」
第五章 議論を有利にするテクニック
第十四話 清水幾太郎の喧嘩……《tu quoque》の技術
「あなたは、那須の日本風の旅館で、日本の作法を守ったであろうか」
第十五話 丘浅次郎の後出し……発言の順番
「その後は教育学や教授法の先生方が流行に従つて、ヘルバルト塗りにでも何塗りにでもご随意に上塗りをしてくれたらよい」
第十六話 兼好の嘘……嘘のつき方
「げにげにしく所々うちおぼめき、よく知らぬよしして、さりながら、つまづま合はせて語る虚言は、恐しき事なり」
第十七話 イワン・カラマーゾフの辞退……具体例を限定する
「僕はなにも神を認めないというんじゃないよ、いいかい、アリョーシャ、ただその入場券を神様に謹んでお返しするだけの話さ」
あとがきにかえて ―レトリックに詰め腹を切らせる
文庫のためのあとがき ―論理が効かなくなる「場所」
引用文献