紹介
『はだしのゲン』はいかにして戦争マンガの正典となったのか。『男たちの大和/YAMATO』になぜ、感動が見出されるのか。広島や沖縄の「戦後」とは何だったのか。戦争表象から戦時・戦後の博覧会、民族学や日本主義の変容まで、近代日本における戦争・知・メディアの編成と力学を多様なテーマで描き出す、歴史社会学の濃密なエッセンス。著者10年間の主要論考1000枚をここに集成。
「マス・メディアでの言説であれ、体験者の思想や情念であれ、その戦後史を時系列的に精緻に整理し、複数の地域(戦争体験)の状況を比較対照する作業は、ある意味ではようやく始まったばかりである。それらをふまえつつ、自らが指弾されない後世の価値規範に依拠せずに、いかにその時代の限界や可能性に内在的に向き合うことができるのか。「戦争の語り」の歴史社会学は、これらの検証を通して、「戦争」を語る現代のわれわれの足場の問い直しを促すものである。」(本書より)
目次
プロローグ 「戦争」をめぐる言説変容――体験論とメディアの力学
一 戦争観とメディア
二 体験記の系譜
三 体験を語る力学
第Ⅰ部 ポピュラー文化のなかの戦争
第1章 「はだしのゲン」のメディア史
一 原爆マンガの成立
二 単行本の発刊と学校への流入
三 大衆マンガ誌から左派雑誌へ
四 「メディア=器」が創る「正典」
第2章 『男たちの大和』と「感動」のポリティクス――リアリティのメディア論
一 リアリティと不可視化
二 物語への回収
三 物語への抗い
第3章 「軍神・山本五十六」の変容――映画『太平洋の鷲』から雑誌『プレジデント』まで
一 「軍神」というアジェンダ
二 教養としての「連合艦隊」
三 「軍神」の蘇生と正典化
第Ⅱ部 焦土の思想とメディア
第4章 戦後初期の「八・六」イベントと広島復興大博覧会――「被爆の明るさ」のゆくえ
一 「八・六」と祝祭
二 「祝祭」の翳り
三 「平和利用」への希望
四 「ヒロシマ」の生成と変容
第5章 戦後沖縄と「終戦の記憶」の変容――「記念日」のメディア・イベント論
一 戦争終結と記念日
二 帰属論議と土地闘争
三 復帰運動の隆盛と「反復帰」
四 記念日の社会的構築
第6章 日琉同祖論の変容と沖縄アイデンティティ――「同祖」のなかの「抵抗」
一 同化論と沖縄学の誕生
二 戦後における「同祖論」の位相
三 本土復帰をめぐって
四 日琉同祖論に照らされる「齟齬」
第Ⅲ部 知・宣伝・ナショナリティ
第7章 戦時博覧会と「聖戦」の綻び
一 博覧される総力戦
二 「福祉」と「省資源」の戦時科学
三 国防科学とメディア・イベント
四 アウラによる「聖戦」の脱臼
第8章 「博覧会のメディア論」の系譜
一 大阪万博の高揚と博覧会研究の低迷
二 情報社会論・都市文化研究との接合
三 カルチュラル・スタディーズとポスト・コロニアル研究の視座
四 戦後政治と開発イデオロギーへの問い
第9章 民族知の制度化――日本民族学会の成立と変容
一 民族学会前史
二 日本民族学会の成立
三 財団法人民族学協会と国立民族学研究所
第10章 英語学の日本主義――松田福松の戦前と戦後
一 松田福松と英語学
二 英語学と原理日本主義の架橋
三 英語学に媒介される原理日本の戦前と戦後
第11章 社会通信教育のメディア史――「ノン・クレディットの知」の欲望
一 文部省認定制度の誕生と「地方改良の知」
二 高度経済成長と生産工学の前景化
三 「ノン・クレディットの知」の駆動因
エピローグ――「内側の住人の実感」への問い
あとがき
初出一覧
人名索引