紹介
宮廷世界は何を生み、守り伝えてきたのだろうか。
陽明文庫からその真髄を学ぶ。
世界記憶遺産『御堂関白記』をはじめ、近衞家の名宝10万件を伝える陽明文庫。奈良・平安初期から近代まで、あらゆる時代の資料を揃える文庫の全貌に迫り、貴重な書物の数々を読み解く。藤原氏嫡流として、常に朝廷の中枢にいた近衞家の史料から、どのような政治の動きがみえるのか。どれほどの素晴らしい芸術品が伝えられているのか。日本が世界に誇る宮廷文化の真髄を披露する。名宝掲載の口絵カラー8頁付き。
執筆は、名和修(陽明文庫理事・文庫長)/田島公(東京大学史料編纂所教授)/湯山賢一(奈良国立博物館長)/北啓太(元宮内庁京都事務所長)/朧谷寿(同志社女子大学名誉教授)/五味文彦(東京大学名誉教授)/尾上陽介(東京大学史料編纂所教授)/本郷恵子(東京大学史料編纂所教授)/藤井讓治(京都大学名誉教授)/島谷弘幸(九州国立博物館長)/芳村弘道(立命館大学教授)/金田章裕(京都大学名誉教授)/名和知彦(陽明文庫事務長)/粕谷真里子(東京大学学術支援職員)。以上、執筆順。所属等は二〇一六年四月一日現在。
【本書は、財団法人陽明文庫の全面的な協力を得て、二〇一一年一月より開催している「陽明文庫講座」を書籍化するものです。素晴らしい講師の方々が講演をもとに新たに書き下ろしたものを中心にまとめました。本書口絵にあるように、陽明文庫には多種多様な名宝が収蔵されていますが、そのなかから貴重な書物を対象に、新しい発見の報告をはじめとして、最新の研究成果をわかりやすく社会に還元する興味深いものばかりです。
「陽明文庫講座」と銘打った連続講座は財団法人創設以来、初めてのことであるそうで、千年の至宝を伝える近衞家陽明文庫に関わる「宮廷文化学」の入門ともいうべき書です。】…「はじめに―本書をお読みいただく方に」より
目次
●カラー口絵 近衞家陽明文庫が誇る至宝の数々
「倭漢抄(和漢朗詠集)」下巻 伝藤原行成筆(国宝) 平安時代 11世紀
「類聚歌合(二十巻本歌合)」 巻第十一(国宝) 平安時代 12世紀
「御堂関白記」寛弘4年(1007)8月 藤原道長自筆(国宝・世界記憶遺産)
「神楽和琴秘譜」伝藤原道長筆(国宝) 平安時代 10世紀末〜11世紀初
「李嶠雑詠」断簡 伝嵯峨天皇筆(「大手鑑」近衞家凞編)
「宮城図」(重要文化財) 鎌倉時代 元応元年(1319)
「源氏物語 空蟬」(重要文化財) 鎌倉時代 14世紀
「春日権現霊験記絵巻」巻四 詞書:近衞家凞筆 絵:渡辺始興画 江戸時代 享保20年(1735)
「四季花鳥図屏風」(左隻) 酒井抱一筆 江戸時代 文化13年(1816)
「儛絵(信西古楽図)」室町時代 宝徳元年(1449)
銀細工雛道具 江戸時代 19世紀
宮廷のみやびを伝える陽明文庫―序にかえて…名和修
はじめに―本書をお読みいただく方に…田島公
Ⅰ 近衞家と文庫の歴史
1 陽明文庫の沿革―成り立ちといまのありよう…名和修
一 近衞家の歴史
二 貴重な所蔵品群
三 継承の労苦
四 未来へ向けて
[近衞略系譜/陽明文庫所蔵歴代関白記/近衞家家司・関連の深い家柄の公家の日記の例/陽明文庫目録分類項目一覧]
2 『摂関家旧記目録』の筆者は藤原忠実か―摂関家再興の象徴…湯山賢一
はじめに
一 自筆と右筆
二 料紙の特徴
三 記載内容について
四 記載の順序の意味
五 摂関家略系図
六 「殿」箱の成立は何時か
七 記載の事実比定
むすび
3 禁裏文庫と近衞家―江戸・明治期の様相…北 啓太
はじめに―禁裏文庫と東山御文庫
一 江戸時代前期における禁裏文庫の再興と『槐記』の記述
二 蔵書・文庫の維持
三 東山御文庫本中の近衞家歴代
四 明治時代における東山御文庫の形成と近衞忠凞
おわりに
Ⅱ 世界記憶遺産『御堂関白記』の世界
1 『御堂関白記』の魅力あれこれ…名和修
一 世界最古の自筆日記
二 具注暦とは
三 金峯山参詣
四 藤原公任との贈答歌
五 一条天皇の辞世
六 望月の歌の顛末
七 『御堂関白記』の「不思議」
2 藤原道長『御堂関白記』が語る栄華の真実―三代の天皇を孫で独占するまで…朧谷寿
はじめに
一 誕生、二人の実兄の死、そして政権の座へ
二 賜姓皇族の二人の妻と子女
三 嫡男頼通と春日祭使
四 外孫の誕生と喜びに沸く土御門殿
五 一条天皇の崩御
六 三条天皇の中宮妍子
七 孫の天皇に三女が入内
八 後一条天皇の出現と望月の歌
3 『御堂関白記』と『枕草子』…五味文彦
はじめに―二つの書物の関係
一 『枕草子』を考える
二 『枕草子』の「枕」
三 道長と清少納言
四 清少納言の立場
五 春は曙
おわりに
Ⅲ 朝廷を支えた近衞家―歴代当主と家司たち
1 『兵範記』紙背文書やその他の断簡からの発見…尾上陽介
一 『兵範記』紙背文書から
二 陽明文庫所蔵の断簡から
【付表】陽明文庫所蔵『兵範記』(十五函文書第十一函・第十二函)
2 南北朝時代の公武関係―『後深心院関白記』にみる足利義満の成長…本郷恵子
はじめに
一 『後深心院関白記』とは?
二 公家政権―後光厳天皇から後円融天皇へ
三 武家政権―足利義満と細川頼之
四 永和元年の状況
五 公武の交渉
六 室町幕府の構想
七 道嗣の晩年
3 織豊期の近衞家をめぐって―前久と信尹の武家的性格…藤井讓治
はじめに
一 前久・信尹の略歴
二 前久の下国・在国
三 信尹の在国
おわりに
Ⅳ 書跡・漢籍・古地図の貴重書をさぐる
1 近衞家の書跡―その価値と魅力…島谷弘幸
はじめに
一 近衞家伝来の宸翰
二 近衞家と公家日記
三 宮廷貴族の教養と調度手本
四 道長の書と信仰
五 近衞家と学芸
六 近衞家凞(予楽院)と書
さいごに
2 陽明文庫の漢籍―優品三十六点を厳選解説…芳村弘道
はじめに
一 中世漢学と関連する古版本・古写本
二 近衞家凞の学芸の諸相を伝える漢籍
3 「宮城図」をめぐって―九条家本・陽明文庫本・東山御文庫本への系譜…金田章裕
はじめに
一 九条家本『延喜式』「宮城図」と「左・右京図」
二 陽明文庫本「宮城図」
三 東山御文庫本「大内裏図」と「宮城図」
四 「宮城図」諸図の系譜
Ⅴ 陽明文庫の現在―未来へ向けて
1 公益財団法人陽明文庫の事業活動…名和知彦
2 「陽明文庫講座」実施記録…粕谷真里子
3 陽明文庫と学術創成研究―目録学研究の進展と古典学の再生のために…田島公
執筆者紹介