紹介
人びとの関心を喚起する
未知の学域は、
なお豊かに存在する
日本文学とその研究がこれまでに担ってきた領域、これから創造していく可能性をもつ領域とは何か。
人文学としての文学が人間社会に果たしうる役割に関して、
より豊かな議論を成り立たせるには、これからどうしていけばよいのか。
日本文学の窓の向こうに広がるものの総体を捉えようとするシリーズ、「日本文学の展望を拓く」第4巻。
【執筆者】鈴木 彰/宮腰直人/小峯和明/前田雅之/野中哲照/水谷隆之/杉山和也/佐伯真一/王 成/谷山俊英/李 愛淑/加藤 睦/陳 燕/竹村信治/柳川 響/小川豊生/ハルオ・シラネ/深沢 徹/李 市埈/デイヴィッド・アサートン/徐 禎完/會田 実/クレール=碧子・ブリッセ/ニコラエ・ラルカ/周 以量/志村真幸/松居竜五/田村義也/ツベタナ・クリステワ
目次
緒言──本シリーズの趣意──(鈴木 彰)
総論―― 往還と越境の文学史にむけて――(宮腰直人)
1 はじめに/2 文学史の領域(第1部)/3 和漢の才知と文学の交響(第2部)/4 都市と地域の文化的時空(第3部)/5 文化学としての日本文学(第4部)
第1部 文学史の領域
1 〈環境文学〉構想論(小峯和明)
*環境文学、文学史、二次的自然、樹木、生命科学
1 古典と近代の架橋/2 今、なぜ、〈環境文学〉か?/3 〈環境文学〉の対象と方法/4 〈環境文学〉の範型/5 「二次的自然」の位相差/6 〈環境文学〉点描―樹木をめぐる断章/7 遍在する〈環境文学〉―今後の展望
2 古典的公共圏の成立時期(前田雅之)
*古典的公共圏、古典注釈、源氏物語、古今集、後嵯峨院時代
1 はじめに/2 俊成の古典意識/3 古典注釈の始動/4 後嵯峨院時代前後─古典的公共圏の成立/5 おわりに
3 中世の胎動と『源氏物語』(野中哲照)
*身分階層流動化、院政、先例崩し、養女、陸奥話記
1 はじめに―准太上天皇の創出を起点として―/2 『源氏物語』内部の過去相・現在相・未来相―身分階層の流動化を捉える―/3 厳然とした身分秩序―過去相―/4 身分階層流動化の萌芽―現在相―/5 さらなる流動化願望―未来相―/6 〈先例崩し〉の先例としての『源氏物語』/7 おわりに―次代の到来を誘引した『源氏物語』―
【コラム】 中世・近世の『伊勢物語』――「梓弓」を例に――(水谷隆之)
*『伊勢物語』、絵巻、和歌、古注釈、パロディ
1 中世の伊勢物語絵と近世のパロディ本/2 『伊勢物語』古注釈の理解/3 伊勢物語の解釈と創作
4 キリシタン文学と日本文学史(杉山和也)
*キリシタン文学、日本語文学、言語ナショナリズム、日本漢文学、国民性
1 はじめに/2 日本文学史に於けるキリシタン文学の位置付け/3 キリシタン文献研究史に於けるキリシタン文学の位置付け/4 日本文学史と、その要件としての日本人/5 キリシタン文学から「日本文学史」を問い直す/6 おわりに
【コラム】 〈異国合戦〉の文学史(佐伯真一)
*異国合戦、異国襲来、侵略文学、異文化交流文学史、敗将渡航伝承
1 はじめに/2 神話世界の征夷と神功皇后説話/3 蒙古襲来と〈異国襲来〉伝承/4 一六〜一七世紀の〈異国合戦〉と文学/5 敗将渡航伝承/6 おわりに
5 近代日本における「修養」の登場(王 成)
*近代日本、修養、修養雑誌、伝統、儒学
1 はじめに/2 近代における「修養」概念/3 修身教育と「修養」/4 煩悶の救済と「修養」/5 古典の再興と「修養」/6 雑誌『修養』の登場/7 おわりに
6 『明治往生伝』の伝法意識と護法意識――「序」「述意」を中心に――(谷山俊英)
*中世往生伝、明治期往生伝、大教院体制、中教正吉水玄信、伝法意識・護法意識
1 往生伝研究の新たな課題と明治期往生伝/2 廃仏毀釈・大教院体制と明治期往生伝/3 『明治往生伝』の特質―先行研究から/4 『明治往生伝』の構成と「序」「述意」/5 中世浄土門徒の伝法意識・明治維新後の護法意識/6 結語―『明治往生伝』の伝法意識と護法意識
第2部 和漢の才知と文学の交響
1 紫式部の内なる文学史―― 「女の才」を問う――(李 愛淑)
*女の才、諷刺、二つの文字、二つの世界、雨夜の品定め
1 はじめに/2 「あやし」─二つの世界/3 「才ある人」─二つの文字/4 「女の才」を問う/5 むすびに
2 『浜松中納言物語』を読む―― 思い出すこと、忘れないことをめぐって――(加藤 睦)
*後期物語、日記、私家集、平安時代、回想
1〜6
3 『蜻蛉日記』の誕生について──「嫉妬」の叙述を糸口として──(陳 燕)
*『蜻蛉日記』の誕生、女性の嫉妬、和歌、日記、叙述機能
1 はじめに/2 『古事記』及び平安初期物語作品に語られる女性の嫉妬/3 中国古代文学作品に描かれる女性の嫉妬/4 『蜻蛉日記』に語られる道綱母の嫉妬/5 嫉妬の叙述─和歌から日記へ/6 おわりに
【コラム】 〝文学〟史の構想――正接関数としての――(竹村信治)
*文学史、正接関数、翻訳、心的体験の深度、文学
4 藤原忠通の文壇と表現(柳川 響)
*藤原忠通、和歌、歌合、漢詩、連句
1 はじめに/2 藤原忠通の人物と才学について/3 藤原忠通の文学的活動の背景/4 忠通の和歌と漢詩の表現方法/5 おわりに
5 和歌風俗論──和歌史を再考する──(小川豊生)
*和歌史、風俗、国風文化、古今集、歌枕
1 はじめに/2 和歌史と風俗/3 「国風」から「国風」へ/4 新「国風文化論」のために/5 受領層歌人論の視座から/6 風俗あるいは非ブンガクの地平/
【コラム】 個人と集団―― 文芸の創作者を考え直す――(ハルオ・シラネ)
*個人、集団、作者性、文芸、芸能
第3部 都市と地域の文化的時空
1 演戯することば、受肉することば―― 古代都市平安京の「都市表象史」を構想する――(深沢 徹)
*都市、差図(さしず)、猿楽、漢字・ひらがな・カタカナ、象徴界・想像界・現実界
2 近江地方の羽衣伝説考(李 市埈)
*羽衣伝説、天人女房、余呉の伝説、菅原道真、菊石姫伝説
1 序論/2 桐畑太夫と天女/3 菅原道真と菅山寺/4 菊石姫と雨乞い/5 結論
【コラム】 創造的破壊――中世と近世の架け橋としての『むさしあぶみ』――(デイヴィッド・アサートン)
*仮名草子、浅井了意、むさしあぶみ、災害文学、時代区分
3 南奥羽地域における古浄瑠璃享受―― 文学史と語り物文芸研究の接点を求めて――(宮腰直人)
*語り物文芸、地域社会、文学史、羽黒山、仙台
1 はじめに/2 金平浄瑠璃のなかの逆臣達/3 金平浄瑠璃から奥浄瑠璃へ―〈羽黒山〉言説の展開/4 南奥羽地域の古浄瑠璃享受/5 まとめにかえて
4 平将門朝敵観の伝播と成田山信仰―― 将門論の位相・明治篇 ――(鈴木 彰)
*平将門、成田山信仰、明治期、日清戦争、霊験譚の簇生
1 はじめに/2 成田山信仰の拡大―成田山縁起と叛賊将門―/3 鉄道の開通―縁起の再編成とさらなる伝播―/4 開帳と出張所―東京・成田往還―/5 新たな霊験譚の簇生―日清戦争と成田山信仰―/6 おわりに
5 近代日本と植民地能楽史の問題―― 問題の所在と課題を中心に――(徐 禎完)
*植民地能楽史、近代能楽史、能・謡、文化権力、植民地朝鮮
1 はじめに/2 近代日本と植民地、文化権力と伝統/3 語られない戦時期の能楽史/4 近代学問としての芸能史―むすびにかえて
第4部 文化学としての日本文学
1 反復と臨場―― 物語を体験すること――(會田 実)
*反復、臨場、追体験、バーチャルリアリティ、死と再生
1 はじめに/2 反復と臨場、事実と伝承/3 語り物と反復・臨場/4 反復と臨場の希求
2 ホメロスから見た中世日本の『平家物語』――叙事詩の語用論的な機能へ――(クレール=碧子・ブリッセ)
*『平家物語』、ホメロス、語用論、エノンシアシオン、鎮魂
3 浦島太郎とルーマニアの不老不死説話(ニコラエ・ラルカ)
*浦島太郎、不老不死、説話、比較、ルーマニア
1 不老不死説話の広がり/2 ルーマニアの不老不死説話/3 浦島太郎との相違
4 仏教説話と笑話──『諸仏感応見好書』を中心として──(周 以量)
*仏教説話、笑話、『諸仏感応見好書』、仏典、『今昔物語集』
1 『見好書』における笑話の実態/2 仏教説話としての笑話/3 仏典における笑話的なもの/4 『今昔物語集』における笑話的なもの/5 『見好書』における笑話の意味
5 南方熊楠論文の英日比較―― 「ホイッティントンの猫――東洋の類話」と「猫一疋の力に憑って大富となりし人の話」――(志村真幸)
*南方熊楠、比較説話、猫、雑誌研究、イギリス
1 ホイッティントンの猫/2 『N&Q』と「ホイッティントンの猫――東洋の類話」/3 『太陽』と「猫一疋の力に憑って大富となりし人の話」/4 『N&Q』と『太陽』―イギリスと日本
6 「ロンドン抜書」の中の日本―― 南方熊楠の文化交流史研究――(松居竜五)
*南方熊楠、ロンドン抜書、南蛮時代、平戸商館、文化交流史
1 南方熊楠の日本観と「ロンドン抜書」/2 「ロンドン抜書」における日本関連文献/3 南蛮時代の記録/4 三浦按針の見た日本/5 平戸商館などの記録/6 鎖国期以降の記録/7 「ロンドン抜書」中の日本関係文献の意義
【コラム】 南方熊楠の論集構想――毛利清雅・高島米峰・土宜法龍・石橋臥波――(田村義也)
*南方熊楠、毛利清雅、高島円(米峰)、土宜法龍、石橋臥波
1 はじめに/2 毛利清雅と高島米峰/3 土宜法龍宛て書簡をめぐって/4 南方熊楠と石橋臥波/5 おわりに
【コラム】 理想の『日本文学史』とは?(ツベタナ・クリステワ)
*文学史の概念化、ロスト・イン・トランスレーション、「脱哲学的中心的」な「知の形態」、パロディとしての擬古物語、メディアとしての和歌
1 問題の確認/2 枠組みと用語の問題/3 アプローチの問題/4 文学の位置づけの問題/5 果たして、理想の日本文学史は可能なのだろうか?
あとがき(小峯和明)
全巻構成(付キーワード)
執筆者プロフィール
索引(人名/作品名・資料名)
前書きなど
問題の基本は、古典が古典であるのは常に現代であり、古典を生かすも殺すも今を生きている我々次第であることだ。古典とは、つまらない、意味のないものとされれば、そのまま跡形もなく消えてしまうような代物である。汲めどもつきない古典のおもしろさや豊かさ、その意義や価値を、いかに未来を生きる若い人達に伝えうるかが問われている。既知の既成の文学をそのまま伝えるのではなく、常にそこに新しい意味や意義を見出し得るかどうかにかかっている。あるいは今では忘れ去られたもの、埋もれてしまったものを再発掘してその意義を見出し、喧伝したりする、知の考古学的な作業がもとめられよう。そうした営為が古典を生かす元手となるだろう。…あとがき(小峯和明)より