目次
はじめに……4
失敗しない子育て……7
家庭で働く楽しさを教える/愛と信頼に満ちた親子関係を結ぶ/「言い方」に気をつける/子育ての最終目的を確認する/教育は個性を尊重する剪定作業
私の家庭、これでいいの?……27
一方通行の教育は、子どもを育てない/夫婦の不信が子の不安を生む/愛する時、生命力は甦る/信頼と愛が道を拓く/運命を切り替える力/これから、どうしたらいいのか
素顔で生きると、子どもは育つ……57
人を元気にするために、必要不可欠なものは?/小学校高学年が苦しみの始まり!?/愛し合えない家庭は〝仮面の子〟を生む/素顔で生きる時、子どもは育つ/「現実」だけが、人をおとなにする/全世界的な価値観を手渡そう/現実感を回復する工夫/本当の幸せとは何か
発想の転換こそ解決の道……95
問題解決能力は生きる力/揺るぎない判断基準/生活実感が存在の自信につながる/発想の転換こそ生きる力
生きる力を生む価値観……127
「自信が持てない」苦しみ/相対比較が子どもを苦しめている/失敗・挫折は人生の肥やし/本当の自信を得よう/人間の本来的な生活/困難を乗り越える不思議な力
心を健康にする秘訣……157
心の健康とは何か/「いのち」が人を健康にする/安らぎに満ちた生き方がある/生き方を変えると健やかになる/相手を生かす私になれる
苦しみは、人生の大切な鍵……187
この苦しみは、何のため?/惠泉塾の誕生/家庭が、家庭ではなくなっている!?/子どもたちはみんな、人生のことを知りたい/人生の恩人たち/不可能を可能にする力/苦しみで、家族は一つに結ばれる
子どもを立ち直らせるための親の役割……225
柔軟な心で、行き詰まりを打開する/愛することがメインテーマ/惠泉塾が志している社会/愛こそ、生きる力/愛し合う生き方が、人間らしい
参考資料……254
あとがき……262
改訂新版出版にあたり……264
前書きなど
はじめに
現代の日本は、教育現場が荒廃し、混迷に陥っているばかりでなく、子どもの御両親に基礎的な教育力が備わっていない、という根本的で決定的な国民的欠陥が多くの場面で露呈して、私たちを唖然とさせています。彼らを育てたのは私たちの世代ですから、この責任は私たちにあります。
私は高校の教師として二十年以上、生徒を教え、プロテスタントのキリスト教会の牧師として三十年以上、信徒の皆さんを育て、生活共同体の惠泉塾で十七年間、八百人以上の塾生を養ってきました。その中で私は常に、欲望のコントロールをしなさい、隣人の幸せに貢献することが一番大切ですよ、と教えて来たのですが、現代日本の惨状を見れば、それも「焼け石に水」のような、徒労に過ぎない仕事だった、と思えるのです。
今、日本の若者は、アメリカでも東南アジアでもヨーロッパでも引き籠っています。東京大学の大学院に留学して「引き籠り」をテーマに研究する東南アジアの若い婦人が、先日、北海道大学で催された学会に参加する機会を利用して、余市の惠泉塾を見学に訪れました。今や日本は引き籠もりの先進国なのです。最近は韓国でも引き籠る若者がいると聞いていますし、昨年、中国の大連に行った時、大学生の娘が引き籠りになって困っている、と話す政府高官の女性にも会いました。困難を乗り越えられない、生きる活力に乏しい若者が世界中にふえているようです。彼らは現代の厳しい生存競争には堪えられません。苦しむことも恥を被ることも耐え難いので、様々な形で現実逃避します。親はそこから子どもを引き出すことが出来ずに困り果てています。
いじめられて自殺する子のニュースが最近続々と報道されて、「いじめ」が再び社会問題になっています。「いじめ」を撥ね返せない子どもの脆弱な心、「いじめ」が校内に胚胎しているのに気づかない鈍い教師集団、起きてしまった事件を揉み消そうと図る組織の自己保身の体質を見て、本当に嫌気がさします。しかし、悲しい哉、これが現代日本の偽らざる現実なのです。
こうした中で、私たちが営む生活共同体、惠泉塾では、十七年の間、若者の感動的な回復劇が毎年幾つも起こり、私たちを狂喜感涙させて来きました。奇跡とも言える、この惠泉塾の出来事を全国の教育講演会で話した中から、普遍的で本質的と思えるものを選んで文字化し、この一冊にまとめました。私自身、読んでみて、十年も前の講演でありながら、その内容が少しも古びていないことに驚かされています。今、子育てに悩んでおられる父兄の皆さんも、この本に収められている講演の中から解決の糸口を幾つも発見なさるに違いない、と思います。ぜひ、ご一読下さい。子育ての一大転機が皆さんの御家庭に訪れますように、とお祈りしています。
二〇一二年十二月七日
北海道 余市惠泉塾 塾頭 水谷 惠信
あとがき
本書は「手渡そう子どもに生きる力」と題した一連の講演会で話したものを中心に「信仰と教育」にかかわる私の話を集めた講演集です。講演の口調をそのまま文字化していますので臨場感があって、私自身の人間的な特徴まであらわに出て、それなりに面白い本になったと思っています。編集者の米窪博子さんの尽力によるところが大です。この人抜きには、この本は世に送り出されませんでした。有り難いと思います。
先に出された拙著『壊れた私、元気になった』(マナブックス)では、私はひたすら黒子になって裏に回り、元気になっていった若者を表舞台に出して語ったつもりです。しかし、この本では私が表に出て、自分の考えを述べています。自分の人生についても割合大胆に語っています。読者や聴衆のみなさんは、著者の個人的な体験を聞きたくて、しばしば質問なさいます。「こんな仕事をしている水谷という人は、いったいどんな人なんだろう」と、興味をもたれるのです。この本は、そうした方々の求めに、ある程度応えていると思います。
日本は今、重大な局面を迎えていると思います。国民的規模で取り組まなければ間に合わない程に危機的な時代に立ち至った、という迫りを感じます。教育が荒廃して人間がまともに育たない現実に直面して、みんな立ち往生しているのです。そんな中で私がたずさわっている人生道場、人間教育の惠泉塾が注目され、関心を集めています。私は惠泉塾で学び得た人間教育の大事なポイントを国民全体の共有財産に加えてもらいたい、と切望しています。国民みんなで、惠泉塾のような人間教育の共同生活体を全国各地に生み出し、荒廃した日本を緑の沃野に変えていかなければならぬと、切実に考えています。
幸い、もう既に十五人ほどの方々が、名乗りを上げてくださっています。私はこの方々と定期的に会合を持って、それぞれの個性にふさわしい独自の特徴をもった生活共同体作りに協力していきたい、と願っています。この本を読まれて、ご自分でも始めてみたいと志を立てられる方がおられたら、望外の喜びです。ぜひ、私たちの戦列にお入りください。私たちは自分の命を輝かせるために、この聖なる戦いに参加しているのではありません。ここに自分にふさわしい命の捨て場所を見いだして、戦列に加わったのです。自分を生かすために、ではなく、隣人のために身を捨てようとして名乗りを上げてくださるなら、どんなに有り難いことでしょう。私はそんな盟友の出現を心から待ち望んでいます。
二〇〇三年二月十日 札幌にて
改訂新版出版にあたり
これは、ほぼ十年前に出した同じタイトルの本に新たに三本の講演記録を足したものです。絶版になって久しく、求める読者も大勢いらっしゃる中で、再版が待たれていました。
惠泉塾は大きく発展し、余市以外、全国各地に開設され、それを守り支える盟友は三百人に及んでいます。有り難いことです。
この本は、そうした方々にとっても、惠泉塾を貫く普遍的なスピリットを汲み上げる貴重な寄り所になる、と思います。
惠泉塾の活動に関心を持たれる全ての皆様と教育に関心を持たれる方々が、この本から何かしら役立つ知恵を得られたら、著者の幸せ、これに過ぎたるは無し、と存じます。
二〇一二年十二月七日